それも本当。でもこっちも本当。
サトミがトートに向かい旅立つことが決まり、盗賊達は記念の宴を催してくれることになった。
町は勇者の来訪(とういうかカルラが暴れたせい)による復興中でありそんな余裕はないと思うのだが、ジェイドを助けてくれた恩人ということでぜひ参加してほしいと頼まれた。
ジェイドは町中のみんなに好かれている。その理由は人柄から……というのもあるだろうが、もっと打算的なものも大きく作用しているようだった。
町に戻ったジェイドは自身の魔道具「悟り見る心の女神」で片っ端から怪我人を治して回った。
無償で怪我人を助けて回る彼の存在は町の者達にとってかけがえのない存在なのだろう。決して善意とか好意だけで好かれているのではないらしかった。
町の者達はジェイドがサトミの眷属になり、盗賊を辞めること。他の盗賊達も半数が盗賊家業を辞めて出ていくことを知らされると、微妙な視線でサトミ達を見てくるようになった。あんまり気持ちのいいものではなかった。
「落ち込んでいるの? サトミ」
「純粋なのねぇ」と、おごんが言った「そういうところが好きよ」と続いたのは聞こえないふりだ。
町の微妙な雰囲気に気が付いているのは俺とおごん、後はもしかしたらハルが気が付いているかもしれないくらいだ。
チウネは妹を助けることを俺が了承したことで有頂天になっている。いつも空気が読めない娘なので平静であっても気が付くかどうか怪しいところではあるが。
ハチとカルラは能天気に気を高める訓練とかいって大きな岩を担いで走り回っている。ゴーイングマイウェイだ。ハルは一生懸命それについていっているが、他人に対していつも怖がってる子だから、そういう空気の変化に気が付いているかもしれない。
アンリウムはアルメリアいじめに余念がない。確かに普通にしろとは言ったけれども、もうちょっと償いの気持ちとかいうものの片りんを見せてもらいたいものである。
「少しいいか」
ジェイドが俺の横に座った。
ジェイドにはもちろん、生き返らせる条件として盗賊を辞めさせたということは話してある。
それを聞いたジェイドは旅をしたいと言っていた。かつて自分を助けた勇者がそうしたように、そして俺が絶対したくないことでもある、目につくものすべてを手当たり次第助けていくという旅だ。盗賊を辞めるという者達も全員ではないがそれに同行するという。「坊ちゃんだけ行かせたら、際限なく力を使いすぎておっ死ぬのがおちですよ」とはガプスの弁だ。
「さすがに少し疲れたよ」
ジェイドはそう言って笑った。
魔道具は適性がなければ死ぬこともある危険なものであり、いくら適性があるといっても連用するというのは危険な行為であるらしい。
町についてひっきりなしにその力を使ったジェイドは見た目以上に消耗しているらしかった。
ガプスの心配はもっともというところだろう。
「でも、これが最後だから」
とジェイドは言った。
ジェイドは旅に出るという。でも俺とは一緒に行かないという。理由は旅が贖罪の旅だからだ。
本当は一人で行きたがっていたが、ガプス達が無理を言って同行を決めた経緯もある。
聞くところによるとジェイドが直接手を下して誰かを殺めたことはないらしい。だが、それを支持する立場にはあった。その罪を感じている。だから一生そうやって生きていくのだという。
どっかの勇者殺しの妖精にも見習ってほしいところだ。
でも実際にそうやって生きていくといわれると、そこまでしなくてもいいようにも思える。とくにジェイドはそこまでの罪は犯しているようには思えない。
「償いって言ってるけど本当はそうじゃないんだ」
しかしジェイドは首を振った。
「ずっとそうしたかった。ずっとそうやって生きたかった。今にして思えばそんな気がする」
ただ心配なのはそんなことしていて生きていくことはできないということだ。人は生きていればおなかがすく。だから食べないといけない。働かないといけない。ずっと人を助けて生きていくことはできない。
助けた分金をもらえばいいと思うのだが、ジェイドはそういうことはしたくないと言う。
「じゃあ金持ちからがっぽり金をむしりとって、貧しい奴からは取らなければいいのよ」
そう言って現れたのはアルメリアだ。
「俺は償うために旅に出るんだ。そんなことはできない。そんなことをしていたらいつか盗賊だったころと同じことをするようになるかもしれない」
しぶるジェイドにアルメリアは続けた。
「もとは盗賊の頭目で、悪魔と契約していたのよ。あんまりいい子ぶらないことね。あなたは過去をなかったことにするために人助けがしたいの? 」
「それじゃ償いじゃなくて自己満足よ」アルメリアは怒ったように言った。
「もしあんたがまた盗賊みたいになるならまた私が現れるわ。そして今度こそあなたの魂をいただくからね! 」
まぁ、なんだ、茶番って奴だ。その証拠にアルメリアもジェイドも、今はもう顔が笑っている。
なんだかんだいってよい関係をきづけていたのかもしれない。サトミは思った、
……
「おかしい……」
アンリウムがぼそりとつぶやいた。
「な、何がよ。今いいところなんだからでてこないでよ! 」
今現在アルメリアはジェイドを叱咤激励してかっこよく去っているところだ。きっとジェイドは自分のことをよい思い出として思い出すだろう。
決まったわ……私! と自画自賛のアルメリアだったのだ。
そこにアンリウムがでてきたらすべてぶち壊しだ。せっかくジェイドの前では頼りになるお姉さんキャラで通してきたのに、最後の最後に3枚目キャラとして記憶が上塗りされてしまう。
それはいけない。とてもいけない。
アルメリアはとても焦った。
「デスメリアに関わったのに、あの男死ななかった」
「人聞きの悪いこと言わないでよ! 」
怒るアルメリアだったがアンリウムは全く別のことを問う。
「あんたに関わる男。みんな不幸になった。理由分かる? 」
それは、あんたの業が深いから。手放さないから。なのに今回は違う。手放す。何故?
「アルメリア、すべて私の下だったのに」
アンリウムは悔しそうにそういうとどこかに飛んで行ってしまった。
「な、なんなのよ、もう……」
それを見送りほっとするアルメリアだった。
……
ジェイドを盗賊から足を洗わせた俺への報復に、町の人たちは毒をしこんだり、因縁つけてきたり……はしなかった。
普通にお別れ、ジェイドとも涙と笑顔でお別れしている。
「どうしたんだ、サトミ変な顔して」
カルラが聞いた。
カルラは別れの挨拶に来たアルメリアに「どうしたんだ、辛気くせぇな。どうせお前瞬間移動の魔法が使えるんだからいつでも会えるだろうが? 」と突き返して腹にエレボーをくわされ悶絶していたところだったのだが、なんかすぐに回復したようだ。
「いや、別に……」
町の人たちの反応を見て思う。
考えても見ればわだかまりがあってもそれが表面化することなんてそうそうありはしないのだ。それでも普通に物事は進んでいく。
町の人たちはジェイドがいなくなる原因を作った俺の事なんかきっとすぐに忘れる。そして町に大きな天災が起こったりしたときジェイドがいたらと思う。でもそんだけだ。それ以上の事なんてない。
「また難しいこと考えてるな。別れは辛い。だから再開するときうれしい、だろ? 」
カルラが偉そうにそんなことを言い出した。そんなことお前に言われなくてもわかってるよ。でもまぁ、そうなのかもね。




