蘇生術
10年前にワーウルフの一団が「妖水の森」にやってきた。
彼らは人間に滅ぼされかけており、自分のルーツである妖水の森の神を頼ってやってきたようだ。
けれども神はすでに滅んでいたため、神の盟友グランガチに庇護してもらう形でこの地に住まうことにした。
そして何事もなく5年の月日が流れ、奴隷商から逃れて獣人と人魚のハーフが逃げてきた。
彼女はグランガチを信仰する一族の者であり、近くにグランガチが存在するこの森があることを知り、思い切って奴隷商から逃げ出したのだろう。
同じくグランガチを信仰するワーウルフの集落に拾われ安心したのもつかの間食べられてしまう。
その後奴隷商がワーウルフの集落を見つけ襲ったが、自分の眷属である人魚を食われていたグランガチは守ることをせずワーウルフたちは全員狩られてしまった。
「て、感じじゃね? 」
と烏天狗は推理した。
「カルラは奴隷を助けたから滅ぼされたと言っていたじゃないか」
「俺もずっとこいつらを見てたわけじゃねぇから詳しいこと知らなかったんだよ」
弁明する烏天狗。
「たまに話をした限りじゃ気のいい奴らだったんだけどな。逃げた奴隷こいつか……も村になじんでたみてぇだったし。ワーウルフの中には月を見ると意識を失う奴もいるから、不幸な事故だったのかもしれねぇな」
子供を食うという残酷な行為にもかかわらず、カルラの反応はたんぱくなものだ。
モンスターが人を襲うのは習性の一つであり、当然のこととして割り切れているということだろうか。
俺の感覚では許容できるものではないのだが……
「そいつは兎も角だ。おい幽霊名前は? 」
幽霊は錯乱していおりとても話ができる感じではない。
「こいつは駄目だな。じゃ、まぁ、せめて、この地の神の名前を教えてくれよ? な? 」
鬼かお前は……錯乱する幽霊から神の名を聞き出そうとするカルラ。
「この幽霊は死に際の痛烈な思いが残ってるだけだぜ。本当のこいつはもう死んでるんだ。そんなこと気にしても仕方ねぇぜ」
そうはいっても可哀想じゃないか。
奴隷商から逃げ出して命からがら逃げだして、助かったと思ったらこんな……
しかもカルラの話だと普段は村になじんでいたという。信じていた人たちに裏切られて食べられるなんて、ただ食べられるよりなお悪い。
まだ、この幽霊がか弱い子供じゃなければ「こんな思い」を抱くことはなかったかもしれない。
それは慣れた感覚だった。
最近毎日のように爆弾石を使っているから、道具を使う感覚もだいたいつかめてきていた。
今回のは道具を使うための感覚ではないけれど。
蘇生術……俺の持っているはずのスキル。今まで一度とて使ったことはない。
使えるという感覚がなかったからだ。
爆弾石やアンリウムの護符のときから察するに使えるときは使えるとわかるのかもしれないと問題を放置していたが、どうやら今がその時のようだ。
問題は白骨化した遺体に蘇生術を使おうとしていることか。
死んで間もない外傷も少ない遺体なら問題ないような気がするが、初めて術を使うのにこんなハードルの高い状態で使っても大丈夫なものなのだろうか?
不安は残るが、俺の中で「大丈夫だ」という感覚がある。今までこの感覚が間違ったことは……たぶんない、はず。
「お、おい?なにするつもりだ? 」
カルラは俺のただならぬ気配を察したらしい。
そういえばカルラの前で術を使うのも大丈夫なのだろうか?後で何か問題になったりしないか?
思ったが、この気を逃したら今度またいつ蘇生術を使える感覚がくるかわからないため、思い切って使うことにする。
今より悪くなることなんてないだろう。
……
幽霊が墓の中に吸い込まれていく。墓石の下の土がえぐれて人型を形成していく。でもなにか……足りない?
俺の中で「足りない」という感覚が芽生える。やはり、条件が悪すぎた?
でもそうじゃなかった。
足りないのは体ではない。魂の方だ。カルラは言っていたじゃないか。「この幽霊は死に際の痛烈な思いが残ってるだけ」「本当のこいつはもう死んでる」と、ここにある幽霊だけが、魂の全てではなかった?
じゃあ残りの魂は?
焦る俺に別の感覚がある。アイテムを使えるという感覚だ。
「依代の銅貨」が仕様可能な感覚をつげている。
そのアイテムが何を意味するのかは分からないがこのままでは不味いという感覚がある。躊躇せず頼る。
いつの間にか空が真っ黒に曇っている。雷鳴がとどろく。
いや、雷鳴ではない、あれは、この子の残りの魂……
雷が依代の銅貨に落ちた。
ブスブス……と雷で焦げた匂いがあたりに漂う。
そこにあるのはさっきみた幽霊と同じ姿の子供。
成功……したのか?
半信半疑の俺の横でカルラが呟く。
「こいつは、不味いことになったかもしれねぇな」




