第6話:秘密の相談と歓迎
(放課後。教室で荷物をまとめていたレオは、リュックの中からスマホを取り出して画面を開く。ミオの個人チャット画面を開き、メッセージを送信した)
【レオ】「ミオ、ちょっといいか?」
(数秒後、すぐに返信の通知が画面に跳ねた)
【ミオ】「なに?正体バレたからって急に馴れ々々しいんだけど」
【レオ】「明日の学校終わりに、俺の家きてくれ」
【ミオ】「は?なんであんたの家に行かなきゃいけないのよ。変な気起こしたらスターリンの武器で吹き飛ばすからね?」
(口では文句を言いながらも断ってこないミオの返信を確認し、レオは小さく息を吐いてスマホをポケットに押し込んだ)
(翌日、放課後。レオの部屋)
「……で、わざわざ家に呼んでまで見せたかったのが、その『いかにも怪しい黒づくめ』なわけ?」
レオの部屋の真ん中に飾られた、完成したばかりの全身スーツ、新型ヘルメット、そして手首装着型の80万ボルトガジェット。全財産を叩き込んで作った渾身のフル装備を前に、ミオは呆れたように腕を組んでいた。
「ダサいとは言わせないぞ。前のガラクタとは出来が違う。高耐熱スチールを買い込んでダ・ヴィンチと徹夜で作ったんだ」
『補足させていただきます。レオ様の全財産が消滅した結晶でございます』
デスクの上のカーナビ画面からダ・ヴィンチが無機質な声を挟む。
「全財産って……ホント馬鹿じゃないの……」
ミオは頭を抱えたが、すぐにガジェットの構造に視線を落とし、鋭い目つきになった。
「でも、手首のユニット……これ、市販の単三アルカリ乾電池が入ってるわね。しかも爆弾まで内蔵して……相変わらず狂った設計してるわ」
「そこなんだよ」
レオは真剣な表情でミオに向き直った。
「出力は80万ボルトまで上がった。だが、乾電池駆動じゃ最大連続稼働時間は約3分が限界だ。オーバーチャージなんてしたら一発で壊れる。……ミオ、このスーツの電力を上げる方法、何か分からないか?」
「電力を上げる方法……ねぇ」
ミオはしばらく顎に手を当てて、天井を見上げながら真剣に考え込んだ。
「正直に言うね。市販の電池やバッテリーを使ってる限り、それ以上電圧や稼働時間を増やすのは化学的に不可能よ。どれだけ回路を工夫しても、エネルギー密度そのものが足りないもの」
「やっぱりそうか……」
「ただ……」
ミオは少し声を落とし、秘密を明かすようにレオを指差した。
「私が使ってる『スターリン』の武器には、市販の電気じゃなくて『高密度エーテルセル』っていう特殊な高出力エネルギーパックが組み込まれてるの。手のひらサイズで、市販の大型発電所レベルの電力を安定して供給できる組織の秘匿技術よ」
「高密度エーテルセル……!」
レオの目が一瞬で輝く。
「勘違いしないでよ? あげないわよ!」
ミオはバッと手をかざして制した。
「スターリンの資材は厳重に管理されてるの。でも……あんたが正式にスターリンに加入するか、組織の『協力者』としてライセンスを取れば、装備のエネルギー供給くらいは支給してもらえるかもしれない」
「組織への加入か……」
「80万ボルトのガジェットを自作する変態科学者のくせに、エネルギー源で行き詰まるなんて思わなかったでしょ? 自作の限界を超えたいなら、本気でスターリンに入るか考えなさいよね」
ミオはフンと鼻を鳴らしたが、その表情にはどこか『これでレオが仲間になってくれるかも』という期待が混ざっていた。
「じゃ、私は帰るから。せいぜい乾電池が切れないように省エネで頑張りなさいよ」
背を向けてドアノブに手をかけたミオに向かって、レオは迷わず右腕を突き出した。
素早い動作で手首の新型ガジェットを装着し、カチリとロック音を鳴らす。
——バチチチッ!!
