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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
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すべての罪を喰らう存在、すべての罪を喰らう者

 森の主は友達を探しに篝火の森にやってきた。

 友達を見つけても見分けられないので、もうずいぶん食事はとっていないと言っていた。誤って食べてしまってはいけないからだ。

 片言の言葉しか話せない森の主と意思疎通を図ることは難しかったが、不思議と面倒には感じなかった。

 篝火の森でプレセぺ以外で意思疎通ができる者は、森の主しかいなかったからかもしれない。

 せっかく話せるのだから、プレセぺにも紹介しよう。そう思ったが、何故か森の主はプレセぺには合おうとしなかった。


 怖いからだと森の主は言った。


 優しいプレセぺをどうして怖がるのか、ヒラキンは理解できなかった。

 ただ一つ分かったのは、森の主が捜している友達は、プレセぺではないということだ。

 何故なら森の主はプレセぺを怖いと言っている。だから友達はプレセぺではないのだろうとヒラキンは思った。


 そして嵐のあの日。


 エキドナを殴って逃げ出したヒラキンは木陰でおびえていた。

 空では嵐の中を傷ついた翼で飛ぶプレセぺがいた。

 無茶だ……

 止めに行きたかった。助けに行きたかった。

 だけどそれはできない。

 エキドナを殴ったヒラキンをプレセぺは目撃している。探しに来てくれてはいるが、エキドナのことを考えて渋々そうしているだけなのかもしれない。

 プレセぺにあった時自分はどういう顔をされるだろう? 軽蔑されるかもしれない、拒絶されるかもしれない。そう考えると怖くてでていけなかった。


 しばらくそうしていると、久しぶりに森の主に出会った。

 エキドナが目覚めてからあまり森の奥深くに行くことはなくなった。会うのはとても久しぶりだった。


「ミワケラレナク、ナル」


 森の主は悲しそうに言った。

 森の主の本当の名前は「すべての罪を喰らう者」というらしい。

 その名の通り罪ある全ての者を喰らい尽くす存在だという。

 けれどこの世界には罪のない存在などなく、必然的に周りにある全ての存在を食い尽くしてしまうことになる。

 稀に友達やヒラキンのように見分けられる奴も存在するが、いつしか罪を犯して見分けられなくなっていくのだという。


 ヒラキンは親を殴って逃げてきた。もう見分けられなくなっていてもおかしくなかったが、まだ辛うじて見分けられているようだった。


 森の主はヒラキンを見分けられなくなることをとても恐れているようだった。

 かつて友達を見分けられなくなった時のように、もう自分を認識してくれる存在がいなくなるから。そして、プレセぺの近くにいられなくなるから。


 森の主の友達はプレセぺだった。

 でも見分けられなくなって、プレセぺは自分から逃げてしまったのだという。

 もしかしたら、プレセぺの前で罪を食べてしまったことを怒っているのかもしれない。森の主はとてもおびえていた。


 聞いているうちに、そんなことかとヒラキンは思った。そんなことでプレセぺは怒ったりしないだろう。拒絶したりはしないだろう。

 そしてそれは、ヒラキン自身にもあてはまっていることに気付いた。


 もし、森の主がプレセぺと会いたいのなら、合わせてやりたい。

 そのことに気づかせてくれた森の主にお礼がしたいと思った。

 ずっとプレセぺに会いたがっていた思いを叶えさせてあげたいと思った。

 それに森の主はプレセぺの友達だという。きっとプレセぺも喜ぶ。

 幸い、ヒラキンは8体の蛇と契約しなくてはならない……


「俺がプレセぺに合わせてやる」


 ヒラキンは森の主と、すべての罪を喰らう者と、契約した。


 そして今。


 あの後プレセぺはエキドナに取り付かれて心を壊され人食いの魔物にされてしまった。


 ヒラキン自身も罪を犯していないとはいいがたい。


 今更、彼女を召喚したところでかえってプレセぺを傷つけることになるかもしれなかった。

 プレセぺどころかヒラキンにすら気づかないかもしれなかった。

 それでもヒラキンは願った。

 プレセぺが今まで生きていた中で、その優しさを、価値を、認めてくれる存在が自分だけではないことを……


「ツミノ、ニオイガスル」


 だが、召喚された彼女はうろんな目つきであたりを眺めていた。


 ……


 やはりもう、駄目なのか……いや!


