烏天狗
「お客様がお待ちですよ」
洞穴に帰るなり予言の岩に告げられる。そして待っていたのはもちろん……
「なんで逃げるんだよ。馬鹿野郎」
さっき川で遭遇した烏天狗だった。
ねぐらをしてってるとか何とか言ってたのは本当だったらしい。ちょっとまずいかもしれない。
でも真に迫ったまずさは感じない。なぜなら俺には「アンリウムの護符」がある。いざとなったらこれでごりおせば何とかなるような気がする。
でもまぁそれは最後の手段だ。
「こんなこと言ってるけどどうしたらいいかな? 」
予言の岩に説明を求める。未来を知ってる予言の岩の助言に従えば悪いようにはなるまい。
「そうやってすぐ私に頼るのはどうかと思いますよ」
避難の声をあげる予言の岩。
教えてくれないんならくれないんで別にいいけどね。予言の岩の行動が答えのヒントになっている。
例えば今回なら予言の岩は全く危機感を感じていない。ということはすぐに危険はないということだろう。
「うわぁ、ずっこいですね」
予言の岩に呆れられる。
心の中をよまれる予言の岩に今更そんなこと言われてもなんともないけどね。それでも助けてくれるんだろ?
「……今私、駄目男にひっかかる働き者の女の気持ちがちょっとだけわかる気がしましたよ。元の世界じゃ心優しい少年だったんじゃないんですか?全く……」
確かに元の世界の俺はもっと真面目な人間だった気がする。力を与えられし者は傲慢にならざるをえないようだ。
「話は聞かせてもらったぜ」
俺と予言の岩の脳内会話に割り込んでくる烏天狗。どうやらこいつも予言の岩の声が聞こえるらしい。
「嬢ちゃん。この男に惚れてるのはわかるが、つくしすぎちゃいけねぇぜ。男は甘えたがる生き物なんだ。そしてその甘えはとどまるところをしらねぇ。ここまでなら大丈夫。ここまでなら大丈夫って、少しづつエスカレートしていく。まるで母親にそうしてもらうようにな。だけど所詮男と女は他人同士。親がが子に許しても女が男に許せない一線て奴が必ずあるんだよ。そしてそこにふれちまったらもう今までの関係を続けていくことはできなくなるんだよ。この、俺のようにな……」
なんだか語りだした。烏天狗。
元彼女の話をしだした。烏天狗の元彼女はメスの烏天狗なのか妖怪なのか気にならないこともないが、つっこんだらうざいことになりそうなので聞かないでおく。
どうも悪い奴ではないみたいだが、よい奴でもなさそうだ。
どうしたらいいんだろう。脳内会話が読まれるみたいなのでアイコンタクトで予言の岩に助けを求める。
「こう見えても、この方はこの森の空の神ですよ。無下に扱うことはできません」
神? こいつが?
意表をつかれてあっけにとられる俺。神っていったらもっと威厳のあるもんじゃないの。例えば以前に会った川のワニのモンスターとか。俺も神らしいから他人をどうこう言えないけどさ。
「神? 俺がか? 」
て、言われた本人が一番びっくりしているようなんですが……
「ま、まぁな。そうだな。この森の空を仕切ってるのは俺だ。神と言われればそうかもしれねぇ」
ホントかよ。一番強かったら神って、神ってそういうものなのか?
「そうはいわれましても、半永久に生きれる存在であり、人知を超えた力をもっているのです。もともと神と言われても問題のない存在なのです。それでいてこの森の空を支配しているのだから神と言って差し支えないのではないのでしょうか? 」
すかさずフォローする予言の岩。
いまいち納得しかねるが、日本って八百万の神の国だし、烏天狗も神と言われれば神のような気も……ここ日本じゃないっポイけど。
「へっへっへっ……わかってるじゃねえか嬢ちゃん。神か。俺も偉くなったもんだな」
偉くなったもんだなって、やっぱり違うんじゃないか?
胡散臭そうに烏天狗を見つめる俺。
「あえて足りない部分を指摘するなら信仰でしょうか。この森には誰も烏天狗様を神と進行する者がいません」
「うっ……」
いたいところを突かれたという顔をする烏天狗。
「そいつは仕方ねぇ。この森には人間がいないんだ。人間がいなけりゃ信仰も生まれねェ」
ん、そういえばこいつは永遠に近い時間を生きて人知を超えた力を持っている。それでいて俺が洞穴に住んでいることも出っていた。なら襲われた廃村についても知ってるのでは?
