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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
37/266

2人

「ヒラキン・・・やっぱり一人では無茶ですよ。」


 砂漠、見渡す限り砂の海。

 荷物をしょった少年と、翼の生えた少女が並んで歩く。


「少し持ちましょう。ほら、私とべますし」


 パタパタと、少女が翼で浮いて見せる。

 しかしヒラキンと呼ばれた少年は黙々と足を前に進める。

 少女は少し考えて、そーっと、少しだけ、彼の背負う荷物を持ち上げようとする。

 彼がそれに気が付いたら、やめるように言うだろう。だから気が付かない程度に、荷物が少しでも軽くなるように・・・


「プレセぺ。大丈夫。」


 けれどもやっぱりすぐに気づかれる。

 プレセぺ、どうやらそれが彼女の名前らしい。


「だけど一人で持つなんて無茶だったんです。少し持ちます。」


 やっとプレセぺの言葉に反応してくれたヒラキンに、彼女は頑として主張する。

 荷物を持つという行為は無視された抗議の意味もあったらしい。


「大丈夫。それより翼をしまって」


 だが、ヒラキンはとりつくひまもない。

 言い捨てて黙々と歩き続ける。


「見てる人なんて誰もいませんよ・・・」


 抗議のプレセぺにもヒラキンは答えない。


 外の世界・・・プレセぺ達が暮らしていた「篝火の森」をでてもう半年になるだろうか。それまでに訪れた町や村を見る限り亜人はだいぶ珍しがられていた。かつては人と同じくらい栄えた種族もいたというが、そのほとんどが「王の血族の呪縛」とともに消えていったという。「王の血族の呪縛」を逃れたのは人間だけであり。ゆえに今栄えているのは人間たちだけだ。残った亜人たちは人と交わらぬ最果ての地へと追われ、緩やかな滅びの道をたどっている。人間たちの中で目にする亜人はもうほとんどいない。

 噂によるとその珍しさゆえに見世物のように扱われることもあるという。ヒラキンの突き放すような言葉もプレセぺのことを思ってであることには違いない。


 けれども、もう少し言い方というものがあるだろうし、プレセぺにとってはそんなことよりヒラキンの体の方が心配だった。

 彼女はため息をつくと翼を引っ込めヒラキンの横に並ぶ。


「あんまり無茶しないでくださいね。いつでも手伝いますから。」


 ヒラキンは黙々と歩きつつ、けれど小さく頷いた。

 これまでの旅の中で何度となく繰り返されたことだ。

 プレセぺはヒラキンの荷物を持ってあげたいのだが、ヒラキンは荷物を一人で持つことを譲ろうとはしない。


「馬車でも通りすがってくれればありがたいんですけど・・・」


 プレセぺは天を仰ぎつぶやいた。

 当然のことながら、偶然こんな砂漠を馬車が通り過ぎることなどありえないことだ。

 プレセぺも本当に期待していったことではない。


 唐突に、ヒラキンが歩みを止める。

 真剣な面持ちで遠くを見つめる。もっとも旅に出てからの彼はいつも真剣な面持ちで気を許した表情を見せることなんてほとんどなかったのだが。


「ヒラキン?」


 何かただらなぬ雰囲気を察してプレセぺがヒラキンの手を握る。


「道を間違えた」


 ヒラキンはそれだけ言うと、プレセぺの手を強引にひっぱり、来た道を戻り始める。

 先ほどとは違う明らかな早足。


「でっでもヒラキン、太陽はあちらですよ?方向は間違ってないはずです。」


「間違えた。」


 戸惑うプレセぺにただそれだけ答える。何の説明もしない。

 ただ彼女の手を強く握り、何かから逃げるように歩き続ける。


「・・・」


 プレセぺは戸惑いつつもあがらうことはせずにヒラキンに従う。

 旅に出てからずっとこうしてきた。

 旅に出てからずっと彼はこうだった。

 彼がこうなってしまったのはプレセぺのせいでもある。前はもっと表情豊かな子だったのに・・・

 しばらくの沈黙。黙々と歩き続ける2人。

 気まずい雰囲気が2人をつつむ・・・と


「やっぱり、荷物持ちましょうか?」


 その雰囲気を壊すようにプレセぺは笑顔で言う。

 旅に出てから何十回と繰り返しているセリフ。

 これでいつも通り。それは旅に出る前の2人の関係に戻れれるサイン。

 ヒラキンは少し歩く速度を落とし、しかし黙々と歩き続ける。


 漂っていた微妙な空気はなくなる・・・はずだった。


「救助を求む」空に光の文字が輝いた。

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