幽霊
「カルラ、お前も魔王軍にこないか? 」
「何言ってんだ? 俺たちゃ世界を守った勇者の御一行だぜ? 俺たちゃ正義の味方じゃなかったのか? 」
「世界の秩序を守るためだ。役割を果たさなくてはならないんだ。俺たちは正義っていうみんながうらやむ役割を果たした。だから悪っていうみんなが嫌がる役割もはたさないといけないんだ」
「そんなこと、勇者は言ってなかったじゃねぇか」
「そりゃそうだよ。勇者は所詮この国の人間じゃない。異世界人だ。そんなことまで知らされる必要はない」
「悪の役割ね……」
妙な夢を見た。カルラが何か難しいことに葛藤していた。何かの間違いに違いない。
きっと昨日延々とカルラの話を聞かされたから変な夢をみたのだろう。
起きると日はすっかり真上に上っていた。
自分は酒を飲めるのか、飲めないのか、飲んだ後どうなるのか、興味があったが別に何ともなかった。
頭は別にいたくない。記憶が飛んでるということもない。酔いが残ってるということもなかった。
まぁ、ほとんどカルラに飲ませたしな。
カルラとハチはまだ寝ていたが、俺が起きるとハチは元気にすりよってきた。
昨日のことを思い出し身分証をチェックする。
ハチの名前がスキルを封印してる可能性があるらしい。
なら名前を変えればいいのだろうか?
「お前の名前は今日からポチだ」
試しにポチと呼んでみる。
きょとんとしているハチ……じゃなくてポチ。
「ポチ、お手」
……反応しない。身分証明書もポチのままだ。駄目か。
「何やってんだサトミ? 」
いつの間にかカルラも目を覚ましてる。
「頭がいてーぜ。水くんね?ああ、昨日のことが思い出せねぇ」
あんまり酔ってないように見えたが見た目以上に寄っていたらしい。記憶が飛んでいると主張している。
ほほう、ちょっとからかってみるか。
「カルラ、ハチの封印を解く方法のこと覚えてるか? 」
「え? そんな話したっけ? 」
なんのことかわからないというカルラ。そんな話してないしな。
「カルラが「わからない。後学のために教えてくださいサトミ様」っていうから、教えてやる約束しただろ? 」
「はぁ?俺を誰だと思ってやがる、わからねぇわけねぇだろ」
プライドを傷つけられ怒り出すカルラ。
ほほう、いい感じじゃないか。この調子でハチの封印の解き方をゲロってくれるとありがたい。
ハチが人間になれれば何かと便利だ。
話し相手になるし、予言の岩による嫌な予言のこともある。
言葉でしっかりやっていいことと悪いことを教えてやらねば。
勉強を教えてもいい。
レベルじゃすっかり抜かれてしまったし、主人としての威厳も示せる。
「ほう、ではどうやるか答えてくれ」
「この森の最初の神、滅ぼされた神の名を言い当てればいい」
あっさりゲロった。
なるほど……「???の末裔」の???の部分を言い当てればいいわけか。
「へぇ、じゃあその名を言ってみてほしい」
「うっ……」
目をそらすカルラ。わかりやすい。知らないらしい。
そういえばカルラも後からこの森にきた口だったな。しかし、カルラも知らないならハチの封印を解くのは難しくなる。
知ってそうなのは、昔からここにいる川の精霊連中と予言の岩か……素直に教えてくれるかな?
念のためもうちょっとカルラを煽っておくことにする。
「やっぱりわからないのか。俺の勝ちだな。」
「ちょっと待てよ。勝ちってなんだよ」
「これが決闘の方法だからだよ。昨日約束したじゃないか」
カルラの当初の目的は俺との決闘だったが、武力で戦うとは言ってない。ついでだしここでうやむやにしてしまおう。のって来ればの話だが。
「そ、そうだっけ?」
まずったぜ、とカルラ。のってくれるらしい。
これでハチの封印の仕方がわからなくとも厄介ごとは一つ消せそうだ。
「わからないんなら俺の勝ちだな」
「ちょっと待て、グランガチらに聞けばわかる」
グランガチ、川の精霊はまだ神がいるころから一緒に暮らしてた。聞けばわかるかもしれない。
でもハチと敵対してるっぽいし素直に教えてくれるかどうか……
「他の奴に聞いたらカルラが勝ったことにはならないぞ」
「そ、それは……」
視線が宙をおよぐカルラ。
できれば川の精霊に聞くのとは別の方法で教えてもらってくれ。
「待て、もう一つ方法がある」
「予言の岩に頼るのも駄目だぞ」
先に行っておく。あいつも素直に教えてくれるかどうか怪しい。
「そうじゃねーよ。この村にいた連中だ。あいつらなら知ってるはずだ」
そういえばこの村のワーウルフはその神を頼ってここまで来たんだっけ。知っていても不思議ではない。
ただし、もうこの村の連中はだれ一人いない。
「ちょっと、待ってな」
カルラは何やら印をふむ。
「迷える魂よ。我が問いに答えよ。オン・キシハ・ソワカ」
ぼんやりと墓石が発行し始める。
光は人型にかわっていく。
これは……幽霊と話をする術か何かか? こんな真昼間から?
確かにこの村の幽霊ならわかるかもしれないが、そんなふうに術をつかうのはいかがなものかと思う。
安らかに永眠してるとこををそんなこと聞くために叩き起こされたんじゃ幽霊だって迷惑だろうよ。
幽霊は小さな子供の形をとる。
ワーウルフとは明らかに違う。悪魔でもない。どころか、獣人ともちょっと違うような。
「人魚……?」
えらと水かきがついてる。けれど羊のような角と尻尾は健在。
「人魚と、獣人のハーフってところじゃねぇか? まぁ、それはともかくだ。」
幽霊に聞くのは俺の能力を使ってだからありだろ?と俺に断りを入れる。
そして、とっとと神の名前を教えろと幽霊に迫る。ちょっとひどいぞ。幽霊とはいえ子供じゃないか、ほら……泣きだしそう。
「あ……ああ」
ガクガクと震え始める子供の幽霊。
「い、いや! こないで! いたい! いたいいたいたいいたいたいいたいいたいいたいいたいいたい!!!!! 」
狂ったように叫びだした。
「どうしたってんだ一体」
カルラも困惑する。
「いやぁ……いやぁ、助けて、グランガチ様。私を……食べないで」
グランガチ? 食べる?
グランガチって人を食うのか?とてもそうには見えなかったが……
全く想定外の事態に困惑する俺
「そういや、人買いから逃げた奴隷ってのはこいつだったような」
困惑する俺とは対照的に、この件についてはカルラの方が察しが良かった。
そういうことがあるという事実が頭にあるからすぐにピンと来たのだろう。
「ワーウルフは人を食らう魔物だ。だけどここには人がいねぇ。かわりにこいつをを食ったのかもしれねぇな」