 ヒラキンは自信の弱きを振り払った。


「プレセぺはここにいる! 」


 そしてあらん限りの声で叫んだ。


「プレセぺはここにいるんだ! 」


 ……


 天使が私のことを人食いの化け物だと言っています。

 もちろんそれは違います。私はそんなことをしたことはない。するはずがない。でいるはずがない。

 それなのに、思い出します。

 それはお姉様が私に話してくれた物語。


 むかし、ヒラキンという心優しい男の人がいました。

 ヒラキンの母親はエキドナという恐ろしい蛇の化け物で、いつもいじめられていました。

 ある日ヒラキンはエキドナに捨てられて死んでしまいます。

 黄泉の王はヒラキンの心根の美しさを認め、死人を弔う花を探す役目を与えました。

 ある日、ヒラキンが花を探して摘み取ろうとしていると下級の女神に止められます。

 その花は駄目。まだつぼみだから、摘み取らないで?

 下級の女神はプレセぺといいました。2人はやがて惹かれあうようになります。

 ですが死人であるヒラキンとプレセぺは決して結ばれることはありません。

 どうにかして添い遂げたいという2人に神様は罰を、あるいは救いを与えました。

 ヒラキンを9つの首を持つヒュードラという蛇にかえ、プレセぺをカルキノスという蟹の姿に変えてしまったのです。

 2人が唯一共に暮らせるのは生と死の狭間の世界。そこで2人は罪人を裁く仕事を与えられました。

 送られてくる罪人をヒュードラが殺し、カルキノスが食べるのです。


「ほらね、プレセぺ。これがあなたの名前。あなたの宿命。その通りになったでしょう? 」

 お姉様はそういって笑いました。

 私はひしゃげて骨がむき出しになった翼で、まるで蟹の鋏のようになった翼で、人を……


「プレセぺはここにいるんだ! 」


 ヒラキンの叫ぶような声で我にかえりました。私は何を考えていたのでしょう?

 ヒラキンは私の名を読んでいましたが、どうやら私を呼んでいたのではないようです。

 ヒラキンが呼びかけていたのは……


「すー、ちゃん?」


 私は我が目を疑いました。

 だってそこにいたのは、もう2度と会えないはずの、私の友達。


 ツミノニオイガスル


 ワカラナクナル


 そういわれたことも忘れて、何もかも忘れて、私は彼女に手を伸ばしました。


「すーちゃん!!! 」


 私はもう罪人です。食べられてしまうのかもしれません。

 でも私はすーちゃんに抱き付き、そして泣き出しました。

 いろんな思いがありました。いろんなことがありました。それもこれも全部ごちゃ混ぜになって制御できなくて、私はただ泣きました。


「ナ、マエ?」


 ……


 ズーチャン


 ソレハナマエ


 ワタシノナマエ


 彼女はすべての罪を喰らう存在。でもプレセぺが「すーちゃん」と名付けてくれたから、彼女はすべての罪を喰らう者になった。

 だから、プレセぺに会いたいと思った。

 だから、プレセぺに近づけなかった。嫌われるのが怖かったから。拒絶されるのが怖かったから。

 ただの存在ならそうは思わない。人格のある者だから、そう思うようになった。


 すべての罪を喰らう存在は、すべての罪を喰らう者は、すーちゃんは、初めてプレセぺを見た。


「プレセぺ」


 名を呼ばれたプレセぺははっとして、もう一度彼女をみた。

 彼女は壊さないように、傷つけないようにプレセぺに触れる。


「ゴメン、ナサイ…」


「なんで誤るんですか?」プレセぺはそういうとまた泣き出した。泣き出したプレセぺに彼女はまた誤った。

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