教えられる前から知っていたこと
「もうそろそろか」
盗賊の頭目であるジェイドは部下に指示をおくる。
ロレンスの馬車の興奮は落ち着き、歩くように歩行しているだけだ。
馬を興奮させぬよう、扱いになれたものを先に行かせ、その後10人で馬車を取り囲む。
見た限りでは怪我を負っているのは魔法使い、従者、ロレンスの3人。娘は傷ついていないはずだ。
今回の襲撃の目的は娘だ。アルメリアがそう言っていた。
その他は好きにしていいらしいが、損害がすくなければそのほうが高く売れる。
アルメリアは悪魔だ。本人がそう言っていた。そして実際自分に力を与えた。
彼女が欲しているのは人間の魂だ。基準は分からないが、価値のある魂と価値のない魂があるらしい。彼女の望む通り魂をやれば、大きな力を与えられる。ジェイドにも盗賊団にも。
盗賊たちがつかっている魔道具の馬車はアルメリアが用意したものだ。そうでなければ、ただの辺境の盗賊たちがこんな魔道具を所持できるわけはない。
出発して2か月たった馬車に1か月で追いつけたのもこの馬車のおかげだ。
アルメリアが力を貸してくれるのはジェイドに惚れているからだと彼女は言っている。見え透いた嘘だ。だがそれならそれでもいい。理由などどうでもいいのだ。
実際に彼女は力を与えてくれる。もっと大きな後ろ盾へとジェイドの名前を通してくれている。
最初から命などあってないようなものだ。いけるところまでいって死ぬだけだ。
「いけるところまでいって死ぬだけ、か」
ジェイドは自分の台詞に苦笑いする。
つい半年までそんなことは考えていなかった。
生きること、生き抜くことがすべてだった。だからロレンスが天界落ちの魔法使いと行動を共にしたとき、眉唾物だと思いつつも襲うのは見送った。
アルメリアと出会ってからの自分はどうもおかしい。
恐れることがなくなった。
「坊ちゃん!」
ガブスが慌てて駆け寄ってくる。カ゚プスは父の代から俺に使えている。古株だ。面倒見がよく。部下からの信頼も厚い。戦闘の実力もこの中では一番だろう。だがジェイドはそれが嫌で嫌で仕方なかった。
仲間内では優しく接することができるのに獲物相手にはとことん冷淡になれることが、そしてその戦う理由は万人が万人悪と名指される行為であることが、嫌で嫌で仕方なかった。
盗賊はもともと、土地のやせた村人が生きるために始めたことだ。まとめたのはジェイドの親父。
その理由の一つにジェイド自信があった。ジェイドは生まれつき病弱で、生きるために高額な薬が必要だった。
たまたま勇者が立ち寄ってジェイドを完治させなければ、もっと早くに亡くなる運命だった。
勇者は目の前に困った人がいれば助けるのは当然だと言っていた。
とても正しいことだ。自分もそうなりたかった。
ジェイドが助かり父が改心して盗賊がいなくなればよかったのに実際にはそうはならなかった。それどころか今やジェイドが頭目だ。
勇者が再び現れれば、ジェイドは打たれる側だろう。仕方のないことだ。そのときはせいぜい勇者が苦しまぬよう仮面をつけて戦ってやることにしよう。負ける気はないけれど。
「坊ちゃん!娘が、刺されてやがる!」
!?・・・予想外のことが起きた。
ロレンスは元奴隷商だという。奴隷がどんな目に合うか知っている。だからおいつめられてもそんなことにはならないと思っていた。奴隷にだって権利はあるのだ。奴隷になったからって人生が終わるわけではない。
中には、例外的に奴隷を物のように、物よりひどく使い潰す人間もいるが、そんな人間は一握りのはずだ。
盗賊をやる前には、自分たちの村も子供を売ることをしていたという。そうでなければ、自分たちの村だって子供を売り飛ばすなんてしなかった。
「まいったな。」
ジェイドは馬車のなかに移動する。
瀕死の人間が3人。すでに死亡しているのが1人。
死亡してるのは天界落ちという魔法使いだ。
今回の仕事の最大の障害だったため急所を外す余裕がなかった。
アルメリアにもらった石の魔道具「悟り見る心の女神」でほかの3人を治療する。
ジェイドは生まれつき病弱で治りたいという思いがつよかったせいか、治癒の真道具に適性があるようだ。
だが、死んでしまっては魔法使いはさすがに治せない。
そういえば魔法使いの身体は高く売れるとも聞くが、そこまで非道にはなりきれそうにない。
むしろ、余裕があれば埋葬してやりたかったが、ここは最果ての地だ。
アルメリアにもらった魔法の水晶でモンスターに遭遇することはなかったが、今は血のにおいもただよっている。長居するわけにはいかない。
「つまらないウソをつくからだぞ」
遺体を放置するとたむけに銅貨を放り投げた。
とりあえず誤字修正。




