秋後期~苧環邸の優雅な1日~
_________最先端技術をはじめとした、ありとあらゆる分野で名を轟かせる、日本でも指折りの巨大財閥と知られる苧環財閥。今回はそんな苧環財閥の跡取り候補筆頭とされる長子、苧環珠紀氏の暮らす、苧環邸の1日に迫っていく。
後に記者は語る。"一流の苧環財閥の使用人もまた一流なのだ"と______
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AM6:00。
使用人たちの朝は早い。主人の快適な生活のため、主人の起床前にミーティングを行う。
エマ「_____あー、既に知っての通りだが今日は取材が入る。変わったことは必要ない。普段通りの仕事しろッてことらしい。まァ気にすンな」
丹恋「はーい!なんだかエマくんがいちばんきんちょーしてそうだね?」
慈「ふふ、にこに言われてみれば確かにそうだね。カメラ避けていたみたいだし」
エマ「あァ?余計なこと言ってンじゃねェぞオイ。で、他になにか連絡はあるか?」
律「はい。珠紀様の革靴が先日から一点見当たりませんが、どなたか心当たりのある方はいらっしゃいますか?」
丹恋「かわぐつかぁ。うーん、どこに行ったんだろ?」
蛍「あ、それならこの間飼育舎の猫が持ってたな。喜んでたからあげたって珠紀さんが言ってたぞ」
律「敷枝さんがご存知でしたか…。良かったです。教えていただきありがとうございます」
マハロ「猫のオモチャにかァ…。あの革靴も相当高いものだよな、流石だな」
玲央「まさしく、その通りでございますね。猫さまを大切にされるご主人様らしい采配でございます!」
穹斗「はは、多分そういう意味ではない気がしますけどねー…」
さんご「………ん…すぅ…」
姫「そうね…。って使塚、そろそろ起きた方がいいでしょ。眠いのは分かるけど…」
鈴莉「ふふ……、気持ちよさそう…。起こすのがかわいそう、かも…」
エマ「毎日毎日駄目に決まってンだろ、さっさと起こせ!」
AM 7:00。
使用人の声がけにより、珠紀氏、起床。彼女の気分によって特殊な起こし方にも対応しているという。この日はオペラのように両端から呼び掛けを行っていた。
蛍「目覚めよ〜! 我らが主よ〜!白の眼帯に宿る、 至高の美しき影よ〜!夜の帳を切り裂き、 今日という舞台を照らせ〜♪♪♪」
マハロ「おぉー、いい声出てるな。よし、愛嘉さんも気合い入れて声出すかね」
珠紀「んん……ねむ…」
さんご「しかく眼鏡の人、堂々と歌ってるの、ね。素敵。ひなは、やらない の?」
姫「あたしは別に…。仕事はこれだけじゃないでしょ。普通に恥ずいし」
鈴莉「堂々と……。き、緊張…します………すぅ…はぁ…」
玲央「ご主人様ぁ~!黒髪をなびかせ、 ベッドより立ち上がり給え!今日も全力でお仕えさせて頂きます~♪」
珠紀「ふぁぁ……。うん、おはようみんな。もう大丈夫、頭に響く……」
エマ「お前が普通に起きりゃ済む話だろうが」
珠紀「それが出来たら苦労しないよねぇ。あ、今度は皆が女装男装してくれたら視覚的刺激で目覚めるかも、試してみる?」
鈴莉「女装男装です…か…!?た、確かにその……似合いそう…かも…」
穹斗「勘弁してくださいよー…俺は絶対嫌ですよ」
珠紀「もちろんその時は主人命令ね!案外フリフリふわふわのロリータドレスとかどう?」
穹斗「………いや、冗談キツイですって」
マハロ「はは、案外ギャップ萌えって言うんだったか?意外性はあるが、似合うのかもな!」
玲央「ええ!煉城さまでしたら華麗に着こなされるとお見受けできますね。勿論どんな衣装でもお似合いですが!」
姫「まあ…そうね。カワイイとこもあるし。見れないって程じゃないかも」
穹斗「日南さんまで変なこと言わないでくださいよ、マジで苧環さんが発注したら笑えませんからねー?そもそも女装は一人で十分でしょ」
エマ「1人も要らねェが?」