あんまり話しかけたくはないが聞いておかないといけない情報だと思い、思い切って質問することにする。
「川沿いに下ったところに村があるようだが、あそこにいた人達はお前を信仰してはいなかったのか? 」
「人? ああ獣人の村のことか。あそこの奴らはグランガチのことを信仰してたからな。俺のことは眼中になかったよ」
案外あっさり答えてくれた。
しかもなかなか有力な情報だ。人ではなく獣人の村とは。それが本当なら、あそこにあったモンスターらしき骨もモンスターではなく獣人のものだったのかもしれない。
そしてもう一つ気になること情報もある。
「グランガチ? 」
口ぶりからするとこいつ以外にも神に等しい存在がいるらしい。しかもこいつみたいに自称神でなく実際に神とあがめられていたらしい存在だ。
今後邂逅する機会もあるかもしれない。そのと無礼なことをして厄介ごとに巻き込まれないようその情報は詳しく聞いておきたい。
「お前もあったんだろ? あの川の精霊だ」
もう既に邂逅していたようだ。俺がすでにあっている川の精霊……あのワニのことだろうか?
雷をおこす蛇より上位の存在みたいだったし、神とあがめられても不思議ではなさそうだ。
この胡散臭い烏天狗とは違って。ていうのが顔に出たらしく烏天狗が弁明する。
「俺だって本気になればあいつとたいまんはれるんだ。でもあいつは臆病だから喧嘩に乗ってこねぇ」
はいはいそうですか。
なんかこう、言葉のすべてが軽い。そこを追求したらうざいことになりそうなので軽く流すことにする。
神の話はもういいや、獣人のことを聞いてみよう。
「獣人の連中はどうなったんだ? 今はもういないようだが? 」
「だいぶ前に人間が来てな。狩っていったぜ」
川の妖精なんか崇拝してるからだ。俺を頼ってれば助けてやったのによ、などと続けるが信仰する方にも信仰する権利があるから仕方ない。
寡黙な川の精霊(支配下に天候を操る蛇までいる)とがらの悪い烏とではどちらを信仰するかは火を見るより明らかであろう。
しかし答え自体は予想外だった。まさかモンスターが人を襲ったのではなく逆だったとは。
「その人間たちはどうなった? 」
今後森で人に会っても安易に話しかけたりしないほうがいいのだろうか、そんなことを検討しつつ質問する。
「隣の森に帰って言ったぜ。この森は動物も木の実もしけてるからな。手ごたえのあるモンスターもいねぇし、あんなことでもないと人が寄ってこねぇんだわ」
しけたところだぜここは、俺が昔住んでた都会は素晴らしいところだった、などとまたもや話を脱線させる烏天狗は無視して情報を吟味する。
ほう、強いモンスターはいないとな。それはよいことを聞いた。
人間にさえ注意すれば廃村に移住することが可能。そして人間は亜人がこの森に逃げてきたから追ってきた。つまり今はもう人間がここを訪れることはなく廃村に移住する問題はなくなった。
「もっともいくら神と崇められたって、同じ亜人を差別するような奴らに信仰されてもうれしくもないけどな」
どうでもいいことをしゃべってた烏天狗だが、その中にも面白い情報があった。
烏天狗の言うには人間は亜人を差別して奴隷にしているらしい。烏天狗から見れば亜人も人も似たようなものなのになんでそんなことするのか理解できないみたいだ。
差別はよくないと思ってるということは、俺が元人間の人型神であっても差別するような奴ではないということか?
あんまり好きにはなれそうにないが仲良くはできそうなそんな感じ。
「ほんとだぜ。ほんとにうらやましくなんかないんだぜ」
……
なんで2度いうんだよ。ホントは信仰されたいのかよ。台無しだよお前・・・
「貴重な情報をありがとう。俺はサトミというんだ。こっちは俺の眷属のハチだ」
気を取り直して自己紹介する。
居場所も知られてるし悪い奴ではなさそうだし、とりあえずは仲良くしておくことにしよう。
「おっ、おう、俺はカルラっていうんだ。よろしくな」
それに扱いやすそうだしな。
握手をする。初めて仲良くなったモンスターが日本の妖怪とはな。ちょっと感慨深い。
隣でハチがちょっと不満そうにする。
すまんすまん、仲間になったのはお前が先だった。




