それぞれの決着 下
エキドナに体を乗っ取られたプレセぺはヒラキンを拒絶した。
プレセぺに拒絶されたと思ったヒラキンは逃げ出した。
森の中を走り続け、傷つき、空腹で倒れるまでひたすら逃げ続けた。
そしてある男に拾われた。
男は魔王の配下であるらしかった。
ヒラキンの名を聞くと驚いた顔をして「君って蟹の友達とかいない? 」と訳の分からないことを聞かれた。
「俺のところにところにお前が来るのも宿命のなせる業か」
男はそういってヒラキンに花を摘んでくる役目を与えた。死者を弔う花なのだと言う。そうすることが正しいことなのだと男は言った。
男には何人かの仲間がいたが、その中の一人は母の国の出身の者だった。名前をケルベロスといった。彼女は俺を助けた男を伴侶として認めているらしかった。どうやらエキドナのことを知っているらしく、ヒラキンのことを疑いの目で見ていた。ヒラキンはなるべく彼女を避けた。
ある時、男は問うた。「名前を変える気はないか? 」男はヒラキンのことが気に入ったのだといった。そして今の名前はあまり良くない名前の名だと教えてくれた。名前を変えればよくないことはおこらないかもしれない。
そしてヒラキンには偉大な英雄になる資質があるのだとも言った。ヒラキンは迷ったがそれを承諾した。
プレセぺに拒絶された今となってはどうでもいいことだ。英雄だか何だか知らないが、そんな自分でも役に立てるならとヒラキンは思った。
「君は蛇に縁があるようだ」蛇を倒して、蛇に縁のある英雄の名をもらおう、そう男は言った。いくつかの蛇の候補をあげた。ヒラキンが名前を変えることに男は喜んでいた。
ヒラキンはその中からカーリヤを選んだ。
カーリヤの試練を受けたヒラキンは自分の中に眠る天使の力を見出し、自分の中の弱さを知った。再びプレセぺに会いに行くことを決めた。そして変わり果てたプレセぺと再開した。
……
「空を渡る熱き毒。踊る英雄宿す足跡。蛇より転ぜし最初の竜。
汝、試練を与えし存在。我、試練を超えし者。我が呼びかけに答えよ。ナーガラージャ」
ヒラキンが術を唱え終えるとカーリヤが現れた。
「主よ……」
カーリヤは一目見てヒラキンの覚悟を悟った。
「俺に名前を」
授けてほしいとヒラキンは言った。
……
エキドナはサトミの蘇生術でよみがえった。元の天使の姿で。
生き返ったエキドナは本当の自分の姿を取り戻したことで吹っ切れたようだった。
「女の恋は塗り替えなのよ? 」
と意味深に語っていた。
プレセぺにあんなことをしておいて……怒るヒラキンに責任は取るとエキドナは言った。
そしてヒラキンにある提案をした。
プレセぺからつらい記憶を永遠に忘れさせるため、自分たちの呪われた宿命から解き放つため、エキドナが戻ってきたときから先の記憶を全て封じること。
今までは断片的に都合の悪い記憶だけを封じていたためちょっとしたきっかけで記憶が戻りそうになった。
ある時期からすべての記憶を取り去ってしまえばそれはおこらない。
そしてプレセぺのつらい記憶の大半はそのときからはじまっている。
それを無かったことにできたなら、プレセぺは救われる。
プレセぺは母の国ですべての罪を喰らう者とエキドナを待っていた。
エキドナは帰って来て幸せだと告げる。プレセぺも外の世界を見てきたらいいと告げる。そしてプレセぺは旅立った。
でも、そこにヒラキンの記憶はない。
「私はもうあなたたちのことには干渉しないわ。もしプレセぺのことを手に入れたいなら初めからなさい」
偉そうに、エキドナは言った。
なんという傲慢。なんという冷酷。元に戻ってもエキドナは厄介な存在であることに違いはなかった。
……
「何をしているのですか? 」
プレセぺがヒラキンに聞いた。
今のプレセぺにとってヒラキンは、エキドナの仲間の中の知らない一人にすぎない。
「花を探しているのです」
ヒラキンは答えた。死者を弔う花を探している。
でもこんな砂漠では花は見つからない。
立ち去ろうとするヒラキンをプレセぺが呼び止める。
「花ならありますよ? 」
そういって差し出したのはシクラメンの花だった。
「お姉様が、もし花を探しに来る人がいたら渡すようにと」
プレセぺはそういうとニッコリと笑う。
「あなたの名前はなんというのですか? 」
ヒラキンは戸惑った。
エキドナは言った。最初からはじめろと。それは皮肉だと思ってうけとったのだが、どうやら違っていたらしい。
そのためにエキドナは手をまわしていたようだ。
でも、名前が宿命を現すのなら、運命を決めるのなら、自分は名乗ってはいけない。
せっかく宿命から解き放たれたのに。
「クリシュナ」
ヒラキンは答えた。それがカーリヤからもらった英雄の名前だ。
「ヒラキンですね」
プレセぺは答えた。そして首をひねる。
「ヒラキンは名前を変えたのですか? 」




