夏後期〜無人島サバイバル〜
サンサンと太陽が照りつける夏。重たい雨雲は美しい入道雲へと姿を変えて見下ろしている。彼らは苧環財閥保有のプライベートビーチでバカンスを満喫していた。
丹恋「わぁっ!海!一面キラキラで見ているだけでワクワクしちゃう!」
蛍「ああ!波のさざめきも穏やかだ。まさしく海日和って感じだな!」
エマ「オイ、はしゃぐのはいいがまずは準備しろよ。時間はまだあるンだしな」
丹恋「はぁい!」
姫「まさか使用人の福利厚生で海外まで旅行にいくとか本当、規格外っていうか…」
穹斗「そうですねー。俺としては暑いし避暑地の方が嬉しかったですけど、まあそれにしても福利厚生にしては充実ですよね」
慈「だね。個人所有でこんなに大きい島を持っているなんて夢があるなあ。ところで穹斗さん、ちゃんと日焼け止め、塗った?」
穹斗「あー…まあ…適当になら?」
慈「そこは丁寧に塗らないと。日焼けすると悪いからね。よければ日焼け止め、貸すよ」
穹斗「どーも。でも大丈夫すよ。一応自前も持ってるんで。暑いし日陰から出る予定もないですしねー…」
律「日焼け止め…ですか」
穹斗「?瀬戸さん、塗ってないんですか?」
律「そうですね。あまり馴染みがなかったもので…。盲点だったなと考えていました」
穹斗「え、意外ですね。瀬戸さん、そういうのしっかりしてそーって思ってました」
マハロ「日焼けに縁のない出身だったのか?」
律「いえ、そういう訳では…」
マハロ「まァ、色々あるよなァ。愛嘉さんもそんなに塗ったことないし、気にする必要はないと思うよ」
律「ありがとうございます、愛嘉さん。そう言っていただけると安心します」
玲央「うう、仕事…仕事が欲しいです…」
丹恋「あちゃー、今日もかわらずだね?」
珠紀「あはは、旅行の話聞いてからずっとこの調子だからねぇ」
玲央「休暇に耐えられません…!こうなったら仕事を頂きに行くしか…!」
丹恋「うーん、それならホテルとかおみせやさんのお手伝いをさせてもらうとかどうかなあ?」
玲央「……!名案をありがとうございます!早速行ってまいります!」
珠紀「残念だけどそれは無理だよ。だってここ、僕たちしかいないからね!」
玲央「そ、そんな…」
エマ「そんなに仕事に飢えてンならこっち来い、飲み物と軽食用意すンぞ」
玲央「はい…!全てこの玲央にお任せ下さい!」
蛍「へぇ、大きな島だと思ったが、無人島だったんだな!無人島に来るなんてまたとない機会だな…!」
マハロ「はは、蛍はクルージングの時から興奮して仕方ないみたいだなァ」
蛍「それはそうだろ!まあでも、年甲斐なくはしゃぎすぎたか?」
律「ふふ…、いいんじゃないでしょうか?楽しそうな姿を見ると、つられて気分も盛り上がりますし」
マハロ「あァ、見てて楽しいよな!私もバカンス満喫するよ」
律「ええ。無人島であれば周囲のご迷惑を配慮する必要もありませんから」
珠紀「うんうん。宿は本島にとってあるけど、海で遊ぶなら羽を伸ばせる方がいいだろう?」
さんご「うん。楽でいいね、です」
姫「使塚も?…まあ、人の視線とかいちいち鬱陶しいし。悪くないのかも」
さんご「そう、ね」
鈴莉「……ふふ、使塚さんも…楽しんでいたのですね」
さんご「あ、ジュース持ってる」
鈴莉「その……エマーソンさんと西桜寺さんが……作ってくださっていたので……。あの……よければ、飲みませんか……?」
姫「ふーん。それなら飲もうかな。ありがと」
さんご「わたしの分も、あるの?」
鈴莉「もちろん………!パラソルの下にいましたし、暑いかなと…思って…」
さんご「やったー。ありがとー」
鈴莉「あの……よければ…、お隣いいですか……?」
さんご「うん。どーぞ。わたしだけの場所じゃ、ないしね」
