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忘れられた神様  作者: ニスコー
第三章
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逃げたかったけれど

盗賊の町についた。盗賊の町についてしまった……


俺は久方ぶりの盗賊の町を前にげんなりとした。

逃げ出そうと思えば逃げ出せたのだ。

アルメリアは体調不良に加えてアンリウムが常に周りを飛び回っている精神的苦痛で心身ともに弱り切っている。エキドナ改めおごんの力を使わずとも逃げ切るのは容易に思えた。むしろアンリウムから離れられるとなれば快く送り出してくれそうな気がしなくもない。もしかしたらアンリウムはそれを狙ってアルメリアにくっついているのかもしれない。


「喉が渇いた。ラトナの泉のお水が欲しい」


「何言い出すのよ。私は今体調不良でそんな遠くまで飛べないわよ」


「デスメリア偉くなった。私にそんな口きく。昔は何でも言うこと聞いてくれた。悲しいアンリウム。ジェイドに過去の醜聞話すかも」


「ちょっと! アンリウム! どこ行く気なの待ちなさい! いえ、待ってください!!! 」


……やっぱり考えすぎかもしれない。


エキドナの名前がごんぎつねに変わることは止められなかった。運命、宿命は意思で変えられるようだし、エキドナほどの力があればそうそう妙なことにはならないと思うが、多少は心配なところだ。

ごんと呼べという彼女だったが、気安く呼ぶ気にもなれずごんさんと呼ぶと怒るのでおごんと呼ぶことになった。おごん、時代劇からチョイスだ。ギリ女相手にも違和感なく呼べる、かなぁ。やっぱり素直にごんにしとけばよかったかもしれない。でも本人が気に入ったらしくおごんで統一することになった。

……ていうかもう完全についてくる気であり、俺自身それを受け入れてることが怖い。

もちろん俺は彼女の好意を受け入れることはないが、他の誰かに好意を抱くこともできなくなった気がする。だって、よそ見したら殺されそうじゃん? 相手の女が。むしろ俺に好意を抱いただけでやばい気がするよ。

チウネ? ああそんなのもいたね。でもあれは例外だから大丈夫。存在自体がコントみたいなものだからね。仕方ないね。


「主様、すごく荒れてるね」


ハチが町を見て言う。でも、これでも前に来た時よりはマシになった。ただ一か月足らずでは限界があるらしく復旧はまだ先のようだ。壊した当人は……


「ハチ! 気のコントロールの仕方を教えてやるぜ! コントロールできれば空が飛べるるぜ! 」


「本当? カルラもそれで飛んでるの? 」


「そうだぜ! 」


「嘘つけ!お前は羽がついてるから飛べるだけだろうが! 」


脊髄反射でつっこむ俺。ハチに変なこと吹き込むなカルラ! ハチのポテンシャルを考えるとそのいい加減な教えでも飛べるようになりそうなところがまた恐いが。

「いや、俺は羽がついてるから飛べるんじゃねぇぜ。無意識の内に気をコントロールしてたから……」とかなんとかほざいてるカルラは当然無視だ。


そんな俺たちの様子を見ながらハルがニコニコしている。

盗賊の町に近づくにつれ、憂鬱そうにしていた彼女だが、ハチの前だとニコニコしている。それは辛いのを隠すというより本当に忘れているのだろう。ハチは基本的にいつも楽しそうにしている。そして、ハチが楽しいとハルも楽しいのだ。

いいね。いいね。うちの子たちはいい子でいいね。

ハチが人を襲うという気になる予言もあるが、きっとハルがいればそんなことは起こるまい。


「サトミさん、妹の事なんですが……」


辛気臭い顔をしたチウネが現れた。その話は何度も聞いている。

チウネは妹の魂が奪われるとの予言を受けここまでやってきた。でも実際妹の魂が奪われる現場を見たわけではない。将来奪われるという予言をもとにやってきただけだ。

アルメリアに聞いた話によると「子供の魂なんて取らないわよ! 馬鹿にしないでちょうだい! 」とのことだった。アルメリアは奪う魂にこだわりがあるらしかった。

そんなわけで実際奪われてるかどうかも分からないチウネの妹のことなど分かるはずがない。チウネはアルメリアが嘘をついていると主張するが、俺はアルメリアがそこまで悪い奴にも思えず、相談されても結論が出ずに堂々巡りするだけだった。


「今回はそのことではありません。妹がどうなったのか、やはり1度見てはっきりさせた方がいいと思うのです。それで……」


「私と一緒に私の祖国に、トートに来てもらえませんか? 」チウネは俺に頭を下げた。「わかった」俺は即答した。


「え? いいのですか? お前だけで帰れとか言わないのですか? 」


びっくりしたようにチウネが言った。

言わないよ。俺の事どんな冷血漢だと思ってるんだよ。


「妹の命がかかってるんだろ? チウネだって一応俺の眷属、他人じゃないんだし、力を貸すさ」


実をいうといずれこうなることは想定内だった。蘇生術を使うには遺体が必要になるからチウネの妹のところに行かなくちゃいけなくなる。もし魂がない状態の妹を見つけたら生き返らせる。魂がなくとも遺体があれば依代の銅貨と、黄泉照らしの金貨でどこに魂があろうとも生き返らせることは可能なはずだ。


「ありがとうございます! 」


チウネが目に涙をためてお礼を言った。まっすぐに俺を見る。

あ、れれ、そういう素直な反応をされると調子が……


「なんの話をしてるの? 」


私も手伝いたいわ、とかいいつつおごんが現れる。

ふはっ、このタイミングででてくるか。やはり侮れぬ奴。そんな内心の思いも知らずチウネは素直におごんに感謝してる。普段の正しい正しくないとやかましいチウネが嘘のようだ。いつもそうしていれば普通の可愛い娘なのに。


「私はエキドナのことを誤解していました。プレセぺにひどいことをした極悪非道の悪魔だと。でも、天使様も言っておられました。罪は償うことができると。あなたも地獄行きから畜生転生くらいの罪ぐらいには許されるかもしれません」


おごんをエキドナという名前で呼ぶという地雷を踏みぬいた上に謎の上から目線。


「そ、そう、ありがとう、でも今の私はおごんだから」


おごんの顔が引くついているが、チウネは全く気が付いていない。やっぱりチウネはチウネだった。


……


盗賊の町にずるずる来てしまったのは他に目的がなかったからかもしれない。

俺はやはりアルメリアの仲間にはなれない。チウネの申し出を受けて決心がついた。

俺はアルメリアに正直に告げることにした。

アルメリアには世話になったし逃げるようなことはすべきではないと思ったから……とか言えばカッコイイが、おごんがいる以上強気に出れないことをふんでの行動でもある。

俺は基本的に保険なしに冒険したりはしないのだ。


「そう、わかったわ」


アルメリアは俺たちの話を快く了承してくれた。

顔色はやはり悪い。いまだに能力の回復が思わしくないみたいだ。


「だからお願いアンリウムを連れて行って! 」


アンリウムが「私。デスメリアのとこ。残ろうかな」などと言いだしアルメリアの顔がさらに青ざめた。

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