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忘れられた神様  作者: ニスコー
第三章
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時空転移

 カルラを追うことになった俺たちとは別に、魔王の動向とカルラ探索を邪魔するべくラドンは俺たちと離れることになった。


「じゃあね、サトミ。また僕にあったらそのときはよろしく」


 変な挨拶と共に去って行った。


 そして今。

 俺とハルとチウネで空間転移してカルラを追うことになったのだが、チウネは「時と空を渡る霊竹のやり」を構えたまま一向に術を使おうとしない。

 難しい顔をして固まっている。


「おかしいですね。前はできたのに」


 どうやら術が発動せずに困っているらしい。


「そういえばチウネが術を使ったとき最高で何人まで運べたの? 」


「話しかけないでください。気が散ります」


「……」


 俺別に悪くないよな? 理不尽だな。と思いつつここで怒るのも大人げない。

 やり場のない怒りを抑え込む俺。


「前は私と二人で飛びました」


 おずおずとハルが説明してくれる。

 俺にそんなおずおず話しかけないでいいよ。ていうか結構長いこと一緒にいるのにおずおずされると傷ついてしまうよ。チウネの気が立ってるからおずおずとしてるだけだとは思うけど。


 どうやらチウネの空間転移は2人までしか飛べないらしい。

 はい、終了。別の手を考えないと。


 とはいえ、ラドンは仲間と連絡を取るために俺たちの傍から離れてしまった。

 ラドンには瞬間転移できる知り合いがいるらしい。そいつと合流できればカルラを追える。

 でも今はそれすらも無理。

 ラドンの知り合いの空間転移できる奴抜きでカルラのところにたどり着かないといけない。


 いや、チウネと俺が2人でラドンのところに飛べばいいのか?


 ラドンは別に空飛んで移動してるわけじゃないから飛びながら空間転移しなくてもいいはずだ。俺とチウネの二人だけなら術も成功するだろう。


 チウネに目的の変更を告げようとしたその時だった。


「手伝ってあげようか? 」


 そういったのはアンリウムだった。

 声に起伏がない。なんだか嫌な予感がする。


「サトミ。償いさせるっていった。悪魔じゃなくするって言った。なのに、ラドンがアンリウムを魔王にするって言ったとき反対しなかった」


 そういえばさっきからアンリウムの姿が見えなかった。どうやらずっと俺についてきていて、ラドンがアンリウムを魔王にしたいと話していたことも聞いていたらしい。


「いやいや、俺は反対しただろ? 」


 自分の会話を思い出す。反対……した、と思っていたが、明確には反対しなかったかもしれない。

 アンリウムは起こっていた。目に涙をためていた。


「嘘つき! 」


 アンリウムが叫ぶと、その膨大な力の一部がチウネにふりかかる。


「あ、ああ、あああああ」


 チウネが何かに耐えるように霊竹のやりにすがりつく。

 霊竹のやりが尋常でない光りを放ち始める。


「主様! 」


 慌ててハチとおごんがチウネから霊竹のやりを引き離そうとしたが、時すでに遅かった。

 ぐにゃりと空間が歪む。


 ……


「野球やろうぜ! 」


 久方ぶりにあった近所の兄ちゃんが言った。

 兄ちゃんにはあまり友達がいない。頭もよくない。

 家が近所だから幼稚園からの付き合いだけど、俺の事を気に入っている。

 理由は俺と築けたような付き合いを他の人とは築けなかったからだろうと、今にして考えると思う。

 そう考えれば可愛いものだ。

 学年も違うのに休み時間ごとに話しかけてくるし、おかげでクラスの間ではちょっとした有名人だったし、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかったけれども。


 それにしても今頃野球かい。兄ちゃんは下手投げで俺にぼこられてからサッカー選手目指すって言ってたような気がするんだけど、もう辞めてたのだろうか? まぁ辞めるも何も無理だと思うけどね。


 兄ちゃんは下手投げではなく普通の上手投げで俺の勝負を挑んできた。

 さすが経験者というべきか、速い球には全く反応できない。


「なぁ、俺ってずっと野球やってたら、上で投げてたら、プロに入れたと思うか? 」


「無理だと思うよ」


 即答する俺。兄ちゃんは何しても俺にまとわりついてくるからな。遠慮などいらないのだ。


「はっきりいうな。でも、お前には勝ったぜ! 」


 もしかしたら、それはあのときの、下手投げで俺にぼこぼこになったときのリベンジだったのかもしれない。そういえば兄ちゃんは今年20になる。節目の年だ。


「俺、結婚するんだ」


 そう、結婚をする。やっぱり節目の……て


「結婚!? 」


 なにそれ聞いてないんだけど? 俺は目を丸くした。


「でき婚ってやつだぜ。饅頭撒くからお前も来いよな! 」


 しかもでき婚だった。

「息子はプロ野球選手にするぜ! 」そう宣言している兄ちゃんを見ていてなんとなく誰かに似てると思う。

 誰だっけ? 


 ……


「主様! 主様! 起きてください! 」


 ハルが一生懸命俺に呼びかけている。

 そうだ、近所の兄ちゃんはハルに似ている……わけない。

 なんかどうでもいい、本当にどうでもいい夢を見ていた気がする。


 気がついてよかったと泣きついてくるハルをなでつつ状況を確認する。

 確かチウネの空間転移が失敗して……そうだチウネだ。チウネはどこだ?

 あたりを見回すと緑の木々が生い茂る森の中だった。

 見たことはない場所だ。その証拠に森の中でもひときわ大きな木に金色の果実がなっている。あんなものは見たことはない。

 これはいったいなんなのか?

 なんとなく手に取ってみようとする。


「それに触るな! 」


 そして現れたのはラドンだった。けれど、どうも様子が違う。

 いつも柔和な笑みを浮かべていた彼とは違う。その目は険しく、俺を本気で敵視している目だ。

 ハルもすっかりおびえてしまっている。


 これは一体……?


 俺は思い出す。ラドンとカルラの初めての出会いで出てきた黄金の果実のことを。

 ラドンは昔、黄金の果実を守っていたのだという。

 そしてその森からカルラが外に連れ出した。だからラドンにとってカルラは特別な存在。


 今、黄金の果実がここにある。ラドンはこれを守っている……


「これに触る気はない。ただ、一つ、聞いてもいいか? 」


 ラドンは答えないが、拒否もしない。言ってもいいということだろうか?


「俺はサトミ、俺の事覚えてるよな? 」


 知っているならチウネの術でラドンのところに飛ばされて、たまたまかつて自分が守っていた黄金の果実を見に来ていたということになる。

 でも、もし知らなかったら……


「お前のことなど知らない」


 ラドンはきっぱりと答えた。

 チウネの魔道具の名前は「「時」と空を渡る霊竹のやり」もしかしたら時間まで操れるのかもしれない。

 まさかとは思うが、もしかしたら俺たちは時間まで飛び越えてしまったのかもしれない。

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