鈴莉「ありがとう…ございます…!……ふふ」
さんご「?楽しそう、だね」
鈴莉「あ、…ごめんなさい……皆さんのお洋服、新鮮でなんだか素敵だなと…思って……」
姫「服?まあ、屋敷では全員制服だから、新鮮といえばそうかも」
鈴莉「はい…。日南さんはその…、大人っぽくて素敵、ですし…。使塚さんの水着は…、可愛いですね……!とっても…!」
さんご「かわいい、でしょー。わたしも、気に入ってる」
姫「うん。似合ってるよね。その浮き輪とかも」
さんご「ん。ドーナツ。かわいいから、使ってる」
鈴莉「はい……。とってもお似合いで、その……。私なんかが並んで、いいのかなって……」
さんご「そう?あなたも、とても素敵。帽子も可愛いし、ねー」
鈴莉「本当ですか……?その…ありがとうございます……」
丹恋「おーい、みんな〜っ」
鈴莉「……?どうしましたか……?」
丹恋「海にお魚がおよいでてね〜!魚つりしようってちーくん達が話してたんだ〜!みんなも行かないっ?」
さんご「魚つり、うーん…。わたしにできる、かな?」
丹恋「やってみなきゃわかんないでしょーっ!それににこ的に意外な人が上手だったりとかあると思うんだよね!」
鈴莉「……ギャップ萌え、ということでしょうか……?」
丹恋「そうそれ!つったらはろちゃんがお魚おりょうりしてくれるんだって!楽しみだね〜っ」
さんご「うーん…じゃあ、教えてもらおう、かなー」
使用人たちがわいわい話している傍らで飲み物を用意していたエマーソンがふぅと息を吐く。
エマ「魚釣りか…。まあ美味い飯が食えるなら悪くねェな」
玲央「ジュースの供給のお手伝いが終わりましたら今度はぜひ、今度はお魚の準備もさせて頂きます…!」
穹斗「あ、俺も飲み物飲みたいんすけど…、もしかして終わりました?」
玲央「煉城さま、お待ちしておりました。勿論ご用意できますよ」
エマ「おー。水分補給は大事だからな。何飲む?」
穹斗「水で…」
玲央「それであれば塩レモン水はいかがですか?炎天下の中ですから、水分補給にぴったりかと」
穹斗「あ、いいすね。じゃあ、それにします」
玲央「どうぞ。ふふ、煉城さまのお役に立てて光栄でございます!」
珠紀「うんうん、それぞれのニーズに合わせて提供するのは大切だからね。優秀な使用人がいて嬉しいよ」
エマ「珠紀、お前…着替えてきたンか?」
珠紀「うん。せっかくだし水着を着ようかと思ってね。どう?なかなか似合ってるだろう?」
玲央「非常にお似合いだと思いますよ。普段と違う印象で素敵ですね」
穹斗「そうすねー。普段のクールな感じとは違うっていうか…いいと思いますよー」
珠紀「ふふ、2人ともありがとう。それで、エマから見てどうなのかな?」
エマ「あー…まァいいんじゃねェの」
珠紀「似合ってる?」
エマ「似合ってる似合ってる」
珠紀「可愛い?」
エマ「カワイイカワイイ」
珠紀「んふふ。やった」
エマ「………」
珠紀「ん?どうしたの?」
エマ「別に、珍しく素直な反応するじゃねェかと思っただけ」
珠紀「え?あ。……可愛がってる従者に褒められて嬉しくないわけないだろう?」
エマ「……そうかよ」
玲央「そういえば、以前エマーソンさまのお洋服がないと伺っていたと思いますが、見つかったのでしょうか?」
エマ「あァ、珠紀が持ってたンだよ。捨てられたと思ってたから意外だったな。前より状態いい気がするし…」
珠紀「捨てないよ。エマの大事な服だろう?全て状態を保ちながら保管してある」
エマ「……!珠紀ィ…」
穹斗「そういいつつ返す予定はないんすね…」
玲央「煉城さま、そこは言わないお約束ですよ…!」
マハロ「あァ、ここにいたんだな、煉城たち」
慈「なかなか大きい魚が釣れたんだ。見にこない?」
