名前
巨大カラスは天高く舞うとカーリヤめがけて滑空してきた。
鎌首をつかまれ、悶絶するカーリヤ。
悲鳴をあげながら毒の炎をまきちらす。その強烈な瘴気に巨大カラスも一時離脱する。
カーリヤと同じように炎を吐く巨大カラス。
その炎は金色で神々しく、またたくまに毒の炎は浄化されていく。
毒の炎に浄化の炎。
これではまるで自分たちが悪役だな、とヒラキンは思うが、そんなことは今更だ。
カーリヤと巨大カラスが戦闘にはいったが、どう見てもカーリヤが不利だ。
「プレセぺ、隠れていて」
カーリヤを見捨ててプレセぺと逃げることも検討したが、使命を果たすためにはカーリヤは必要な存在だ。もうあまり時間もない。
力は神と崇められるにふさわしいところまできつつある。性格も従順。ここで失うのは惜しい。
それにプレセぺもカーリヤのことを気に入っている。カーリヤを見殺したらプレセぺが悲しむ。
確かに烏の力は強いが、対処できないほどではない。
カーリヤとの契約を勝ち取ったのはヒラキンにも力がある。協力して戦えばば勝てない相手ではない。ただ問題があるとすればお腹の3つの反応だ。
プレセぺは3つの力、内1つが強力と言っていた。
だが、ヒラキンには3つともが強力な力に見える。それも巨大カラスよりも強力な。
プレセぺ同様、ヒラキンも天使の瞳をもっているが、能力が異なる。
ヒラキンが見ることができるのはその潜在能力だ。
この巨大カラスの中にいる3つの存在は潜在的にこのカラスを超える力を持っている。
そんな3体が素直にこいつに食われたのか?
もちろん潜在能力は潜在能力で顕在しないまま終わることがある。むしろそちらのほうが多い。
プレセぺが小さな力というならまだ力をつける前に食われてしまったということなのだろうが、力を隠しているだけの可能性もある。注意しなくてはならない。
バジリスクをあやつり巨大カラスの死角にはいりこむ。
カラスの力がカーリヤと同等以上ということから考えて、普通の剣が通じる相手ではないだろう。
「わが身に眠る天界の力よ、剣に宿りて敵を滅ぼせ」
ヒラキンは剣に魔力を宿す。
魔力を持った人間は天界に連れ去られるというが、亜人はその限りではない。いまだヒラキンに天使の力は完全に発現しておらず、翼もないが、悲しいかなあの女の子供だ。人間ではない。
ヒラキンには人の中に交じれば脅威と恐れられる力を持っていた。
一撃で首を切り落とす。
巨大カラスが隙を見せる一瞬を待つ。
カーリヤがヒラキンに気づいた。隙をつくって誘導する。
巨大カラスは勢いをつけカーリヤの急所を狙う。
ここだ。
この速度ならかわせまい。ふるった剣だが、むなしく空を切る。
外れた?
明らかに物理法則から外れた動きをされた。どうやら、今までの攻撃全てが本気ではなかったらしい。
「主よ・・・こうなったら覚悟を決めてはくれまいか」
カーリヤがヒラキンを守るように巨大カラスの前に立つ。
「我の試練の本当の資格をうけとってはもらえまいか」
カーリヤは、ある英雄の冒険譚に登場する魔物であるらしい。ゆえに、カーリヤに認められるということは、その英雄の名前を受け継ぐ資格をえるということでもある。
しかし・・・
「あの娘のことを気にしているのか?前にも言ったが、我が主の名を受け継ぐということは、あの娘を救うということにもなるのだ」
名前を受け継げば、その能力と共に、その宿命もまた、受け継ぐことになる。
力は手に入る。でももう使命ははたせなくなる。
「我が主は、あまたの女性と浮名を流し、そして幸せにしてきた。かの娘も救うことができよう」
カーリヤは何も知らない。だからそう言う。それは無理なのだ。なぜなら彼女はもう・・・
ヒラキンは首をふる。
「主よ・・・」
プレセぺだけではない。自分たちの物語はとっくに終わっているのだ。
「俺がほしいのは別の名前だ」
天使の瞳を使って天使の力にアクセスをかける。本来なら、天使の力があるから瞳の力を使うことができる。
今ヒラキンはその逆の行為だ。
天使の瞳が使えるから天使の力もある、だからそれをたどって天使の力を自分で引き出すのだ。
ヒラキンは成人を迎えても天使の力は発言しなかった。
体の負担は尋常ではない。しばらく動けなくなるだろう。
カーリヤを召喚したままにしては置けなくなる。
その間プレセぺを守れるものがいなくなることだけが気がかりだが・・・その間くらいならバジリスクでなんとかなるはずだ。
この蛇の王は通常のバジリスクとは違う。
あの忌まわしい母親からの譲り物だ。
ヒラキンの力が失われても消えることはない。
プレセぺを守るようバジリスクに命令する。
あいつの願いをかなえるためにこうしてやっているのだ。それくらいやってもらわねばならない。




