昔は悪だったていうけれど
俺とラドンは知り合いだ。カルラを魔王にしないという共通の目的で一致している。仲間であるといえなくもない。だが、もしここが本当に過去の世界なら、当然ラドンと俺に接点はない。
ラドンから見た俺は黄金の果実を奪いに来たその他大勢の1人に過ぎない。
まずは俺がその他大勢の1人ではないと示すべきだろうか? それともその他大勢の1人として話をするべきだろうか?
「俺は空間移動の魔法の失敗でここにやってきてしまったんだ。悪気があってここに来たわけではない」
俺は後者を選択した。
ラドンの昔話では、彼はむやみに他人を攻撃するやつではなかったはずだ。
前者を選択して俺が未来から来た知り合いだと信じてもらえればいいが、信じてもらえなかった場合「黄金の果実を盗るために姑息なことを言っている」と思われるだろう。そう思われたら最後何言っても信用してもらえまい。
「空間移動の魔法に失敗して、たまたま都合よく、その果実の前にやってきたというのか? 」
ラドンの目は座っている。
ああ、なんか全然信用されてない。
あの目は「黄金の果実を盗るために姑息なことを言っている」と思っている目だ。
なんということだ。未来からやってきたというまでもなく疑われてしまった。ていうか俺っていつもこのパターンじゃないか?
「まぁいい、この場を大人しく去るならよし。さもなくばお前の最も大切なものを奪うことになる」
ラドンはついこの間親しげに話していた少年とは思えない威厳のある、威圧感のある声を俺にむけてはなった。
つまりラドンはこう言ってるわけだ。「大人しく去れ、さもなくば殺す」と。
話し合う余地はなさそうだ。大人しく去った方がいい。
「お、お待ちください! 」
それに待ったをかけたのはハルだった。
「主様の言ってることは本当です! チウネさんの魔道具でここに来たんです! この果実を奪う気などありません! 」
声が震えているが、はっきりと主張する。ハルがこんなにはっきり主張するなんて思わなかった。どうしてこんな大胆な行動に出たのだろう?
「この近くにチウネさんも飛ばされたはずなんです! どうかチウネさんを見つけるまで待ってください! 」
ああ、なるほど、チウネのことが心配だったのか。
それでこんなに頑張って主張してるのか。俺はちょっと感動した。
俺なんかチウネの事すっかり忘れてたよ。
考えても見ればチウネの術で飛ばされたんだからチウネも近くにいるはずだ。あいつがいないと元の時代に戻れない……じゃなくて、仲間の身の安全を心配するのは当然の行為だ。
「仲間か、それは心配だな。だけど僕は騙されないよ、蛇の子よ。君からは半分蛇の臭いがする。それもただの蛇じゃない。大きな力を持つ蛇の臭いだ」
ラドンはハルを睨みつける。
「こういう昔話を知ってるか? 昔々人間たちはエデンという楽園にいたんだって、でも蛇にそそのかされてエデンの実を食べて楽園を追われた。お前もその蛇の仲間なんじゃないか? 」
「そんな話とハルが何の関係がある? 俺の眷属を馬鹿にするのはやめろ」
別に俺の話を信じないのは構わない。黄金の果実を守るのも仕事だ。でもハルを傷つけるのは許せない。
ハルは何を言われたのかわかってないようだが、侮辱されたのはわかったみたいだ。困惑した顔をしている。
「君は自分の立場が分かってないのか? 」
ラドンは気分を害したようで俺を睨みつけた。
「わかってるさ、森に迷い込んだ力のない雑魚だ。でもそんな子供にまで罵倒するお前はそんなに立派な存在なのか? 」
俺はラドンを挑発した。でも、決して怒りにまかして挑発しているわけではない。一応勝算があってのことだ。未来で会うラドンは基本的にいい奴だった。いくら過去と言ったって、力のないハルに力でどうこうしようとするような奴ではないはずだ。
「もういいよ、お前うるさい」
ラドンは炎を俺に向かって放った。
腰の皮袋で石がくだけた感覚がある。
身代わりの石が二つ砕け散った。俺とハルは今の攻撃で死んだ。
「へぇ、確実に死んだと思ったけど、どうやったんだい? 」
面白そうにラドンが言った。初めて俺たちに良い意味で興味を持ったようだ。
こいつ……本気で俺たちを殺そうとしやがった。
どういうことだ? ラドンは最初からいい奴ではなかったのか?
例えばかこのラドンが俺を殺したとして、未来で俺に会う。そうすると未来のラドンは俺が過去に飛ぶことも、そこで殺されることも知っている。
最初からそうと知っていて内心笑いながら俺に接していた。そういう考え方もできる。
俺がいなくなった後じっくりカルラを魔王に勧誘する。最初からそれが目的だった? 最初から悪い奴だった?