珠紀「あはは、面白そうだと思ったんだけどなぁ」
鈴莉「うーん……それならその…もう少し違う服装とか……。煉城さんでしたらアクセサリーも着けこなせますし…スタイルも、その…いいので、似合うと思います…!」
穹斗「いや、そもそも俺じゃなくても適任いるでしょ、エマーソンさんもそうすけど使塚さんもフリフリ着てますし、小鳥遊さんも似合いそうですし」
さんご「ん?……うん、命令なら、着ます。可愛いは好きだし、ねー」
慈「ふふ、俺は別に着る予定はないけどね。適任ってあるからさ」
穹斗「あと…アレじゃないすか、西桜寺さんならご主人様の命令で着てくれそうですし、蛍さんは前にメイド服着てるの見ましたよ?」
玲央「勿論お仕事でしたら喜んで着用させていただきます。煉城さまとお揃い…等でしたら、尚嬉しいですね。ふふ」
蛍「メイド服を舐めちゃいけないぞ?なかなか便利だからオススメだな」
珠紀「あはは、勿論みんな似合いそうではあるけどね、意外性があり、なおかつ嫌がっているから面白いんだろう?」
エマ「珠紀はこういうヤツだ、諦めろ煉城」
穹斗「………」
___使用人たちの献身によって、苧環邸の優雅な一日の幕が開くのであった。
*****
AM10:00。
珠紀氏が仕事のため、執務室のいる間も使用人たちは忙しく働いている。現在は掃除や世話を行うため、飼育舎へと向かっていた。
記者「飼育舎とはどんな施設ですか?」
慈「ああ、ご主人様は生き物が好きなんだって。捨てられていた生き物を引き取ったり、各地から珍しい生き物を取り寄せたりしていてね、専用の飼育施設があるんだ」
マハロ「生き物を世話するのも私たちの仕事なんだ。最初は驚いたが、世話するのも楽しくてなァ、私としては好きな仕事だな」
飼育舎は1軒の屋敷のようになっており、各エリアごとに生体に合わせた最適な環境に整えられているようだ。中には絶滅危惧種とされているような動物も飼われているというのだから驚きだろう。
さんご「あっちにねー、パンダがいる、の。可愛い、のよ」
鈴莉「ふふ…動物園にしか居ないと思ってました……から、ビックリ……ですよね。使塚さんはパンダ…好き、ですか…?」
さんご「うーん……。そうね。好き、かも?よくわかんないけど。四角めがねの人はどう?」
蛍「俺はパンダに限った話じゃないけど結構好きだな!」
さんご「そう。めがね、お揃いだから?」
蛍「見た目が似てるからってことだったのかよ!めがね…うーん、めがねか…?」
鈴莉「ふふ……なんだかその……使塚さんらしい表現ですね」
さんご「わたしらしい、の?」
鈴莉「す、すみません、その、勝手なこと言っちゃって……」
さんご「そっか、わたしらしい、なるほど。覚えた」
蛍「ん?何を覚えたんだ?」
さんご「なんでもない。それより…せんぱい、どうして、隅っこにいる、の?」
エマ「動物あんまり好きじゃねェんだよ、ほっとけ」
鈴莉「そう……なのですか?可愛いと思うけど、な…。小型犬……チワワとかなら、大丈夫…ですか…?」
エマ「げ、近づけてくンな!」
慈「あ、逃げちゃった」
鈴莉「す、すみません……!まさかそこまで苦手だとは…その…思わなくて…」
エマ「別にいい。これ以上近づけてくンなよ」
律「本当に苦手だったのですね。私たちが赴任するまでどうしていたのでしょうか?」
エマ「珠紀が世話専門のヤツを日中だけ呼ンでたな。外部の人間好きじゃねェからってお前らが来ると同時に断ってたけどな」
慈「そういうことだったんだ。どうりでエマーソンさん1人で仕事を回せていたわけだ。納得だな」
エマ「世話まで一人でやってたらそれだけで日が暮れるからな。24時間働き詰めでも終わらねェよ」
記者「なるほど。1年前まではディックさんが殆どお屋敷の仕事をされていたのですね」
エマ「まァ、色々あってな。仕事が多すぎて今以上にキレてた記憶しかねェが」