眩い青白い火花が散り、手首から放たれた80万ボルトの電撃が、ミオのすぐ横の部屋のドアに直撃した。バチンという凄まじい衝撃音が室内に響き渡り、ドアの金属部分がうっすらと焦げ付く。
「きゃっ……!? あんた何すんのよバカ!!」
跳ね上がるように振り返り、目を丸くして叫ぶミオに対して、レオは煙を吹くガジェットを突きつけたまま、まっすぐな視線を向けた。
「行くな、まだ話は終わってない」
荒い息を吐きながら、レオは強い口調で言葉を紡ぐ。
「そのエーテルセルだっけ? それが欲しい。……しかし、スターリンに入らないとダメなんだろ? なら入る。だから、色々と手伝ってくれ」
静まり返る部屋の中で、レオの真剣な言葉だけが響く。
ミオは一瞬あっけにとられたように口ぐもり、焦げ跡の残るドアと、手首のガジェットを構えたままのレオを交互に見つめた。やがて、呆れたような、けれどどこか嬉しそうな溜め息をひとつ吐き出す。
「……信じられない。部屋のドアに向けて80万ボルト撃ち込む奴があるか電話番号……! だいたいね、入るって言ったって、そんな脅し文句みたいに言われて『はいどうぞ』って言えるわけないでしょ」
ミオは腕を組み直し、ちょっぴり得意げな笑みを浮かべた。
「でもまあ……その覚悟があるなら話は別だけどね。スターリンの協力者申請、私が上層部に話を通してあげる。その代わり、準備や手続きは手取り足取り仕込んであげるから覚悟しなさいよ?」
『レオ様。ドアの補修費用および電気系統の点検費用が、今後の予算に重くのしかかる見込みでございます』
デスクの上からダ・ヴィンチの無機質な突っ込みが入りつつも、レオとミオの間にあった「正体バレ」のギクシャクした空気は、はっきりと「共闘」への一歩へと変わったのだった。
「……で、そのスターリンの本拠地ってのはどこにあるんだ? 恒松都の地下か何かか?」
レオが尋ねると、ミオは呆れたように首を振った。
「甘いわね。恒松都どころか……この惑星1202のほぼ真逆、極西エリアの孤島よ。普通に行ったら飛行機乗り継いで丸一日かかるわ」
「は……? 真逆って……そんな遠くにどうやって行くんだよ。まさか今から飛行機に乗れとでも——」
「行く方法は、こうやるの」
ミオは制服のポケットから、銀色に光る無機質なデザインの『金属リング』を取り出すと、自身の左手人差し指にはめた。そしてリングを口元に近づけ、はっきりとした声で発声する。
「ポータルを開けて」
——ギュイイィィン……!
