英雄
人を生き返らせることは特別なことじゃない。
漫画とかアニメとかではものすごい代償があったりするけど、科学の発達に伴って命なんて割と簡単に作れることがわかってしまった。
例えばクローン、倫理的に人間での実験はしてないらしいけど、本当にそうなのだろうか。どっか隠れてやってるんじゃないだろうか。
全く同じ構造の人間をつくること自体はもはや不可能ではないのだと思う。
脳の構造が複雑だから、完全に同じ人間は作れないかもしれないけど、脳の構造上っていう物理的な問題で無理ってだけの話だ。
魂があるなんてナンセンス。
この世界には魂があるらしい。でもここは所詮は異世界だ。この世界にあるからと言って元の世界にあるとは限らない。
人にもし魂なんてなく、物理的な存在でしかないなら。そこに特別な制約なんてない。
蘇生術に代償なんて必要ない。
でも、本当にそう思っているかっていうとそれは半分半分だ。
理屈で考えればそうなのかもしれないけど、俺は俺という人格を抱えて生きてるわけで、そんな俺が脳の情報だけの存在であるとは思いたくはない。
……
「わかりました」
天使はそういうと俺に槍を向けた。
「あなたはとても危険な存在です」
開き直って蘇生術の是非について語った俺に天使はとてもお怒りのようだ。
なんだよ。考えること自体が罪だって言うのか? 天使なら優しく諭してほしいところだぞ?
俺が何の制約もなく蘇生術を使える理由。それはもしかしたらそんな風に考えていたからかもしれない。
でもだからって、人の生死が軽いものだなんて考えてはいない。むしろ逆だ。人の生死については他の人より考える機会が多かったように思う。
だからこそ、簡単に人が生き返ったらいいと思ったのかもな。
「そうかしら」
天使とは対照的にプレセぺの姉は機嫌を治している。
「私はあなたのこととても気にいってしまったわ」
そういって俺にしなだれかかる。
ちょっと、やめて、プレセぺの体でそれはやめて。
俺は慌てて飛び退る。「あらあら可愛いのね」プレセぺの姉はますます俺を気に入ったようだ。
俺は確信した。俺の考えは良くない考えだ。
天使に嫌われ悪魔に好かれている。間違いねーわ!
「ねぇ、サトミ、世の中すべての人に好かれることなんてできないのよ? 私を生き返らせてからこの天使を殺しましょう。それで全てうまくいくわ」
プレセぺの姉は俺の耳元でささやいた。
いやいや、何言ってるの? 何この流れ?
「私は英雄が好きなの」
唐突に語りだすプレセぺの姉。
「ねぇ、未熟な天使? あなたは英雄の条件とは何だと思う? 」
愚問です。と天使は答えた。
「世界を包み込むような深い愛。それしかありません」
乙女チックねぇとプレセぺの姉は笑う。
そしてヒラキンを指さし言った。
「その子は英雄の器ではないわよ? それはついさっきあなたが証明したばかりじゃない? この子は一度私にプレセぺを奪われ、そして今一度お前に奪われるところだったのだから」
ヒラキンは苦々しい顔でそれを見つめている。
俺のことは……見てないな。よし。
プレセぺが俺にしなだれかかってきたのは操られてたからだから! 俺は間男じゃないから! そこは誤解しないようにな!
「英雄というのは決して自分の前では大切なものは失わないものよ? 失うのは英雄がいないとき。英雄が来ればすべてが助かる。救われる。それが英雄という者よ」
その点ではあの男は実に英雄だった。と、
プレセぺの姉は一瞬、愛憎入り混じった表情を浮かべた。
「ねぇサトミ? あなたの前ではきっと誰も死なない。誰も失われない。あなたは英雄の資格があるわ」
それは……俺が蘇生術を使えるからか?
でもそれは英雄とは違う気がするぞ。
俺には基本的に戦う力がない。先頭に立って戦う力はない。
今回だって戦ってたのははカルラでありハチでありヒラキンだった。英雄とは違う。
どうやら俺は神らしい。今まではそうはいってもピンとこないものがあったが、人を生き返らせるということの重大さがなんとなく分かった今は違う。少し自覚がでてきた。
俺は英雄ではないが、しいて俺のことを言うなら……
「俺は英雄にはなれないぞ。なれるとしたら救いの神かな」
……ひぇ!
自分で言って背中が寒くなった。
なにこれはずい。言うんじゃなかった! 言うんじゃなかった!
顔が赤くなるのが自分でもわかった。
プレセぺの姉が笑い出す。
「自ら救いの神を名乗るなど! 」天使が激昂する。
「それじゃあ私を救って、神様」
プレセぺの姉は笑いながらそう言った。
……
「で、結局どうなったんだ? 」
カルラが俺に聞いた。
カルラはアルメリアの回復魔法で全快している。
ちなみに、持たせていた身代わりの石は砕け散っていた。
天使との戦闘で1度死んだらしい。
どうせ1回は死ねるからと、アンリウムの炎で一緒に始末しなくてよかった。
あぶねぇあぶねぇ。
「ジェイドを生き返らせる。エキドナを生き返らせる。その後天使を殺す」
赤い妖精が告げる。
「人聞きの悪いことを言うな。天使は始末しない」
……はずだ。
ジェイドとプレセぺの姉、エキドナと名乗った、を生き返らせると決まったが天使は沈黙したまま何も語らなかった。
俺のことをいい印象で見てないのは確実で、ものすごく不安なんだが……まさか、大人しく従ってたくせに生き返らせた途端殺すとかいいださないよな?
そんなこと言われたら俺は泣くよ?
赤い妖精はもちろんアンリウムだ。
カルラが戻ってきたら俺の体からでてきた。「普通に旅をするのが贖罪だと言うから」とのことだ。
まだ勇者のことはカルラにもアルメリアにも言ってないが、それは別にいいだろう。絶対言わなくちゃいけないということはない。たぶん。
カルラはひさしぶりにアンリウムに会えてうれしそうだ。
「サトミ、これでお前は勇者の使徒7人の内3人に好かれたことになるんだぜ? 」
カルラはそう言って笑っていたが、俺的にはあいつにおまえらのことを任された気しかしないよ。
さてと、長かった今回の事件もこれで終わりか。
俺は蘇生術を行うことにした。




