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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
38/266

馬車

 砂漠の中を馬車が走る。

 通常の馬車ならば砂漠の中を、こんな勢いで走り抜けることなどありえないことだ。

 それを可能にしているのは魔法具「天架ける霊柩の歯車」の力だ。


 魔道具とは魔法を使えない人間が魔法を使うための補助具のこと。

 そのオリジナルは適正さえ合えば本来の魔法以上の力を引き出すこともできたというが、現在出回っているのはそのレプリカを、さらにまねてつくられた模造品にすぎない。


「天架ける霊柩の歯車」はその昔、「天界の使い」が神の資質のある存在を天界に運ぶ時に使われていたと言われている馬車の名だ。ただそれは、権力者であろうと、たった2人の家族であろうと等しく引き裂き、2度と会うことができなくなる行為であり、人々は忌避をこめて「「天架ける「霊柩の」歯車」と名付けたと言われている。


 今では天界の使いどころか天界の存在すら本当に存在するのか疑問視している国もあるという。「天架ける霊柩の歯車」の真の力もはっきりはわからない。伝わっているのは伝承だけだが、空を飛び、天界に行くことくらいは可能だったようだ。


 今砂漠を走っているのはそのレプリカ。砂漠の中を普通の道と同様に走ることくらいはできるが、その性能は現在出回っている模造品よりなお低い。


 現在一部の国を除いて魔法は衰退の一途をたどっている。だが、実際の生活での実用の分野については別だ。部分的にレプリカを上回る性能を持つ魔道具も存在する。

 馬車などの移動手段はその一つだ。


 今回はその差がでた。


 盗賊たちが馬車を襲う。

 彼らの持つ魔道具は「天架ける霊柩の歯車」の模造品。ただ足場の悪い場所でも問題なく走れるだけのレプリカとは違い、速度は上げて走らせることもできる。レプリカの模造品というより強化品といったほうが正しい代物だ。


 盗賊たちが矢を放つ。馬車の御者は矢に倒れ、雇い主であるロレンスが手綱をとっていた。

 盗賊が馬車をとらえるのは時間の問題だった。


「リューネ、奥にいっていなさい!!」


 不安そうに馬車の中から除く娘に、叫ぶように支持する。

 盗賊たちは矢で馬車をけん制してきている。自分たちを大事な商品とでも思っているのか、どうやらまともにあてる気はないみたいだが、流れ矢にあたる可能性もある。


「でっ・・・でも」


「早く!」


 とりあえず支持をだすも、ロレンスは混乱していた。

 流れ矢から逃れられても、やがて馬車はつかまる。

 かつて、ロレンスは奴隷商だった。盗賊につかまった娘がどういう運命をたどるのか。考えたくもない。


 最果ての地は強力なモンスターが出没する。

 行きかう人々はほぼ、いないといっていい。


 奴隷商だったロレンスは亜人狩りについて最果ての地を渡った経験があるためここらのモンスターの嫌がる匂い玉をつくることができたが、それは重要な商売道具であるため外部にはほとんど知られていない。

 盗賊なら知っていてもおかしくないが、行きかう人々がいなければ盗賊が縄張りにする意味がない。


 狙われていた?


 いやそれも変だ。砂漠に入り、もう3か月になろうとしている。あと数日で砂漠を抜けるだろう。どうしてこのタイミングで襲われた?


 念には念を入れ、こんなことにならないよう、天界落ちの魔法使いを雇っていたというのに矢に当たりあっけなく倒れてしまった。

 今は馬車の荷台に転がっている。生きてるのか死んでるのかはわからないが、こいつの分の重量がなければ馬車ももっと速く走れるかもしれない。

 ほっぽりだしてやりたいところだが、矢を受けた時点ではまだ息があったためそこまで非道にはなれなかった。しかしこの状況である。

 今は後悔していた。情に流されず馬車から捨てておけばもっとましな状況になったのではないか?高い金をはらってやとったというのに使えないうえに邪魔にすらなる。いまいましいことこのうえない。


「どうする?どうすればいい?」


 いずれつかまることがわかりつつ走り続けるしかない。


「お父さん!!」


 リューネがロレンスの背中にとりつく。


「リューネ!奥に行っていなさいとあれほど・・・」


「これ!!」


 ロレンスの言葉を遮り、リューネが差し出してきたのは救難信号用のスクロール。事故にあった際、空にサインをとばし救援を頼むのに使うものだ。馬車にあらかじめ備え付けられていたものだろう。


「こんなものが何に」


「近くに誰かいたら助けがくるかも」


 リューネはそういうが、その可能性は限りなく低い。

 救援用のスクロールというだけあってその範囲は広いがここは最果ての地だ。万が一誰かが目にしたところで、それで助けにやってくる人間はそのサインを目撃した者ではない。一番近くの町の自衛団だ。


 非難信号用のスクロールはそれほど高価なものではない。一般に出回っているものなのだ。

 たくさんでまわっているがゆえに誰かの悪戯や、悪戯ならまだしも盗賊が待ち伏せのために使う場合もありえる。

 そういうリスクをさけるために悪戯で使うのは重大な犯罪だ。だが盗賊達にそんなことは何の意味も持たない。

 ゆえにそういう被害をさけるため非難信号をみて助けに来るのは近くの町の自衛団ということになっている。


 盗賊を押さえつけるのは力だ。意味もなく救助用7スクロールを使ったものは悪戯であろうが、盗賊であろうがつかまり次第縛り首だ。

 なので仮に通りすがりの旅人が救難信号を見たとしても、救援に来るものなどまずいない。


 そしてこのスクロールで助けに来てくれるであろう自衛団だが・・・ここは世界の隅の最果ての地。救助するものなど、サインが届く街すら、存在しない。

 救援用のスクロールなど使うだけ無駄だった。


「!?」


 矢がロレンスの肩につきささる。いよいよしとめにきたのだろう、流れ矢ではない明確にロレンスを狙ったものだ。


「お父さん!?」


 腕に力が入らない。馬車を制御できない。

 全速力で走っていた馬たちが制御を失う。

 馬車が大きく揺れる。


 魔道具を操作するには適正がいる。適性がないものには動かすことはできない。

 適性のない魔道具を使おうとすれば、オリジナルの中には命を失うものもある。レプリカであっても一生障害残ることがある。


 とっさにリューネを抱きかかえるロレンス。


「く・・・なんという」


 馬車を制御するすべすら失ってしまった。

 もう手はない。盗賊につかまるのを黙って待つしかない。


「お父さん。肩・・・!?」


 ロレンスの肩に刺さった矢を見て、リューネがひどく動揺する。矢を抜こうとするが彼女の力では抜くことはできない。


 ・・・


 リューネは焦る。


 自分の力では無理だ。助けがいる。助けを呼ばなくては・・・

 とっさにあたりを見回すと救助信号のスクロールがすぐ足元に転がっている。


 ロレンスは興味なさ気だったが、助けてと言わなければ誰にも見つけてはもらえない。

 わずかな希望でもすがるしかない。


 リューネは救難信号用のスクロールを使用した。

 空に光のサインが映し出される。

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