玲央「お仕事が24時間出来るなんて、天国のようなお話ですね…」
エマ「天国なのは西桜寺にとってだけに決まってンだろ」
マハロ「あんまり頑張りすぎも良くないぞ?何事も程々になァ」
玲央「確かにそうでございますね。お恥ずかしながら、適度が難しく…。愛嘉さま、今度ご指導頂いてもよろしいでしょうか…?」
マハロ「そうだなァ。休暇の取り方なら愛嘉さんもアドバイス出来ると思うぞ!」
玲央「ありがとうございます、大変光栄でございます。愛嘉さまのご指導で更に精進させていただきますね…!」
丹恋「れおくん、ちーたんのお散歩てつだって~!」
玲央「ええ、もちろん…!ちーたんさまを女性おひとりでは大変ですからお任せ下さい!」
丹恋「ありがとー!こっち持ってね!」
エマ「……アイツに休みを教えられる日は遠そうだな」
記者「ちーたん、とは一体?」
慈「チベタン・マラティフという犬種の大きな犬の名前なんだ。希少価値の高い高価な犬種だと聞いたよ」
蛍「普通に生きてたらなかなかお目にかかれないよなあ。勇敢な上に鳴き声も強そうで格好いいよな!」
玲央「ええ。勇敢に主人を守ろうとする姿には胸を打たれますよね!」
蛍「そうだな。お前も珠紀さんを守るんだぞ?」
ちーたん「うぉんっ!」
蛍「うんうん、よしよし可愛いなあ!」
律「ふふ…」
蛍「ん、なんだ?」
律「あ、いえ…。微笑ましくて、思わず。…それにしても本当に大きい犬ですよね。人懐こくてじゃれてくださるのでとても可愛らしいのですが」
蛍「ああ、そうだな!」
丹恋「りっちゃんすごいねー!かわいいけど乗っかってくるとちょっとたいへんかも…!」
律「ふふ、そんなところが可愛らしいんですよ。元気いっぱいで好ましいと思います」
慈「俺も律さんに同意かな。あの綺麗な毛並みとかが俺もお気に入り」
律「愛嘉さんはいかがですか?お気に入りの動物とかいらっしゃるのでしょうか?」
丹恋「あ!にこも聞きたーい!はろちゃんの好きなどうぶつ!」
マハロ「私か?そうだなァ…特別お気に入りは考えたことなかったな。でも手のかかる子はその分愛着が湧くな」
律「確かにそうですね…。確か心理学的にも提言されていましたよね。確か…」
さんご「サンクコスト効果?でしょー」
鈴莉「すごい…物知りですね…!」
さんご「本で読んだことがある気がする?よ」
律「ああ、サンクコスト効果、でしたね。コストをかけた分だけ愛着が湧くという…」
マハロ「はは、そういうのもあるんだな!」
記者「和気あいあいした雰囲気ですね。…ちなみに、こちらの部屋は?」
律「猫専用の部屋ですね。猫じゃらしなどの玩具も完備されています」
慈「保護猫も多いけど、快適な空間で可愛がられているよ。…よっと」
猫「にゃぁん」
律「?わ、」
小鳥遊氏が猫を抱き抱えようとすると、するりと手をすり抜けていく。そのままぴょんと瀬戸氏の頭を飛び越え、部屋を出ていってしまった。
律「……行ってしまいましたね…」
慈「律さん、大丈夫だった ?怪我は無い?」
律「ああ、いえ、私は大丈夫ですが、猫を追いかけなくては…!」
慈「それなら良かった。そうだね。まさか逃げてしまうとは思わなかったな…。急いで皆にも声をかけて追いかけよう」
律「そうですね。迷子になってしまっては可哀想ですし」
慈「ふふ、律さんは優しいね」
律「そうでしょうか?…ありがとうございます」
彼らの協力した捜索の甲斐もあり、無事に脱走した猫も元の飼育ルームに戻ったのであった。
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AM12:00。昼食準備を行う。
さんご「____こんなことがあったのよ。猫は無事。よかった、ねー」
穹斗「なかなか大変だったんですねー。あの猫、人懐こいと思ってましたけど、お転婆なところもあったんすね」
姫「ああ、煉城には結構懐いてたっけ。流石だね。あたしは本物は少し苦手かも。生き物の世話とかあんまり向いてないし…」
