ハチの暴走
川沿いを歩いているとワニに遭遇。無謀にもハチが迎撃に向かう。慌てて止めに向かう俺。
いくらレベルが5だからってワニとなんてワニと……、なん……て?
ワニに近づくにつれその大きさが明らかになる。
5メートル……いや、10メートル?
やばいですよ! やばいですよハチさん!?
ワニっていうよりもはやこれは恐竜ですよ? ドラゴンですよ?
戦ったら確実に殺されますよ!?
しかしハチは俺の制止を聞かずに一目散にワニに向かう。
俺は慌てて胸元のアイテムをあさる。
爆弾石。名前の如く爆発する石だ。ただ今まで一度も使ったことはない。というか使えたことはない。
予言の岩が言うにはこの手のアイテムは使おうと思えばだれにでも使えるのだが、その感覚をつかむのに少々コツがいるらしい。
そのコツは本当にそれが必要となった時に、より強固に感じ取ることができるらしい。
俺の足じゃハチの援護には間に合わない。これが使えれば隙を作るぐらいならできるだろう。
もしハチが危なくなったら本当に必要になるのはその時だ。俺はいつでも爆弾石を投げれるようにしてハチを追いかける。
「ガルルルル!!! 」
唸り声をあげてワニに襲い掛かるハチ。幸いにもワニは全く気付いた様子はない。
違った。気が付いた様子がない、のではない。気が付いてはいるが対応する必要はないと考えたのだ。その証拠にハチの攻撃は全く通らない。
「もういい! もうやめろ! 早く戻ってこい!! 」
必死に呼びかけるがハチは全く言うことを。聞かないどうしたっていうんだ本当に……
「懲りずにまた他の現れたか! 邪悪で汚れた血を引く下等で呪われた馬鹿犬が!! 」
唐突に川から水柱が上がる。
現れたのは巨大な蛇。それも一体だけじゃない。ざっと十数体はいる。
何これおかしいよ!? 川の大きさと体積があってない!!
物理法則的に間違っていようと目の前に大蛇が複数現れたのは事実だ。しかも見るからに怒りの空気を漂よわわせている。
間違ってもワニ退治を助けに現れた風ではない。むしろその逆。
ハチのことを全く気にかけていないワニと違い、彼らの怒りはハチに向いてる。
「我が主に触れることは許さぬ!! 」
蛇はそれぞれが身を震わせると、空がまたたくまに曇っていく。雨と、雷が鳴り響く。
まさか天候を操っているのか?
こいつらも十分やばい存在のようだ。特に雷。奴らは雷を操ってハチを攻撃しようとしている。なんとなくそれが分かった。
「ハチ! 避けろ!! 」
俺の予想通り雷は蛇の前で収束し、ハチを射た。あっけなくふっとばされるハチ。
あんなもの普通の動物がくらったらひとたまりもない。
「つっ!?」
俺の胸に激痛が走る。見れば爆弾石と一緒に持ってきていたもう一つの石。身代わりの石がはじけ飛んだところだった。
身代わりの石。その名の通り持ち主が即死のダメージをおった時、代わりにはじけ飛ぶ石。今の場合持ち主は俺だが、ハチの主人は俺だからなのか、ハチの場合にも適応されたようだ。
ハチはすぐに立ち上がるが足元がおぼつかない。
身代わりの石が即死を妨げたとしても、ダメージは相当残っているようだ。
身代わりの石も爆弾石も今まで使ったことがなかった。予言の石から使えるとは聞いていたが、使えるという確証がなかった。石だけに重さも結構あり1つづつしか持ってきていない。
念のため使うつもりがなく持ってきただけだった。こんなことなら2,3個持ってくればよかった。
身代わりの石が砕け散ったということは、今の一撃はハチを1撃で絶命させるものだったことも表している。倒そうなんて最初から頭にはなかったが、飛び道具まで使われてそれが一撃必殺とは状況は苦しくなるばかりだ。逃げ出すにも難易度はあがってしまった。
しかし未だハチとの距離は空いたまま、ここからでは手助けできる手段がない。そもそも、追いついたとして何ができるのか。死にに行くようなものじゃないのか。ハチが勝手に暴走してやったこと。俺には関係ないじゃないか。見捨てるべきじゃないのか?
自分が助かるにはハチを見捨てるべきだと思うのだが、いままで一緒にいて情が移ってきていたらしい。簡単に見捨てるという選択肢もとれない。
なんとかして助けたい。
そのときだった。感覚が来た。今なら爆弾石を使える。それがわかった。
これが予言の岩のいう「アイテムを使える感覚」というやつか。喋るとか、唾を吐くとか、そういう動作をとるのと同じ感覚で爆弾石を起爆させることができる。実感としてそれが分かった。
爆弾石は道端に転がっている石から神様パワーで作った。できる確率は30~40%といったところか。経験上できる確率の低いものの方がレアなアイテムであることから、そんなに強力なアイテムとは思えない。
岩をも砕くハチの攻撃に傷一つ追わないワニ達を仕留められると思えない。精々が驚かしたり注意をこちらに向かせることぐらいだろう。だが、ワニに対して異常な闘争心をむき出しにしているハチが素直に言うことを聞いてくれるかは確信が持てない。
加えてハチから注意を逸らせばその逸らせた注意は俺に向かうことにもなる。ハチを止めるべく積極的な行動をとっている俺だが、所詮ワニ達から距離があり逃げれるのが容易な場所にいるからに他ならない。
逃げ出すのが難しい間合いで、ハチの援護をすべきか否か。
どうする? 本当に投げるか?
考えていると蛇が再び雷を集め始める。うだうだ考えても仕方ない。
「く、そ、がああああ!!! 」
俺は思い切って上空に爆弾石をなげた。石が爆散し、それに驚いた蛇の雷も四散する。こちらに注意を向けさせるのが目的だったのだが、思わぬ副次効果だ。
「ハチ! とっとと戻ってこい!! 」
ようやく俺の呼びかけに気が付いたらしい。ハチはそれでもしばらく逡巡していたが蛇の注意が俺に向いたのを感じ取ると一目散に駆け出してきた。
戦闘本能より俺を守らなければならない思いの方が勝ったらしい。
そこまで考えたわけではないが結果的にうまくいった。後はここからどう逃げ切るかだ。
川のモンスターみたいだから川から遠くへ逃げれば追ってこれないか? ハチの足なら逃げ切れるかも。
少し希望がでてきた。
だが、ハチが俺を回収する前に蛇の雷が溜まってしまう。
今度はハチを狙っているのではない。小賢しくもハチにとどめを刺すのを邪魔した奴。つまり俺を狙っている。
俺はハチと比べれば装備が充実している分防御力は優れているが、いかんせんレベルが低い。それにゲームだと魔法攻撃は防御力とは無縁にダメージをくらう。
この世界ではどうなのか確証が持てないが……こんなことならもっといろいろ試しとくんだった。後悔したがもう遅い。
光の速さの雷撃を避けられるとも思えない。一か八か防御するしかない。
神よ! 祈りたくても今の俺が神だから効果はなく「そのノリ突込み何度目だ? 」と自分に突っ込みつつ盾を構える。
俺の内心の思いなど構うこともなく、蛇の雷が放たれた。




