送り火
ガタゴトガタゴト荷馬車は揺れる。
現在俺たちはチウネ提案のトートへの最短ルートを移動中である。
旅に出てからチウネの有能さがすごい。砂金を換金した時もそうだったが、今回も最短でトートに行けるルートをあっという間に見つけて提案してきた。俺が思ってるよりチウネはすごい奴だったのかもしれない。元の世界でだって性格がいい人が有能というわけではなかった。偏った考え方をしていようとも勉強のできるやつ、運動ができる奴、金儲けがうまい奴なんてざらにいるのだ。チウネもそういう奴なのかもしれない。同い年で同じ学校に居たら「チウネさんて素敵だね。雲の上の存在だよ」とあこがれの目で見ていたかも……いやぁ、やっぱりないかな。どっちかというと生意気な帰国子女タイプで苛められそうかな。
現在は馬車に乗って移動中だが、ずっと馬車で移動するわけではない。汽車やら船やら乗り継ぐらしい。
国によって文明レベルが全く異なりオリンポスには飛行機まであるということだった。飛行機は今回乗らないし乗れないけれど。
「オリンポスってギリシャ神話にでてくるあのオリンポスだよなぁ。飛行機って、全然名前にそぐわない気がするぞ? 」
「ぎり……? オリンポスは現在大統領制の国です。自由主義国家の投資家の国として賑わっています」
チウネが言うには本来8つの国には王の血族とかいう大きな力を持った存在が治めているのだが、年々その力は弱まっており国の代表者から退いたり、国そのものが雲隠れして代表者だけ使わされたり、人間の国になるようにシフトしていっているのだという。
オリンポスは特にそれが顕著で以前いた王は表舞台から消えているとのことだった。
そのせいなのだろうか、国の形態として俺の元いた世界の仕組みに近い気がする。オリンポスへの入国にはビザ、パスポートがないと入れないし、当然飛行機にも乗れないらしい。
「僕が知ってるころのオリンポスは王の血族の呪いにクロノスの宿命が加わってひどいことになってたなぁ」
ラドンが懐かしそうに言った。
オリンポスの王はとある神を倒すためにクロノスの名前を得たのだが、その神を滅ぼした呪いとクロノスの名前の宿命が加わってとても悲惨なことになっていたらしい。
「誰かがその呪いを治めたらしいね」
ラドンはちらりとおごんを見た。
おごんはつまらなそうにそっぽを向いている。
「そんなことよりお腹がが空いたわ」
おごんは俺が自分を見ているということに気が付くと腕をからませてきた。
現在馬車にはおごん、俺、チウネとラドン、カルラ、ハル、ハチが向かい合って座っている。カルラとハチは退屈で眠ってしまい、ハルはぼーっと外の景色を眺めている。
「何をしているんですか! 」
チウネも負けじと腕をからませてくる。
ああ……うれしい状況のはずなのに全然うれしくないよ。
「モテモテだねぇ」
ラドンがそう言って笑った。
……
兎に角お金はいくらでもあるし、その気になれば神様パワーでねん出することもできるのでお金に糸目はつけない。
いい馬車に乗っていいもの食べていい宿泊所に泊まる。
町によってはその土地では最高級の食べ物でも俺の口には合わず神様のフライパンを使って手を加えることもあったけれど、特に問題もなく旅は進んだ。魔王の追っても影も形もない。
そんなある日の夜。明日は船で海路を行くという時のことだった。
「主様、起きて! 」
気持ちよく眠っていた俺をハチが起こした。
宿泊施設の部屋は最近ハチは俺たちと同じ男組に入っている。最初の町から離れて再びキムタクに化けるようになったカルラと少年の姿のラドン、そして俺。ハチは男3人組と離れて女組に入れられているという事実に気が付いてしまったらしい。
ハルが「こっちに残ってよ」というオーラを醸し出していることに気づきもせず、俺たちの組に入りたいと直訴してきた。
まぁ仕方ないね。男の子だものね。
いっそハルも男組に引き入れようとも思ったけれど、ハルを抜いた女組はチウネとおごんとアンリウムという問題児だけが残ることになってしまうため断念した。
ハルには3人のノリになってもらわねばならない。
アンリウムもさすがにハルをいじめるようなことはないし、おごんはよいお姉さんアピールのため変なことはすまい。チウネとは前回の天使騒動で友情が芽生えているようだ。
君だけが頼りなんだよハル!
……
「カルラとラドンがいない」
最初自体がよくわからなかったが、ラドンはカルラを魔王にするということに特に躊躇がないように見えた。もしかしたらスパイだったのかもしれない。
俺は慌ててハチにカルラの臭いを追ってもらうことにした。
……
カルラはすぐに見つかった。会場に大きな火柱を立てているところだった。
何をやっているのか? 疑問に思う俺。
「送り火って奴だよ」
それに答えるようにラドンが現れた。
送り火。それはお盆に帰ってきた死者の魂をあの世に送り返すための行事。
「でも、あれってお盆じゃない? 」
この世界では今日がお盆なのか?
「カルラだからね。そこらへんは何も考えてないんじゃないかな」
ラドンが答えた。
……言われてるぞ? カルラ?
「サトミじゃねーか! 何やってるんだ? こんな時刻に? 」
心の中のつっこみが聞こえたわけでもあるまいが、カルラに気づかれてしまったようだ。
「何やってるんだ? は、こっちの台詞だよ」
どうやらカルラは仲間のクロウを弔うつもりだったらしい。
カルラは旅の間中クロウについて考えていた。あのときジャンケンで魔王を決めたりしなければ、魔王13人衆に仲間と一緒に入っていれば。こんなことにはならなかったんじゃないかと。
「らしくないぞカルラ」
「らしくないな。だから送り火をすることにしたんだ。でっかいやつをな! 」
弔うっていうのは死者のためというのもあるけれど生者の気持ちの整理をつけさせるためにもあるのかもしれない。なんとなく思った。でもそれで送り火なのか? 使い方間違ってないか?
それに、カルラ。お前は知ってるだろ? 俺は蘇生術を使えるんだぞ? なぜ俺に頼らない?
現在はおごんを助けた反動で使えなくなっているが、ずっと封印されてるというわけでもないだろう。
それに俺の蘇生術には時間的制約もない。遺体さえ見つかれば生き返らせれるかもしれない。
忘れてるのか? あえてそうしないのか? 恐いのか?
俺は幼馴染を生き返らせない。遺体が見つからないからだけど、それだけでもない。
恐いって気持ちもあるのだ。
ずっと離れていたから、昔とは変わってしまった自分を見せるのが恐い。
だから躍起になって遺体を探すことはしていない。
それは後ろ向きな気持ちだろう。カルラもそういう気持ちがあるのだろうか?
「なぁ、カルラ、生き返らせようとは思わないのか? 」
カルラは驚いたように俺を見た。
「できるのか!? 」
「わ、わかんないけど遺体があれば」
「マジか!? 」
カルラはラドンにクロウがどこらで亡くなったか聞く。
それは最果ての地。妖水の森のすぐ近く。
「じゃあサトミ、俺ちょっくら行ってきて遺体探してくるわ! 」
「トートって鈴木の出身地だったよな? そこで落ち合おうぜ! 」カルラは言うやいなや巨大カラスに姿を変え、飛び去った。
……て本当にそこに気が回らなかっただけかよ! ていうかそんな目立つ格好で飛び回ったら魔王に見つかるじゃん!
俺は頭を抱えた。




