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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
112/266

2人の天使

 天使とエキドナが対峙している。

 エキドナは4枚翼の美しい姿を取り戻しており、姿だけ見るならとても神々しい存在のように思える。

 目の前の2枚翼の天使が格下の矮小な存在に見える。


「本当にやるの? 」


 エキドナが聞いた。


「無論です」


 天使が槍を構えた。


「私はもう悪魔じゃないわよ? 体が元に戻った。全て元通り。もう世界を恨む理由はない。不幸な偶然で世界を恨むようになってしまったけれど、私の本質は善だわ。その証拠にほら……」


 エキドナは4枚の翼をはためかせた。


「私はこんなにも美しい」


 天使が首を振る。


「一度悪に染まったものはそう簡単にその本性は捨てれません。特にあなたは自分の力ではなく他人の力によって救われた。あなたはまた悪に染まります」


「ありえないわ」


 エキドナが笑う。


「思えば、私の間違いはあんな男に恋をしたことだった。でももう2度と同じことは繰り返さないわ。繰り返すはずもない。だって私は新しい恋をしたもの」


「女の恋は上塗りなのよ? 」エキドナはそういってサトミを見た。

 エキドナに見られた瞬間サトミは後ずさる。

「どうしたの主様? 」ハチに聞かれて「いや、今物凄い悪寒が……」などと答えている。


「それは、私が今から言う事実を聞いても揺らがないことですか? 」


 天使はそんなエキドナの瞳を真っ直ぐに見つめる。今から自分が言うことにエキドナはどう反応するのか見極めるためだ。


「どんな楽しいことを聞かせてくれるのかしら? 」


 余裕の表情を崩さないエキドナ。そんな彼女に天使は告げた。


「あのサトミという神はプレセぺに心奪われています。プレセぺに非道なことを働いたあなたになびくことはありえないでしょう」


「なんだ、そんなこと? 」


 エキドナはクスクスと笑う。


「そんなこと最初から気が付いていた。でもプレセぺがサトミになびくこともあり得ないわ。だってあの子はヒラキンのことが好きなのだから」


 ああ、やはりそうか。

 天使はエキドナをにらみつけた。


「今の言葉で確信しました。あなたの本質は何も変わってはいない。あなたは悪です。そしていつか、同じことを繰り返す! 」


 傷つけられたエキドナは自信の怒り悲しみ苛立ち全てをプレセぺにぶつけた。そして少女の心を壊したという。

 エキドナはその彼女に対してなんの反省もしていない。恋敵として意識して見ている。反省しているなら、申し訳ないという気持ちがあるのなら、そんな目で彼女を見れないはずはない。

 あまつさえ、プレセぺの、本人ですら気が付いていない気持ちにも気が付いていたという。

 エキドナは自分の子供を奪う者を許さない。自分よりもヒラキンに惹かれたプレセぺを許さない。エキドナはプレセぺを殺すつもりだった。ヒラキンに与えるつもりなどなかった。


 もし、サトミがエキドナになびかなかったら、サトミがエキドナを満足させるような存在じゃなかったら、彼女の怒りは悲しみは苛立ちはどこに向かう?


「面倒な子」


 エキドナがつまらなそうに言った。


「お前は最初から私を倒したがっている。倒す理由を探したがっている。いくら私が1度プレセぺにひどいことをしたと言っても、あんなこともう1度できるわけがないでしょう? 」


 天使にはエキドナの言うことも本当だとわかった。

 エキドナがプレセぺに強いたことは、エキドナ自身も相当傷つかねば起こらなかったことだ。

 サトミという神はそこまでのことをエキドナにはすまい。

 それでも……


「あなたの今までしてきたことは、その命を持って償うべきことです。なんの反省もなく許されるべきことではない! 」


 はは……、エキドナが笑う。


「本性を現したわね。頭でっかちの糞天使。初めから気に入らないと言えばよかったのよ! 」


「だったら初めから相手をしてあげたのに」エキドナの顔から笑みが消える「2枚翼のお前が4枚翼の私に勝てるとでも思っているの? 」


 勝負は一瞬で決まった。4枚翼の天使に2枚翼の天使が勝てるはずはなかった。

 2枚翼の天使が崩れ落ちる。


「殺してはいないわ」


 エキドナは天使を見下ろして告げる。

 サトミはここで天使を殺すような女は好きになるまい。


「ねぇサトミ、私を好きでいてくれるなら、私は良い存在でいてあげるわよ? 」


 エキドナはサトミに向かって笑いかけた。


 ……


 アルメリアがジェイドに光を見たように、サトミがプレセぺに光を見たように、エキドナはサトミに光を見て惹かれていた。


 当のサトミはそんなことは知るよしもないが、取りあえずこの勝負はエキドナを応援していた。


 天使が勝ったら自分の身に危険が及ぶ可能性があるからね。仕方ないね。


 ただ気になるのが時折エキドナがこちらを見る視線が妙に熱っぽいことだ。


 まさか生き返らせた恩があるから惚れましたとか言い出したりしないよな?

 まさかね、エキドナはプレセぺにひどいことをした邪悪な存在だ。姿が元に戻ったからといって即改心するとも思えない。

 口車に乗せられていいように操られないよう気を付けようと決意する。


 ただ、生き返らせたってことは眷属にしてしまったということだ。

 これではいさよならというわけにもいかない。


 早まったかもしれない……


 天使を倒した後笑顔で手を振っているエキドナを横目にちょっと後悔するサトミだった。

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