勇者の教えというよりは
ロレンスは盗賊達の動きが変わっていたことに気が付いていた。
降り注いでいた矢はもうやんでいる。盗賊たちは馬車を囲むように移動している。
馬を疲れさせて、動きの止ったところを襲う気だろう。
最果ての地に邪魔する誰かがとおりすがるはずもなく、馬は生捕ったほうがいい。
当然と言えば当然か。
生け捕りが目的なのは自分たちとて同じだ。つかまった後のことを想像する。
まず魔法使いの男は体を切り刻まれバラバラにされるだろう。魔法使いの体はよい魔法の媒介になるという。
魔法が衰退したとはいえ、まだそれに頼る国も存在する。そういった国に売りとばされるのだ。
次に従者は砂漠に放置されるだろう。生きているのか生きていないのかわからないが、傷は深いことは確実だ。わざわざ怪我を治すより放置した方が安上がりになる。盗賊に優秀な治療魔法でも使える奴がいれば別だが、そんな力を持っていたら盗賊などやってはいないはずだ。
ロレンス自身は、肩の怪我がの程度による。深くないのなら治療され、奴隷として売られるし、深ければ従者と同じ道を歩むことになる。
最後にリューネは・・・盗賊の慰み者になるか奴隷として売られるかのどちらか。
せめて娘だけは助けてやりたい。
リューネの母は奴隷だった。
当時ロレンスは計算の速さを買われて奴隷市場の第14地区のエリアマネージャーを任されたばかりだった・・・
ロレンス自身は街の外の生まれで、痩せた田畑を耕すだけの生活。計算など教えられるはずもなかったが、偶然そこを訪れた勇者様というのが変わり者で、計算の仕方を教えてくれた。
勇者は当時村にいた子供たちに勉学の大事さと道徳の大切さを教えてさっていった。
村から子供が売られることもあると知ると、この世界には奴隷制度があるがそれはいけないことであるともいっていた。
それを鵜呑みにしたものは、貴重な計算という能力を持ちながら、妙なプライドを捨てられず身を亡ぼしていった。
プライドというのは、自分は勇者の教えを受けた。だから人より優れている。この世界にある汚いものにはふれなくても許されるという思い込みのことだ。
彼らは勇者様の真の意図がわからなかったのだ。
勇者様は言っていた。奴隷制度は金になるが、そんな制度はいけないことだと。
それは誰かを奴隷にするなどひどいうことは許されない、ということではない。
金になるから利用すべきだが、それに染まるなということだったのだ。ロレンスはそう思っている。だってそうだろう、勇者に言われなければ奴隷商がもうかる仕事だなどと考えることもなかったのだから。
勇者様の忠告により奴隷商がもうかる仕事であるということを知ったロレンスは、その末端から始め徐々に頭角を現していった。そして、エリアマネージャーの地位を得て、好きな奴隷を着服できる権利を得て、そして彼女と出会ったのだ。
彼女は街の出身だった。親の借金で売られたのだという。性格も大人しく、従順だった。自分の立場もよく理解していた。ロレンスが彼女を愛するのに時間はかからなかった。
一緒に町に住みたいとも思った。でも、それは許されないことだった、だって勇者は言ったのだから。
奴隷制度は許されないことだと。
奴隷だった彼女は許されない人間だったのだ。どんなに愛したとしても、奴隷であった以上、彼女の存在は決して許されることはないのだ。
例え奴隷から解放し、妻としてめとり、子供を身ごもったとしてもその過去は消えることはない。
だから、流行病をこじらせて亡くなった時は悲しくもあったが少しほっともしていた。
リューネは妻を奴隷から解放して妻にした後にできた後の子供だ。彼女に罪はない。
なんとか彼女は助けなければならない。
助けるすべがあるのなら・・・娘の指にはめられたひびの入ったアミュレットをじっと見つめる。
それは彼女が生まれた時からずっと外したことのないもの。
彼女の母親。つまりロレンスの最愛の人からの贈り物。
そして・・・ロレンスにこの旅を決意させた原因になったものだった。
ロレンスは大切な我が子と離れたくなかった。
けれど、もしリューネがつかまり奴隷になってしまったら、そもそもロレンスの守りたかったものはなくなってしまうのではないだろうか?
ロレンスは護身用のナイフをうつろな人目で見つめる。