慈「はは、気分もあったのかもしれないね。そんな所も可愛いけど」
穹斗「まあ、猫は気分屋っていいますしねー」
姫「…あ、誰か手が空いてるならスパイス取ってくれる?」
さんご「これ、合ってる?」
姫「うん、合ってる。ありがと」
さんご「うん。これくらいならわたしもできる、ね」
姫「今度は料理もやってみたら?」
さんご「わたしはできないと思う。なー。ひなみたいには、作れない。上手な人に任せるのがいちばんなの。ね」
珠紀「んー、いい匂い!今日はズバリ、カレーだね?」
エマ「あー、そうだな。メインの調理担当は今日は日南だったか?」
姫「まあね。もうすぐ終わるし、ちょっと待ってて」
珠紀「姫の料理も美味しいからね。期待して待ってるよ」
穹斗「あとは盛り付けですよね。……ん、日南さん、何やってるんですか?」
姫「んー、猫の話題出てたから、ちょっと工夫?してみた」
穹斗「…ふ、猫カレーですか?いいですね」
姫「でしょ。結構可愛いと思わない?」
穹斗「はい。ちょっと食べるの勿体なくなりそうなレベルですね」
姫「でしょ?煉城のも特別に猫にしてあげよっか」
穹斗「……そうですねー。たまにはそう言うのも悪くないかも。お願いします」
さんご「あ、猫だ。もしかしてさっきのやつ?」
姫「そう。結構自信作かも。使塚も食べる?」
さんご「本当だー。ひなみたい、ね?食べる、よ」
姫「え、あたし?」
穹斗「あー、言われてみればそうすね。作った人に似るんですかね」
姫「……っ、もういいから、ご主人に出してくる!」
珠紀「あはー、可愛い盛り付けにしてくれたんだね」
姫「…まあ、一応」
穹斗「こっちはサラダです。普通のやつですけど」
珠紀「うんうん、新鮮で美味しそうだよ、ありがとう。それじゃあいただこうか。さあエマ、口を開けて、あーん」
エマ「あー……」
出された食事に満足そうに微笑むと、そのまま自然な流れで隣にいたディック氏の口へと運ぶ珠紀氏。
エマ「ん、美味い」
記者「………今のは一体?」
珠紀「うん?何がかな?」
記者「いえ、ディックさんにあーんを…」
穹斗「あー、そうすね。いつもの事なんで気にした方が負けといいますか」
慈「そうだね…最初は驚いたんだけど、気にする程のことではないかなって今は思っているかな」
エマ「?なンの話だ?」
珠紀「さあ。それよりこっちのサラダも食べてよ、あーん」
エマ「あー…」
姫「いつもこういう感じ。いちいち気にしたら負けよ」
記者「……おふたりはお付き合いされていたり?」
姫「それはないんじゃない?普段は喧嘩…というかご主人にキレてばっかりだし」
慈「うーん、それはどうかな…。付き合っては勿論いないと思うけど、信頼関係はしっかりありそうだよね」
珠紀「信頼関係かあ。あるの、エマ?」
エマ「余計なことしやがるってことは確信してンな」
珠紀「あは、だって~」
慈「ふふ、そういうところだよね」
さんご「こういうのも信頼関係、なの?」
慈「そう。遠慮なく言い合うことも信頼なしにはなかなかできないからね」
さんご「そっかあ」
会話をしながら食事を進めていると、廊下から足音が近づき、涙を流した西桜寺氏が部屋に飛び込む。ただならぬ様子に記者だけでなく使用人たち誰もが振り向いた。
玲央「皆様…一大事でございます…!!」
エマ「ンな慌てて何かあったのか?」
玲央「仕事が…仕事がございません……!!!!」
直後、沈黙の帳がおりる。困惑する記者を置いて、苧環氏は「なんだぁ」と何故か微笑んだ。
エマ「ンなことでいちいち騒ぐな」
玲央「そう言われましても!お掃除もお料理もお洗濯も全て終わってしまった以上私は…!私はどうしたら…!?」
エマ「休めばいいんじゃねェか?休憩しているうちにそのうち仕事できンだろ」
玲央「そんなっ!?きゅ、きゅきゅきゅ、休憩などっ、私には耐えられません……っ」