「主様……」
傍らのハルが不安そうにしている。
……どうでもいいことを考えすぎるのは俺の悪い癖だ。問題は今どうするかだ。どうすればハルを守れるか。ここはもう伝家の宝刀を使うしかない。
「お前は俺を弱いと思っているようだが、それは違う! 俺は誰かを生き返らせることができる。蘇生術特化型の神様なのだ! 」
定番の蘇生術押しだ。といっても今は使えないけど。
「それで自分を生き返らせたっていうのかい? 」
ラドンは再び炎を吐いた。また身代わりの石が砕け散る。
過去の経験を生かして小さな身代わりの石を30個ほど腰の皮袋に入れて常備している。そう簡単には死なない。そう簡単には死なないが、石が亡くなったら死ぬ。試しに殺そうとするのはいい加減やめてほしい。
「いいだろう。僕は強い奴が好きだ。君の力を認めよう」
ようやくあきらめたラドンは言った。
「でも黄金の果実に手を出すことは許さない」
そしてそう付け加えた。
……
ラドンは森の中の範囲でチウネを探す手助けはしてくれるそうだ。
未来のラドンほどではないがくだけた感じで接しやすくもなる。
でも……
こいつはさっき俺たちを殺そうとした。俺だけならまだしもハルまでだ。
昔は悪だった、でも今はそうじゃない。みたいな言葉を聞くことがあるけど、それって本当なのだろうか?
性犯罪者や中毒者はたぶん当てはまらないだろう。内からでる衝動みたいなのがあるという。
人殺しはどうだろう。更生不可能とするなら戦争で人を殺した者も皆更生不可能となってしまう。ということはあてはまらないのか?
戦争というのはそうしなければいけない場で殺す行為。そうしなければ殺される。
事件における殺人は殺してはいけないルールを犯す行為。そうしたらいけない中で行為をするのだから身勝手であり罪であり更生不可能……
「どうしたのですか? 主様? 」
ハルがきょとんと俺を見上げている。
なんでもないと頭をなでてやる。
こういうときカルラがいれば笑い飛ばしてくれるかもしれない。
チウネがいたら戦争も悪だからみんな地獄に落ちるというかもしれない。ただし聖戦はOKとかわけの分からないことを付け加えるかもしれない。
……
ラドンは森の中をまんべんなく探してくれたがチウネは見つからなかった。
どうやら森の外に飛ばされたか、もしくは飛ばされたのは俺とハルの2人だけだったか。チウネの術は2人までという。その可能性もなくはない。そうなると元の時代に戻るのは絶望的なのだが……
「帰りたい場所はどこなの? 方角ぐらいは教えてあるよ? 」
地が出て来たのかやけに親切になってきたラドンに、チウネを探している理由が未来に戻るためだと話すことにする。もしかしたらチウネは飛ばされずに元の世界にいるかもしれないとも話す。ただしラドンと俺が知り合いであるとは話さないことにする。もしかしたら未来が変わってしまうかもしれないからだ。
それならばと、ラドンは石化の術を使う魔法使いのことを教えてくれた。
元の時代に戻るまでずっと石化してればいい。
「まぁ、割とよくある話だよな」
「? 」
「いや、なんでもない」
とりあえずこの世界にチウネがいるのか確かめないといけない。いないならラドンの知り合いの魔法使いを頼ることにしよう。
そうして森から離れるときになり、ラドンと別れることになった。
……
「ハルはとてもいい子だろ? 」
俺ははたと立ち止まりラドンに言った。ハルには聞こえないように配慮する。
「どうしたんだい突然? 」
「でもお前はそのハルを殺そうとしたんだ、何か思うところはないのかなと思って? 」
ちょっとうざいことを聞くかもしれない。
でもラドンはいいやつだと思う。そういう奴が簡単に人殺しなんてしてほしくはない。
だから聞くことにしたのだ。そのことについて今はどう思ってるのかということを。
「僕が君たちを簡単に殺そうとしたのは君たちなんて僕にとっては虫とかわらないからだよ。子供だろうが、大人だろうが虫に配慮はしないだろう? でも1度仲良くなれば虫にも配慮はするよ。僕は君達のことを忘れないだろうね」
何百年たっても何千年たっても。僕は君たちのことをここで思い出すだろう。
ラドンは俺にそう告げた。
この時点では、ラドンはずっと黄金の果実を守り続ける気でいたらしい。
カルラはいったいどうやってラドンをつれだしたのだろうか?
まぁ、たぶんろくでもない、どうってことないことなんだろうけど。
ラドンに見送られ、俺たちは森を離れた。




