2つの古き理
俺はプロメテウスの炎……いや、アンリウムの炎でいいか、あいつも本人もそう呼ばれることを望んでいるみたいだし、を解き放とうと天使たちを見据えた。
でも、本当に撃つかどうかは決めかねていた。
天使って、世間一般的に言うところのいい奴じゃん?
そんないきなり不意打ちで消滅させてしまってよいものなのだろうか?
いろんな偶然が重なってこうなっていしまっているわけだけれども、そもそも俺はなんで天使と敵対しているのか?話し合ってみたら案外分かり合えたり……しないかなぁ。しなさそうだなぁ。
俺の知ってる天使はプレセぺってことになるけど、さっきから天から降りてくる天使はやけに気合の入った奴ばかりで可愛げというものを感じない。
アンリウムの力で一撃必殺の力を得ているとはいえ、俺は基本か弱い人間、もとい神様だ。
不意打ち以外で天使を倒すことはできないだろう。やはり俺の存在を知られていない今が絶好のチャンスではあるのだが……その行為にいまいち踏ん切りがつかないでいた。
もう一つ問題がある。今天使と戦っているカルラだ。
カルラ以外消滅させるなんて器用なことできないから一緒に消滅させてしまうことになるだろう。
一応身代わりの石をもたせてあるから助かるとは思うけど……さすがにそこまで非道なことをするのはどうかと思う。
アンリウムに贖罪をさせてやると言った手前もある。
あんまり非道な手段をとりたくはない。
「なぁ、こんなときあいつならどんな手段をとったんだ? 」
試しにアンリウムに話しかけてみることにした。
先にこの世界に来ていたあいつならどうしただろう。今の俺と同じ立場になった時、どんな手段に出ていたのか。
「天使と戦ったことなんかない。勇者は正義の味方。天使は味方。サトミがおかしい」
どうやら正しい人間は、そもそも天使と敵対するような事態にはならないらしい。
そうか、なるほどな……て、ちょっと待てや!
こいつ今さりげなく俺をディスらなかったか?
「サトミおかしい。天使と戦う。悪魔のやること。私本当に勇者に許してもらえるの? 」
う~ん……やべ、返す言葉が見つからねぇ。
俺がアンリウムとそんなやり取りをしているとき、そいつはこの場に現れた。
……
すべての罪を喰らう存在。
その存在が姿を現した時、周りの者すべてが硬直した。今までの喧騒がうそのように。
天使もハチもチウネも盗賊達も、遠く離れた4枚翼の天使達でさえも、カルラにとどめを刺そうとしていたその手を止め、ただ黙ってその姿を見つめている。
龍の体に少女の顔……その異形の姿に驚いたからではない。その存在がどういうものか、わかったからだ。
神魔精霊人亜人、すべての存在は罪を犯して存在している。罪がないとするならば、罪はないというルールを作って存在しているからだ。
そもそも罪とはなんなのか。その根本的なことですら明白ではない。真に正しいものなどいない。
正しいものは存在しない? だがそれは違う。この世界には正しいことが存在する。
誰かに優しく接すること、傷つけないこと、信じること、裏切らないこと……そこに罪があるとすれば受け手の問題だ。無条件の愛は誰かに利用され搾取され、その者を不幸にする。
受けてがそれに溺れれば堕落させることもある。
エキドナに無条件の愛を注いだプレセぺは心を壊されてしまった。
エキドナを切り捨てることが正しいことだったのか。聞く耳を持たないエキドナに正論を言い続けることが正しいことだったのか。自らを不幸にした彼女の行為は正しくない行為だったのか。
もしその正しさが正しいことではないというのならば、それが正しいという証明として、その理は存在していた。
誰もが自分を守るために罪を犯す。けれどそれは仕方がないことだ。罪を犯さなければ押しつぶされてしんでしまう。心を壊される。利用される。搾取される。それを正しいこととは組み込んではいけないことなのかもしれない。
かつてこの世界には理があった。正しいことのみが許される理があった。その理が許されたのは誰もがその理を守っていたからだ。
誰か一人がそれを破ればもうその理を守ることができない。
自分を守るために、世界を守るために、成り立たせるために罪を犯す。
……
急に黙ってしまったアンリウムを不審に思いつつ、サトミもその存在を感じていた。
ただそのときサトミの感じていたのは畏怖でも恐怖でもない、懐かしさだった。
サトミは悟り見る心の女神の名と縁のある者。
悟り見る心は、誰もの心が繋がっていたときの理。古き理。かつてこの地に暮らしていた者達はその理があったからこそ。全ての罪を喰らう理の中で生きることができた。




