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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
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篝火

 ぴちゃり……ぴちゃり……


 歩くたびに足元の水たまりが音を立てる。

 いや、それは水たまりではない。

 赤黒い色をしている。血だ。


「どうして……」


 俺はハチに問いかける。

 出会ってから10年。人化の術も完璧に使いこなせるようになった。

 子供のころの面影はもうない。屈託なく笑っていたあの笑顔ももうない。

 かわりに深い闇が刻まれている。


「敵討ちだよ」


 ハチは言った。感情の欠落した声。


「こいつらが、ハルを食べたから」


 視線の先には積み上げられた人の死体。まるでゴミでも見るかのように見下している。

 人魚を食べれば不死を得られる。噂を聞きつけた人たちが、権力者達が、ハルを狙った。

 俺たちはハルを守りながら再び妖水の森に戻った。

 ここまでくればもう大丈夫。

 そのはずだったのに、やつらは森までおし寄せてきた。

 みんな、みんな死んでしまった。カルラも、ユルルングルも、グランガチも、そしてハルも……


「こいつら神様に勝ったからって調子に乗ってたんだ。面白かったな。神様に勝ったはずの自分たちが、ただの狼なんかになぶられ殺される。自分たちはもう終わりなんだってわかって絶望するんだ。こんなことなら、もっと早くこうしていればよかった」


 初めて、ハチの声から感情がこぼれる。


「そしたら、ハルも死ななくてよかったのに」


 ……


 夢落ちですよ?


 俺は夢から目覚めた。

 砂漠は日が出ているときは暑く、日が沈んでからは寒い。けれど、保温効果に加え保冷効果も兼ね備えた「忘れられてた神様の服」によって不自由を感じることはなかった。

 おかげでもっと防御力が高い鎧もあるけどこっちをメインに装備している。モンスターから不意をうたれたら死んでしまうが、着なければ砂漠の暑さと寒さでしんどい。

 最初は警戒して強い鎧来てたけどすぐに脱ぎましたよ……


 無限灯篭のおかげで周囲は明るい。篝火の代わりをしている。


 隣を見れば、犬形態のハチとハルが寄り添って眠っている。

 ほほえましいことだ。

 妙にリアリティのある夢をみた今となってはなおのこと。


 ハチはハルにとてもなついている。こいつはカルラにもなついてるから別に特別なことじゃないけど。

 ハルもハチになついてる。見ず知らずの大人ばかりの中でハチの存在は唯一気を許せる相手ということだろう。人間形態だと同じくらいの歳だったしなおのこと。

 もしかしたらハルが亡くなる前もハチとは面識があったのかもしれない。なんとなくそんなことも考えてみる。


 夢はハチが知恵の実を食べてしまい心配がたたって見たのだろう。

 ハチが人を襲うに当たり、ハルの敵討ちという線は確かにありえるかもしれない。

 だけどこの夢には致命的な欠点がある。

 蘇生術。

 そう、俺は死人を生き返らせることができるのだ。しかも死んで5年たち白骨化した条件の悪い死体ですらも。

 よって、ハルが殺されて仇討という線はない。蘇生術に1度生き返らせた遺体は2度と生き返らせることができないという制約でもない限り……ない、限り……ない、よね?


 あかん、なんか心配になってきた。


 だけどこんなこと試してみるわけにもいかない。

 食用の動物で実験ならいけなくもないけど、下手に試してまた天界から刺客が来たらやばい。

 前はなんとかやりすごせたが、次は同じ手は使えない……こともないけど使いたくない。

 前回はアンリウムの力でなんとかできたが、この力は1度前の術者を殺しているらしい。

 動物実験でそんなリスキーなまねはしたくない。


 夢について考え事をしていたら目がさえてしまった。カルラは寝なくても平気だといっていたが、今日ぐらいかわりに夜の番をしてやってもいいかもしれない。まだ旅は長いのだから。


 そう思ってカルラを見ると、思いっきり寝ていた。いびきを立てて爆睡である。


「おい! 」


 蹴りを入れてたたき起こす。


「痛ってぇなぁ、何すんだよ」


 非難のまなざしをくれるカルラ。


「何すんだよじゃないよ。お前、「その気になれば数日くらい寝なくても平気だから夜の番は任せろ」っていったよな? 」


「いったっけ? 」


「いっただろ?「俺が付いてきてよかっただろ? 」とか得意げに言っただろ? ついさっき寝る前にも、「夜の番は俺に任せて安心して眠っていいぜ」って言ったよな? 」


「ついさっきじゃねぇぜ。結構時間たってるぜ」


 やっぱり覚えてるんじゃないか!


「ならなんで寝てるんだよ!? 」


「だってお前らみんな寝ちまうからさ。退屈で退屈で」


「退屈だからって寝たら駄目だろうが! 」


「そうは言うけど俺も言ったはずだぜ?「その気になれば」何日でも起きてられるって、そりゃあ絶世の美女に囲まれて娯楽と御馳走に囲まれてれば寝る間も惜しんで遊びつくすけどよぉ、退屈だったら5分で寝ちまうぜ」


 意味ねェ!


 俺は天を仰いだ。カルラを頼ったのが間違いだった。


「まぁ、そうカリカリすんなって、こう見えても常に気を張ってんだ。敵が来たらさっと目覚めてやっつけてやるぜ」


 とても俺に蹴飛ばされて目を覚ました奴の台詞とは思えない。夜の番は交代制にした方がよさそうだ。

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