慈「ふふ、相変わらずだね。とはいえ仕事か…。確かに現状はひと段落着いたよね」
珠紀「それなら問題ないよ。今日はこのあとやりたいことがあったからね!」
珠紀氏の明るい言葉に反して、使用人たちの反応はというと、慣れた様子の頷きのみであった。普段から彼女の提案で特殊業務を行うことが伺える一幕となるのであった。
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PM 2:00。
鈴莉「これは…キャンバスにスケッチブック、画材も色々ありますね…」
さんご「んー…これ、なに?」
鈴莉「これはパレットナイフ…ですね。絵を描く時に使うんです。こんなに本格的な画材があるなんて…」
さんご「そう、なんだ。絵に使うんだ、ねー」
姫「…この感じだと、絵を描けってこと?」
珠紀「絵を描くのに必要そうなのは一通り揃えたからね。好きなものを自由に使って描くといい」
丹恋「わー、いっぱいあるんだねぇ…!カラフルでかわいい!これでなにかかくの?」
珠紀「ふふん、そう。今日は僕を描いてもらうよ!」
律「珠紀様を、ですか…」
マハロ「似顔絵かァ。それはまた今までなかった仕事だな」
穹斗「ですね。絵心とか正直自信ないんですけどー…見る専とか駄目ですか?審査員とか」
蛍「審査員か、確かに見てもらえるのは嬉しいけど、やっぱ俺としては穹斗の絵も見たいな!」
穹斗「俺の絵もですかー?」
蛍「絵柄に人が現れるとも聞くからな。そういう意味でも興味があるというか」
穹斗「それはさらに恥ずかしいような…」
玲央「そんなことはございませんよ、煉城さま。それに、ご主人様を絵に表すなど身に余る光栄でございますから…!」
丹恋「れおくん、やる気まんまんだねー!おえかき得意なのー?」
穹斗「本当ですね。まあ大体何でもやる気満々なイメージありますけど…」
玲央「得意、というわけではございませんが、教養としてある程度は学んでおりましたよ。愛多地さまはいかがですか?」
丹恋「そっかあ。にこはべんきょうしたことはないけど~…。かわいいイラストはいっぱいかいたことあるよ!」
玲央「そうでございますか。それではお互い、精励恪勤いたしましょうね」
丹恋「せいれいかっきん?うん、わかった!」
鈴莉「愛多地さん……今のは意味を分かって返事していたのでしょうか…」
丹恋「いみ?うーん、むずかしい言葉だったからよく分かんなかったかも!」
鈴莉「あっ……ご、ごめんなさい…私もよく分からなかったので、その、一緒…ですね…?」
丹恋「えへへ、そうだねー!」
慈「にこ、あんまり分からない言葉に返事をしちゃダメだよ?悪い人に騙されないか心配だな」
丹恋「そうかな?」
慈「そうそう。中には難しい言葉でにこを騙して傷つけようとする悪い人もいるかもだからさ」
鈴莉「……確かに…そうかもしれませんね。お屋敷の皆さんは…いいひと、ですけど、…世界には…その、たくさん、いますから……」
丹恋「むむ~…たしかにそれもそうかも?…分かった!これからは分からない言葉にはへんじをしないにするね!」
慈「うんうん。えらいえらい」
丹恋「えへへ~」
記者「似顔絵、という話でしたが、一体どういった意図があるのでしょうか?」
珠紀「特に深い理由はないかな。あ、でもいいのがあったら肖像画として飾ろうかなって♪」
記者「肖像画ですか…?画家を呼んでもらうとかでは…?」
珠紀「僕はみんなの絵を見るのが目的だからね。それに案外画伯がいるかもしれないだろう?」
記者「なるほど…」
蛍「珠紀さんはこういう面白そうなイベントを色々やらせてくれるからな、これが楽しいんだ!」
マハロ「蛍はいつも楽しそうだからなァ。どこでもやっていけそうだな!」
蛍「まあな。でもどこでもやっていけそうで言うならマハロもだろ?」
マハロ「そうかもなァ。けどな、どうせ生きるなら蛍もいた方が楽しそうだと愛嘉さんは思うな」
