妖水の森
「また何かあったら助けてもらうかもしれない。なにしろカルラはこの森の神様だからね」
「そのときはまかしときな。じゃあな」
別れ際によいしょしてやると、案の定、上機嫌になるカルラ。やはり扱いやすそうな奴だ。
結局何がしたかったのかはわからず終いだったが、あの調子だと本人も忘れてそうだ。
最初は喧嘩腰だったのを考えると、あまりよい理由で近づいてきたのではないだろう。このままずっと忘れていてもらえるとありがたい。
さて、カルラも帰ったことだし。得られた情報を整理する。
まずはこの森のこと。
名前は「妖水の森」。かつてこの森にすんでいた神様がそう読んでいたらしい。
由来はグランガチら強力な水の妖精が住まうことからなる。
カルラはグランガチのことを川の精霊と読んでいたから妖精だと話が変わるんじゃないかと思ったが、カルラは妖精と精霊の区別がついていないようなのでつっこまないで聞いておくことにした。俺もよくわかってないしな。
川から流れ出る水は海に繋がることから、海が生まれた場所と神聖視されていたこともあったらしい。
けれど、外からやってきた別の神によって原住の神は滅ぼされ、あげくこの地は放置されることになった。
別の神が庇護する人間たちのコミュニティはこの地よりはるか遠くにあり、人が望む資源にも恵まれなかったためだ。
かくしてこの地は見捨てられ、残った強力な水の妖精もしくは川の精霊であるグランガチに守護される静かな森が残った。
人が訪れることはほとんどないが、稀に人の地を追われた亜人たちが逃げてくることがあった。けれどそういう亜人たちもすぐに追ってきた人間たちに捕えられいなくなったという。
ちなみにカルラは逃げてきた亜人の生き残りといったところか。本人の話によると煩わしい世を捨ててきたと恰好のいいことをいっていってはいたが、断片的な情報を総合すると、気に入らない人間にケンカ売って逃げてきたみたいである。本当に神様なのかお前。
次に廃村のこと。
10年くらい前にワーウルフを主とする獣人の一団が逃げのびてきたという。滅ぼされたというこの地の現住の神は山犬の化身だったとされていたため、それを頼ってここまで逃げてきたようだ。
けれど頼るはずだった神はとうに滅ぼされ、その眷属は動物もどきにまで落ちぶれていたため、山犬の神の時代から森の名前の由来になるくらい畏怖されていたグランガチを信仰することにしたという。
彼らは5年ほどこの地で暮らしたが、人買いから逃げだした奴隷を助けたことで足が付き、一人残らず狩られてしまったという。
人助けが仇になるなんてやるせない話だ。
ちなみに現住神の山犬のおちぶれた眷属というのはハチたちのことである。ハチの種族の「???の末裔」の「???」には現住の神の名が入るらしい。
でもそうすると一つ疑問がある。ハチはグランガチを敵視していた。ユルルングルもハチを見下していた。
現住の神とグランガチの関係は果たして良好なものだったのか。
もしそうでないとしたら、現住の神を頼ってこの地にやってきた獣人たちが刈られたのは本当に偶然だったのか?
実際に会ったグランガチは温厚そうに見えたが周りの蛇たちは好戦的に見えた。ただ話せばわかるやつにも見えたしそんな陰湿なことはないとは思うのだが・・・まぁ、今となっては考えても仕方のないことである。
最後に人間たちのこと。
人間たちが住んでいるのは「妖水の森」の向こう「最果ての地」のさらに向こう側。
最果ての地というのは人間たちにとって世界の端のことである。
彼らにとって世界とは丸い円盤のようなもの。その円盤のふちが最果ての地だ。そこには強力なモンスターが跋扈し、奈落が広がっていると考えられている。
実際に最果ての地には強力なモンスターが多数いる。人間たちはほとんど近づかない。
人間たちにとって妖水の森はそんな最果ての地よりさらに向こう側に位置している。
位置しているとっても人間たちにとっては妖水の森も最果ての地の一部として見ているらしいのだが。
そんなわけで俺が人と会おうと思ったらその危険な最果ての地を越えなければならない。
将来的にはさておき、今のところそんな危険行動をする気は起きない。
そんな未来のことより今は廃村への引っ越しだ。
カルラから聞いた森の情報では支障はなさようだ。川の精霊を除いて強力なモンスターはいない。
森の外からの侵略者についても大丈夫そうだ。
大丈夫でない場合も予兆が見受けられる。
獣人や奴隷が逃げてきて追手の人間たちがやってくる。人間達がいきなり襲ってくるようなことはない。俺は予兆があったら逃げ出せばいいだけだ。
俺はすぐにでも廃村に引っ越すことを決めた。




