第2話︰午前1時20分の作戦会議
夜空を切る風は冷たい。
ジェットパックの出力を微調整しながら、俺――『フラッシュ・アーク』は、警察の包囲網を上空から飛び越え、東西銀行本店の屋上に静かに着地した。
屋上へ通じる非常扉の前でかがみ込む。
「ダ・ヴィンチ、内部の状況は?」
『監視カメラへのクラッキング完了。ビルの構造スキャンを表示します』
視界のARバイザーに、銀行ビルの3Dワイヤーフレームが青く浮かび上がる。
ターゲットは5人。ロビーの中央で身を寄せ合っている人質は8人だ。
『犯人グループは自動小銃で武装。人質の前後に2名、入口の監視に1名、金庫室前で大型ドリルを扱っているのが2名です』
バイザーに表示される数字と立体図面を、俺は「美術のキャンバス」を見るような視点で観察する。
「天井高6メートル、大理石の円柱が4本……うん、いい構図だ。死角が綺麗に作れる」
『レオ様、室内での連続戦闘は迅速に行う必要があります』
「了解。速効で片付ける」
俺はダクトの通気口から、静かに暗闇の中へと滑り込んだ。
通気ダクトを通り、1階ロビーを見下ろすキャットウォークの影に潜む。
下からは、苛立った強盗たちの怒鳴り声が響いていた。
「おい! ドリルまだ開かねえのかよ! 警察が外でうるせえんだよ!」
「うるせえ! この金庫、防犯ロックがかかってんだ! あと10分はかかる!」
自動小銃を構えた男が、恐怖に震える銀行員たちに銃口を向けて苛立ちをぶつけ、怒鳴り散らしている。
(人質との距離、およそ12メートル。銃を撃たせる隙を与えずに、同時に5人を無力化する……)
俺は右手を腰のタクティカルホルダーへと回した。
そこにセットされているのは、使い切った乾電池を改造した【乾電池爆弾】だ。
ガシッと自分の手で掴み取り、グローブの指先から一瞬だけ高圧電流を送り込んで起爆スタンバイ。そのまま一気に腕を振りかぶり、強盗たちの頭上へ向けて投げつけた!
空中を飛ぶ乾電池爆弾が、強盗たちの頭上で過放電を起こす。
――――ドドォンッ!!!
爆発音とともに、視界を焼き切るほどの青白き超高輝度フラッシュと強烈な衝撃波がロビー全体を叩き切る!
「グアアアッ!? 目が、目がぁぁっ!?」
「耳鳴りが……っ!?」
強盗たちが悲鳴を上げて銃を取り落とし、目を押さえて悶絶する。
俺はジェットパックの推力を限界まで絞り、キャットウォークから静かに大理石の床へ飛び降り着地した。
目の前で悶絶する1人目の強盗の顎へ、踏み込みを効かせた右拳を叩き込む。
ガッ! と鈍い音が響き、1人目が脳震盪で沈む。
続けて、銃を探す2人目の腕を取り、一瞬で関節を極めて無力化。
「て、てめえ……! 何者だっ!?」
奥の金庫室前にいたボスの男が、片目を手で覆いながらヤケクソで自動小銃を乱射し始めた!
タタタタタタタタッ!!
大理石の柱に銃弾が当たって火花が散る。
「乱射はダメだって。構図が台無しだ」
俺は柱の影から飛び出し、右手を前に突き出した。
手のひらを下に向け、手首のフレームを水平に固定。発射口から眩いエネルギーが収束する。
引き金を引くと同時に放たれたのは――光速の【電撃レーザー】!
直線的に空間を切り裂く青白い光線は、途中で幾何学的にカクッ、カクッと折れ曲がりながら、ボスの持つ自動小銃の銃身を正確に撃ち抜いた!
――バシィィィンッ!!
高熱の電撃レーザーによって自動小銃が一瞬で真っ赤に熱せられ、ボスは「アヂッ!?」と悲鳴を上げて銃を手放す。
俺はそのスキを見逃さず、一気に間合いを詰めた。
すれ違いざま、手首のフレームでボスの首筋を叩き落とす。
ドサリ、と最後の1人が床に崩れ落ちた。
戦闘時間――わずか42秒。
人質たちが呆然とこちらを見上げている。俺は特に言葉を交わすこともなく、腰から取り出した結束バンドで倒れた5人の強盗の手首を素早く固定した。
(よし……これで終わり。警察が突入してくる前に消えよう)
『レオ様、外の警察隊が突入を開始します。撤収を』
「了解」
俺は破れた窓ガラスの方向へ向けてジェットパックを点火。
立ち去り際、手首からカクカクと折れ曲がる電撃レーザーを一閃させ、誰もいない天井の壁面へ撃ち込んだ。壁に刻まれたのは、稲妻をモチーフにした幾何学サイン――『フラッシュ・アーク』のマークだ。
言葉を発することもなく、そのまま夜空の闇の中へと飛び去った。
ゴーッ!!
深夜2時10分。
「ただいま……ダ・ヴィンチ……」
「お疲れ様でした、レオ様。心拍数、体温ともに正常です」
自室の窓から這い入った俺は、スーツと装備を慎重に脱ぎ捨ててパジャマ姿になった。
ベッドへドサリとダイブする。
「ふぅ……明日の1時間目の体育、絶対眠い……」
アラームをセットした
その、直後だった。
――ドォォォォォンッ!!!!
地響きのような激しい爆破音と衝撃が、部屋全体を大きく揺らした。
街のどこかで、巨大な爆発が起きた音だ。
俺は喋る間もなく目を見開こうと、夢の中で身体を起こそうと試みた。
大都会の夜を切り裂く電撃レーザー――その正体が、宿題と睡魔に追われる普通の高校生であることを知る者は、今のところまだ誰もいない。