蛍「嬉しいこと言ってくれるな!俺もマハロがいた方がもっと楽しいと思ってるよ」
律「ふふ、素敵な絆ですね。少々羨ましくも感じますが…」
慈「律さんもいたらもっと楽しいんじゃない?俺にとってもそうだし、きっと2人にとってもね」
マハロ「ああ、当たり前だ!大勢いればもっと楽しいからなァ!」
蛍「だな。だからさ、この屋敷に来れて本当に良かったって思ってるんだ」
律「…みなさん…、嬉しいです。ありがとうございます」
鈴莉「1人より2人、2人より3人…ですよね。……私も、最初はびっくりしたし、緊張したけど…、今は楽しい、な…」
さんご「楽しい……ねー…」
珠紀「はいはい、雑談もそこそこにそろそろ書き始めてもらおうかな!」
暖かい空気の流れていた使用人たちであったが、珠紀氏の言葉に切り替え似顔絵制作に取り掛かる。どんな仕事でも目の前のものに取り組むプロフェッショナルとしての姿を背中で語っていた。
穹斗「あー…やっぱりこういうの苦手なんすよねー…」
珠紀「ふふ、そうかな。なかなか味があると思うけどね」
玲央「……ここを、こうして…。出来ました…!ご主人様、こちらをご覧くださいませ!」
珠紀「わ、本当になかなか上手だね。僕の雰囲気が伝わってくる」
玲央「お褒めの言葉、恐悦至極に存じます…!煉城さまもよければご覧くださいませ」
穹斗「どうも。…写実的で正確な感じしますねー」
玲央「ふふ、ありがとうございます!」
鈴莉「よし、できた…」
さんご「…………」
鈴莉「あれ……?あの、使塚さん?」
さんご「…ん、なあに?」
鈴莉「スケッチブック、何も描いてないような…」
さんご「うん、描き方、わかんなかったから」
姫「描き方分かんないって…ずっとぼーっとしてたってこと?」
さんご「うん。……変 だった?」
姫「別に変では無いけど。あたしもそんなに上手じゃないし…」
さんご「そっか。ひなも…。うーん…どうやって描けばいい?」
鈴莉「えっと……まずはこうやって当たりをつけて描いてみる…とか…」
さんご「あたり…」
鈴莉「あ…ごめんなさい、偉そうに教えちゃった……」
珠紀「いいんじゃない?教えてもらいなよ、ねー?」
さんご「そう ねー。ひなも、一緒に聞く?」
姫「んー…あたしはいい。自分で描いてみる」
穹斗「なんだかんだ真面目ですよねー、日南さん」
姫「お互い様でしょ」
午後の昼下がり。慣れない似顔絵に悪戦苦闘しながらも主人の命を実行すべく、自分なりの絵を完成させた使用人たちだった。
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PM23:00。
使用人たちの仕事はまだ終わっていない。夕食を終え、就寝前の身支度を済ませた主人を快適な睡眠へと誘うべく、快適な寝台の準備を行っていた。
蛍「レコードのセットは完了。…BGMは…うん、これがいいな」
律「ふぁ…」
蛍「はは、律さんも眠くなってきたか。もう一息だ、頑張ろうな」
律「いえ…すみません。いつも敷枝さんの音楽のセンスが良いので思わず…」
蛍「そうか?」
律「はい。いい夢を見られるだろうな、と感じます」
マハロ「だなァ。音の大きさにもこだわってるだろ?程よくていいんだよな」
丹恋「はろちゃーん!おふとん、セットできたよ!」
マハロ「お、助かる。そしたら最後は…このアロマを炊けば完成だな」
愛嘉の用意したアロマを点灯する。優しい炎の光とともに、やがてラベンダーの香りが周囲に漂う。
丹恋「わあ、いいにおい〜!はろちゃんが用意したの?」
マハロ「そうだな。心地いい睡眠には匂いも関係あるかと思ったんだ」
珠紀「……ん、いい匂いがすると思ったら、やっぱり準備を整えてくれたんだね」
蛍「はは、匂いでご主人様も引き寄せたみたいだな」
珠紀「主人に対して虫のような言い方は失礼じゃないかな?」
蛍「あ」
