天使を見守る人々
「そのものは天使ではありません」
盗賊達に向かって、チウネは一括した。
「お前たちに救いなどありません。この、盗賊風情が、身をわきまえなさい! 」
そしてそういい放った。周りがみんな盗賊の中で堂々と、臆することなく。
さすがにそれは不味いだろうとハルが手を引っ張って止めるが、チウネは止まらない。
「今まで罪のない人の命や物を略奪してきたのでしょう? そんなお前たちが易々と救われるわけがないのです。おとなしく地獄に落ちなさい。畜生に転生しなさい。罪を償えたなら、また人として生きることもかなうかもしれません! 」
空で戦う天使にも気が付く。
「あれが本当の天使です。お前たちを裁きに来た。正しい存在です! 」
「て、てめぇ!」
盗賊の一人がチウネににじり寄る。チウネはよく覚えていないがハルをかどわかそうとしていたガンツという男だ。
「いったい何様だ! 天使様は俺たちを救ってくださるといっているんだぞ! 俺たちは確かに罪を犯した! でもそれは仕方がないことだ! 貧乏だから、町の外に追いやられているから、そうなった! 俺たちだって最初から町の中に生まれていたらこんなことにはならなかったんだ! 」
「それがどうしたというのです? あなたは盗賊です。人殺しです。略奪者です。罪人の言い訳など、聞く価値はありません! ただ黙って罪を受け入れなさい。地獄に落ちなさい! 」
「て、てめぇ! 」
ガンツは怒りに任せてチウネに殴りかかろうとする。
「やめろ! 」
それを止めたのはガプスだった。
「その娘の言うとおりだ。俺たちは罪を重ねて生きてきた。いざ天使を目の当たりにしたからって罪を悔いて許しを請ったって見苦しいだけだ」
だが
「そこまでお前に言われる筋合いはない」
チウネを睨みつける。
「私とて盗賊達に語る口はありません。ただその者が悪魔なら、悪魔のすることが見過ごせないだけです。彼女は蛇の瞳をしていた。この私を刺し殺そうとした。悪魔に魂を売ればもう2度と転生することはかなわず、ただ道具として使われるのみなのです! 」
チウネはプレセぺに向き直る。
「天使様、本当のことをお教え下さい。あなたは悪魔なのですか? 」
プレセぺはいきなりそんなことを言い出したチウネを訳が分からないといった風に見ている。
「違う! 」
それを否定したのはヒラキンだった。
だがそれ以上説明する言葉は持たず、チウネと睨みあう。
「待ってください! 」
止めに入ったのはリューネだった。
「私も見ました。プレセぺ様に不審な点があるのを、でもそれは誰かに操られているからのようでした」
リューネはプレセぺにアミュレットを砕かれたことを、そのときのプレセぺの様子が尋常ではなかったことを告げた。
リューネはプレセぺに対して恩がある。自分が父を殺したかもしれないジェイドに心惹かれていた時、話を聞いてくれた。自分のことを話してくれた。だから擁護しようとしてその話をしたのだ。
確かに、それでチウネな納得がいった風ではあった。
しかしその話はプレセぺを刺激したくないヒラキンには都合が悪い。
盗賊達にとっても逆効果だった。
自分を救ってくれると思っていた天使は天使ではなかった。操られていたのだ。
誰に?もちろん悪魔にだ。
「待って、カルラ! 」
そのタイミングで突然アルメリアが帰還した。
……
アルメリアは天使と戦っていたはず、天使はどうなったのか?
見れば空には新たに3体の天使。最初のと合わせて4体の天使。内1体はアルメリアを追ってこちらに近づいてきつつある。
逃げかえってきた?
盗賊達は戦慄する。
「に、逃げろ! 」
ガンツが叫んだ。盗賊達は大混乱に陥った。
その中を静かに降り立つ天使。
すぐさまハチが戦闘態勢に入る。
「ア、アルメリア! さん! ハチを! 」
いまだに放心状態のアルメリアにハルがすがりつく。
我に返ったアルメリアはあわててハチに身体強化の魔法をかけた。
すると不思議なことが起こった。
「あれれ?」
子供だったハチの姿が少年のものにかわる。
驚くハル。
「キュン! 」
同じくらいの年齢になったリューネが少しときめいている。
涙目になるハル。
「た、たぶん一時的なものだと思うわ」
アルメリアはなんとなくフォローしないといけない気がしてフォローした。
……
長居し過ぎた。ヒラキンは後悔していた。
自分に何者かが憑りついている、そう聞かされたプレセぺはうつむいて何事か考え込んでいる。
エキドナのことに気が付いた?いや、そんなはずはない。
プレセぺの改竄された記憶では、エキドナに見送られて旅立ったことになっているはずだ。
だが、これ以上ここにいるのは得策ではない。なんとか自然な形でこの場を去らなくては……
現在盗賊達は大混乱におちいっている。オアシスから逃げ出したいが逃げ出せば最果ての地のモンスターに狙われる。その対策の魔物除けの水晶を巡って奪い合いが起きている。
年配の男が必死にまとめようとしているが無駄なようだ。
ここまでやってきた天使は、人型をとった狼と交戦中。
見たところ狼が苦戦している。身体能力、魔力に驚くような差はないが、動きの洗練さで狼に勝ち目はない。狼の動きには無駄が多すぎる。
「プレセぺ、乗って」
ヒラキンはバジリスクにプレセぺを乗せる。
「ヒラキンは? 」
「狼を援護する」
自分が戦うことでプレセぺを安全な場所に退避させる。これが一番自然な方法だろう。
狼は技術はないが力はある。うまく誘導してやれば天使を倒せる。
そう考えたヒラキンは狼を援護することに決めた。