瞬間、レオの部屋の空間が歪み、青白い光の粒子が円を描くように収束し始めた。一瞬にして生み出されたのは、向こう側の景色が揺らめいて見える、直径二メートルほどの『空間の穴』だった。
「な……ッ! 空間転移……!? 魔法も異能力もないこの世界で、量子転移のポータル実用化だと……!?」
科学1位のレオの脳内キャパシティが、目の前の超技術によって一瞬で吹き飛ぶ。
『レオ様、空間歪曲反応を検知。既存の物理法則を大幅に逸脱したオーバーテクノロジーでございます』
ダ・ヴィンチの声すら、どこか裏返っているように聞こえた。
「何言ってるの。物理法則を折りたたんで距離をゼロにしてるだけの、純粋な科学技術よ。さ、何事もなかったかのように入るわよ」
ミオは当たり前のようにポータルの光の中へと足を踏み入れていく。レオは呆然としながらも、手首の80万ボルトガジェットを強く握り締め、意を決してその光の渦へと飛び込んだ。
浮遊感は一瞬だった。
一歩足を踏み出すと、そこは自分の狭い部屋ではなく、白とシルバーを基調とした圧倒的な広さを誇る巨大なドーム状の施設——スターリン本拠地だった。
「……すっげぇ……」
周囲を見渡したレオは言葉を失う。
ガラス張りのフロアを行き交うのは、テレビやニュースの映像でしか見たことがない、数々の「憧れのヒーローたち」だった。重厚なパワードスーツを纏ったベテランヒーローから、ホログラムディスプレイを自在に操るオペレーターたち。
「見とれてないで歩く! あんたを上層部に引き渡すんだから」
ミオに背中を叩かれ、レオは急ぎ足で奥の重厚な扉へと向かう。
大きな円卓が置かれた厳かな審議室へと通されると、そこには威厳を纏った組織の上層部(幹部たち)が並んで座っていた。
「ミオ、そいつが例の『手製の80万ボルトガジェット』を持ち込んできた少年か」
上層部の一人が、鋭い眼光でレオを見下ろす。
ミオはレオの隣でビシッと背筋を伸ばすと、「はい。本日付でスターリンの協力者枠として志願させます」とハキハキと告げ、レオを前に押し出した。
こうして、自作スーツと乾電池駆動の80万ボルトガジェットを引っ提げた高校生ヒーロー・レオの、人生をかけた『スターリン面接』が始まったのである。
面接官の一人——中央に座る厳格な眼差しをした老幹部が、手元のホログラム資料に目を落としながら口を開いた。
「レオ・フェルナンド。恒松都南耀市の爆破現場でミオと共に戦った、自称ヒーローか。データを見たが……市販の単三乾電池に、自作の回路と爆弾を強引に組み合わせた80万ボルトのガジェットだと? 科学的センスは異常だが、死ににいくようなものだ。正気の沙汰とは思えん」
「正気じゃ作れませんよ」
レオは物怖じせず、まっすぐ上層部を見据えて言い放った。
「予算も資材もない高校生が、今ある手札だけで80万ボルトを叩き出すにはそれしかなかった。ですが……俺の頭脳とダ・ヴィンチのサポートがあれば、足りないのは『エネルギー源』だけです」
「威勢がいいな。だが少年、ここは玩具の発表会ではない。地球防衛組織スターリンだ。命を懸ける覚悟はあるのか?」
「覚悟なら、全財産を鉄材に変えたときに捨ててきました。それに——」
レオは一瞬隣のミオに視線を送り、不敵に笑った。
「隣で命張ってるクラスメイトに、ダサい姿のまま追いつけない気でいるなんて、俺のプライドが許さないんで」
「ふ……ハハハ!」
中央の老幹部が、不意に満足げな笑声をあげた。
「面白い。命を張る理由など、プライド一つで十分だ。——よろしい。レオ・フェルナンド、本日より貴殿をスターリンの外部協力者として認定する」
幹部が手元のスイッチを押すと、テーブルの central ポッドがゆっくりと持ち上がり、カプセル状のケースが姿を現した。その中で、青白く高密度な光を放っている小型デバイス——『高密度エーテルセル』だ。
「持って行くがいい。貴殿のその歪で尖った科学力が、この惑星1202の希望となるか、見極めさせてもらう」
「……感謝します」
ケースを受け取ったレオの手に、ズシリとした本物の重みと、果てしないエネルギーの鼓動が伝わってくる。
「……よかったわね、レオ」
面接室を出た廊下で、ミオがホッとしたように息を吐きながら小さく微笑んだ。
「よし。これで乾電池の3分間という限界は消えた。……ダ・ヴィンチ。帰ったらすぐに換装作業だ。新生『フラッシュ・アーク』の本当の力を見せてやる」
手首のガジェットと胸に抱えたエーテルセルを握り締め、レオは新たな戦いへの高揚感を胸に、ポータルへと足を踏み入れた。




