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忘れられた神様  作者: ニスコー
第三章
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魔王の正体

 火を消す方法、まず水をかけます……ですが残念、この世界の生活水準から考えて水道などはありません。消火器なんてあるはずありません。とりあえずシーツではたいてみたけど余計に燃え広がりました。

 アンリウムの炎が特別なんじゃなくて、たんに俺の対処が悪い気がしなくもない。


「なーにやってんだ」


 カルラが簡単に火を消し去った。

 ナイス!

 でも部屋にはしっかり焼け焦げた跡が残っている。

 街に入っていきなり問題起こすのは不味い気がする。


 ……金でもみ消せるかな?


 ナチュラルに邪悪な考えをする俺。


「僕のことを嫌うのは構わないけど、今回は穏便に済ませてほしいな」


 炎をけしかけられたラドンは怒った風もなく炎をけしかけた当人、アンリウムを見つめる。

 友好的な態度も崩さない。


「今回は君にも有益な情報を持って来たのに」


「有益? 」


 アンリウムは怪訝な顔をする。

 ラドンの態度には特に疑問を持ってないのでラドンはもともとこういう性格だと見当つける。


「実は魔王にカルラのことがばれてしまってね。どうやら魔王はカルラに魔王を変わってもらいたいらしくて居場所を探してるんだ」


「俺が魔王? 」


 カルラがすっとんきょうな声を上げた。


「それは断ったはずだぜ。クロウとジャンケンで決めたんだ」


 魔王をジャンケンで決めたのかよ、そんな突込みは今は置いておこう。

 クロウ、どうやらそれが魔王の名前らしい。

 カルラは烏天狗。烏天狗とクロウといえば源クロウ義経。この世界には名前が宿命をもたらすという法則があるらしいのだけど、義経に魔王要素なんて……ないこともないか。

 義経伝説には義経が死なずにチンギスハーンになったというものもある。それなら魔王といえなくもない。


「そうなんだけど事情が変わったんだよ。クロウが事故で亡くなってしまってね。今の魔王は田中さんだよ」


 とか考えていた俺の考えをあざ笑うかのようにラドンは告げた。

 田中さんが魔王。田中性で魔王っぽさがあるのは田中角栄……て、いやいや、いくらなんでも無理がありすぎるだろう! それ!

 何か根本的なところで勘違いしてないか? 名前には力を授ける作用もあれば力を封じる作用もある。昔、俺だってチウネに田中って名前を付けて普通の人間にしてやろうと思ったことがある。

 ということは、魔王田中は力を削ぐための名前なのかもしれない。


「まじか??? 」


 カルラは仲間が死んだと知って相当ショックらしく呆けている。


「アルメリアは監視されてて動けないから代わりに僕がやってきたというわけさ」


「それで。なんでそれ、私に有益な情報なの? 」


 アンリウムは疑わしそうにラドンを見つめている。


「勇者はカルラが魔王になることは望んでなかった。カルラを魔王にしないことは勇者の意思だよ。勇者がもういなくなってしまった以上、それを代行するのが君の使命なんじゃないかと思ってね」


「お前……」


 ラドンは意味ありげにアンリウムを見つめている。

 たぶん、ラドンはアンリウムは勇者を殺したことに気が付いてる。

 アンリウムもそれに気が付いたようだ。


「君は僕のことを嫌ってるようだけど、僕は君のことが好きなんだよアンリウム。だって君は強いもの。僕は強いものが好きなんだ」


 アンリウムが勇者を殺したことはカルラは知らない。いつもは自由気ままに動き回るアンリウムだが、そのことをカルラに知られるのは嫌なのか、黙って恨めしそうにラドンを見つめている。

 一方、カルラは仲間の死が相当ショックだったらしい。

 真相を問いただそうとするが、ラドンははぐらかすばかりだ。


 俺は会話から代替事態を把握する。

 どうやらカルラを魔王にしたい一派がいるらしい。

 魔王はカルラ達にとってはジャンケンで決めてしまえる程度の意味しか持たないらしい。

 でも勇者は、幼馴染はカルラを魔王にしたがらなかった。


 ……


「ひとつ聞いていいか? 」


「なんだい? 」


 ラドンが俺を見つめる。心なしか少し楽しそうにしている。

 ラドンはカルラを魔王にしたくないと言っていたけど、本当にそうなのだろうか? 少し疑問に思う。


「魔王になるっていうのは、どういう意味を持つんだ? 」


「どういう意味とは? 」


 カルラはいい加減だが割と義理堅い、いい奴、と言えなくもない奴だ。

 そしてこの世界は名前が意味を持つ世界。記号が意味を持つ世界だ。

 カルラという記号が魔王になることによって特別な意味を持つ、そういうことはないのかと……何を言いたいのか自分でもわからん。


「カルラが魔王になることによっていい加減で義理堅いことが悪いことになったりとか……ちょっとまって今のなし」


 自分でも何言ってるのかわからなくなって聞くのを辞めた。

 しかし


「君はなかなか頭がいいね。お察しの通り、そういう側面は確かにある。かつて魔王を倒した古き正義が今度は魔王になり、新しい正義に倒され、そしてそれが一週まわってかつての魔王が新しい正義になる。それが、この世界のあり方だよ」


 そして幼馴染はカルラのありようを魔王にすることを望まなかった。

 いい加減で義理堅いのは悪か。なら正義はきっちりとして合理的な考えということか。それってなんか……


 なんとなく、この世界における魔王というものを理解する。

 では今、この世界に存在している魔王は、そのあり方とはどういう者なのか。

 恐らく強い力を持っている。でもその名前を凡庸な名前で封じられている。非常にあやふやな存在。


「今の魔王田中って言う奴は、どういう存在なんだ? 」


「あやふやな存在だよ。だから、この世界は敵を見いだせないんだ。でもそうだね、君ならもしかすると田中さんの本当の力を解放できるかもしれないね。それならそれで面白い」


 そうだヒントをあげよう。ラドンは言った。


「田中さんの外見は隻眼の老人だ。その瞳に魅入られたものは即死される力を持つ。知識を愛し、詩を好む。知識を得るためなら身体の一部を差し出すこともいとわない」


 確かに俺はそれが何かすぐに分かった。オーディン、それが田中の封じられた名前なのだろう。

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