珠紀「…まあいいよ。それで今日はどんな風に寝かせてくれるのかな」
記者「その日によるのですか?」
珠紀「うん。寝台担当のメンバーで毎回工夫を凝らしてくれるから結構楽しいんだよ」
律「なかなかその日によるのも難しいのですが…。ご満足いただけるよう努力しております」
丹恋「今日はですね〜、たっくんのえらんだ音楽とはろちゃんの用意してくれたアロマがあります!」
珠紀「なるほどね。うーん、でもそれだけじゃ弱いかなぁ?」
律「弱い、ですか…?」
珠紀「そう。そうだな…絵本の読み聞かせとかどう?」
マハロ「絵本か!それはまた意外なリクエストだな」
丹恋「絵本なら〜…これ!はろちゃんいっしょに読もうよ〜!」
マハロ「これは…童話だな。よし、愛嘉さんと愛多地に任せてくれ」
蛍「お、そういうことなら任せるか。一緒に聞いても構わないか?」
マハロ「もちろん構わないさァ。隣が空いてるぞ!」
律「私も…聞かせて頂きますね」
珠紀「ふふ、任せたよ。どんな話か楽しみだな」
丹恋「___むかしむかしあるところに、むすこが一人いる王様がいました。そのむすこが強大な王様のむすめにけっこんを申し込みました」
マハロ「___子供たちがそこを通る時はこんな歌を歌います。"からん、ころん、後光がさした、この塔の中には誰がおる?"」
丹恋「"中にいるのは、おひめさま、おひめさまでも見られない。かべが、どうやっても壊れない、石が、どうやってもはずれない。"」
マハロ「"五色のきもののハンスこぞう、こっちに来て、あとからついておいで。"」
蛍「……いい読み聞かせだったな!皆にも聞かせてやりたかったくらいだ!」
律「しーっ…珠紀様が起きてしまわれます」
蛍「すまん、思わず声が出てしまったな」
律「いえ…お気持ちは分かりますから」
PM12:00。
使用人たちは静かに「おやすみなさい」と口にして、主人の元を後にした。主人の快適な生活を守るための使用人たちの1日は長い。プロフェッショナルの仕事を目撃する取材となった。
-完-
*****
AM2:00。
夜も更け、使用人たちも寝静まったころ。エマーソンはというと、終わらない書類仕事を片付けるため未だ机に向かっていた。
エマ「……こっちは、完璧だな…」
主人の仕上げた書類は悔しいが、抜け落ちはない。確認を済ませてふぅと息を吐く。ふと視界の端に、ティーカップが置かれる。驚いて見上げると主人の姿があった。
エマ「お前…寝たんじゃなかったのか?」
珠紀「目が覚めてさあ、お茶を飲みに来たんだ」
エマ「こんな時間に紅茶飲むと寝れなくなるンじゃないのか?」
珠紀「中はカモミールティーだから問題ないさ。…で、まあここの電気ついていたから。ついでに淹れたんだ。飲んでいいよ」
エマ「…そうかよ。ありがとな」
珠紀「どういたしまして」
カモミールティーなだけあり、飲むと喉が潤うだけでなく、優しい香りがふわりと鼻腔を包み込み、どこか落ち着く。気分も切り替わり、書類に再度向かい合えそうだ。お茶をいれた張本人はと言うと、隣に腰を落ち着け、頬杖をついてこちらを眺めている。暫くは無視をして書類をこなし続けたが、やがて視線に落ち着かなくなってくる。
エマ「何やってンだ?」
珠紀「ん?エマを見ているんだよ」
エマ「……。なンでだよ、早く寝ろよ」
珠紀「やだ」
エマ「………お前なァ…」
珠紀「僕が寝なかったら、エマも寝ざるを得ないだろ?」
エマ「………わぁったよ」
書類を閉じる。主人は満足そうに微笑んでいた。特に寝かしつけをして欲しいというわけでもないようで、あっさり自分の部屋へと踵を返す。エマも今日は仕方ないかと諦め、寝室へと向かう。
珠紀「あ、エマ」
エマ「なンだ?」
珠紀「おやすみ!」
エマ「……おやすみ」
秋を告げる虫の音と、穏やかな挨拶の声が交わる中、静かに夜は更けていく。
___こうして今度こそ、苧環家の優雅な一日は幕を下ろしたのだった。




