砂漠へ
「ハルは悪くないんだよぅ」と一点張りのハチに、いたたまれなくなったか下を向いて再び泣き出すハル。
俺は俺でハチが「知恵の実」を食べててしまったことへの危惧で頭がいっぱいだ。
おお……どうしよう、どうしたらいい?
この場で一番冷静なのはカルラではないかと見てみればグースカ眠ってしまってる。
もう! 最初から期待してなかったよ!
と、とりあえずあれだよ。知恵の実をなんとかしないといけない。
「ハチ! 吐きなさい! 」
え?って顔をするハチ。
「あれは毒だから、口の中に指を突っ込んで、こうゲェッて! 」
鬼気迫る表情でにじり寄る俺に、後ずさるハチ。
「こ、怖いよぅ、主様……」
「大人しく、言うことを聞け! 」
ハチを羽交い絞めにすると、ついにハルが声を上げて泣き始めた。
ごめんなさい!ごめんなさい!ハチをいじめないで!、と言って俺の腕を引く。
男の子の口の中に手を入れようと押さえつける俺に、させまいと泣きながら腕をひっぱる女の子。
何このカオスな状況?
俺が悪いの?悪いかもしれないな!
でも、知恵の実っていったら食べたら神様に楽園から追放されるアイテムだし。
食べたら知恵がついて神様に従わなくてもいいやって思っちゃうアイテムだし。
やったら駄目なことの象徴みたいなアイテムだし。
食べたらだめな気がする。
なんとなく!
「あーもう五月蠅せぇなぁ」
ようやくカルラが目を覚ます。
「何やってんのお前ら? 」
ものすごく、変な目で見られた。
……行き過ぎたことってのは自分でもわかってたのさ。ホントにね。
カルラのつっこみで俺は平静をとりもどした。
……
ハチは人間になれるようになったが完全に人間になったわけではなかった。時間がたつと犬の姿に戻ってしまった。
カルラが言うには、なれないころはそんなもんだろうということだ。
力自体は十分あるはずだから、すぐになれるだろうとも言っていた。
ハチが知恵の実を食べたことに対してはもうあきらめるしかなかった。食べてしまったものは仕方ない。
「あの食べ物を食べると悪い心が芽生えるんだ。でもハチが強い心を持っていれば大丈夫。ハチは悪い子じゃないよね?」
みたいなことをいって誤魔化しておくことにした。子供だましだがあながちウソではない。
ハルにも謝っておいた。最初からハルが食べたものと疑ってかかってしまったことについてだ。
子供相手に散々やらかしてしまったが、俺は許されるのだろうか?
「子供なんて飯さえ与えときゃ勝手に育つもんだぜ」
カルラは呆れたようにそう言った。
……
いろいろあったので今日は出発を見送り明日から出発することにする。
夜の番はカルラがやってくれることになった。カルラは数日くらい寝なくても平気らしい。
「俺がいてよかったろ? 」といわれたが正直いてくれてよかったと言わざるを得ない。
出発するに当たり問題もみつかった。
水である。
食料は現地調達すればいい、タコのモンスターの残りもある。だが水はそうはいかない。
カルラはかつて最果ての地を超えて妖水の森に来ていたため最果ての地がどういうところかある程度知っていた。
ここから先は砂漠を超えないといけということだ。
祭壇の器で塩水は浄化できるが、10日ももつわけがない。
砂漠ではたとえどんな泥水でも水を調達することは難しい。
最悪おしっこを祭壇の器で飲むことになるかもしれない。
「カルラはどうやって砂漠を超えてきたんだ? 」
「俺は砂漠を超えたわけじゃねぇしな」
どうやらルートはいくつかあるらしい。
「もっとも、俺にはこれがあるから砂漠でも平気だぜ? 」
そういって徳利を見せるカルラ。それではお前がよくても俺たちが困るんだよ!
……ん? いや、まてよ
祭壇の器で酒を浄化すればいいのか?
それならいけそうな気がする。
「そんなことしなくてもそれ使えばいいんじゃないのか? 」
カルラは「グランガチの涙」を指差す。
グランガチの涙を水の中に入れておけばその水は浄化され、しかもいくら使っても水は減らないのだという。
「ただし、水を全部使ってしまうと効果がなくなるから、入れ物の水を飲み切ったら駄目だぜ? 」
グランガチは砂漠を超えるのを見越してこのアイテムをくれたらしい。
俺はハチにまたがり、カルラは飛行。ハルは荷物と一緒に魔法の絨毯に乗るという形で移動を開始する。
ハルはハチの上に乗りたそうだったが、魔法の絨毯の積載量的に荷物と俺は乗れないので仕方ない。
代わりにグランガチの涙入りの祭壇の器を持たせて「落とさないでね」と念を押しておく。
ハルはさっきから絨毯の上で祭壇の器とにらめっこしている。