珠紀「へぇ、いいね。この辺の魚となるとなかなか美味しいものが食べれそうだ。釣りの経験者でもいたの?」
律「そうですね。愛嘉さんは経験者のようで、御指南いただきました。非常に心強かったですね」
エマ「マグロ解体師の資格もあるンだったか?どこで取るンだその資格…」
マハロ「まァ、実家が港町だからなァ。小鳥遊もなかなか筋がいいみたいでなァ。おかげでばんない釣れて助かったな」
慈「この辺りに魚が集まるとか、教えて貰えたおかげだよ」
律「流石ですね…。私は貝殻をとるので精一杯でした」
さんご「近くで取ってる、から。踏んじゃいそうになって、びっくりした、なー」
蛍「上手に避けていたみたいだけどな!驚いた声が聞こえて振り返ったら謝りあっていたんだよな」
珠紀「なるほどね。災難だったね?」
律「あの時は大変失礼致しました…。足元に綺麗な色の貝殻を見つけて、思わず…」
穹斗「貝殻ですか?」
律「はい。この、桃色の貝なのですが…」
穹斗「……あ、本当だ。綺麗な色、してますねー。いいの見つけましたね、瀬戸さん」
エマ「まァ、綺麗は綺麗だが…。それ、食えンのか?」
丹恋「ええ〜!?これは食べる用じゃないですよっ?ね、りっちゃん?」
律「そうですね…綺麗だから取っただけでしたが…」
エマ「貝なのに食えねェのもあるンだな」
珠紀「あはー、貝なら明日予約してある店で食べるといいよ、ここのは観賞用ね」
丹恋「にこは貝がらとかシーグラス集めて写真たてつくりたいな〜!」
珠紀「写真立てか…」
丹恋「ご主人様もきょうみありますかっ?ぜひ、一緒にやりましょうよ〜!」
珠紀「えっ?いや、僕はいいよ、入れる写真もないしね」
丹恋「それなら今日の写真を入れればいいんですよぉ!」
鈴莉「ふふ……それ…いいですね……。思い出になりそうです…!それならみなさんで、つくりたい…です…!」
姫「えー?あたしああいう細かいの苦手なんだけど…」
珠紀「皆って…僕はただの雇用主だろ。そんな関係では…」
マハロ「ひとつ屋根の下で暮らしてるのに関係あるかァ?」
丹恋「そうですよー!はろちゃんの言う通り!せっかく来たんですからおもいで作りましょぉ〜!」
珠紀「…ああ、うん…」
蛍「はは、なんか戸惑ってそうだな!」
エマ「ああいうのには慣れてねェンだろ。…ああしてればアイツも年相応に見えンのにな…」
蛍「女子同士仲良くやってるみたいだし、俺達も仲を深めるとするか!」
エマ「はァ?」
慈「いいね、ビーチバレーとかどう?」
玲央「ビーチバレー…やったことはありませんが、仕事であればお任せ下さい!」
穹斗「あー、俺は見学で〜…。どっちかっていうと貝拾いのがまだ楽そうですし…」
さんご「わたしも〜。ねえ、それなら一緒に、おやすみする?」
穹斗「えっと…俺とっすか?」
さんご「うん。あなたとなら、楽しい?気がする」
穹斗「まあ…いいですけど。直射日光避けたいし…」
蛍「チッチッチッ、そうは問屋が卸さないぞ?こういうのは皆でやるのが楽しいんだからな!」
慈「そうそう。どうせなら全力でやらないとね」
エマ「俺はやるといってねェからな」
女性陣は貝殻を集め始め、男性陣はビーチバレーを楽しみ始める。美しい青空の下、バカンスを思い思いに楽しんだのだった。
*****
マハロ「いや〜!楽しかったなァ!」
蛍「だな!ビーチバレーも白熱したし満喫したって感じだな!」
エマ「オイ、珠紀を知らねェか?さっきから姿を見ねェンだけどよ…」
蛍「ご主人様?そういやさっきから見てないな…」
丹恋「うーん、この流れなーんかどっかで見たことあるよーな?」
慈「ああ、にこも?既視感を感じるのは俺だけじゃなかったんだね」
周囲を見回すが、主人の姿はどこにもない。状況を察し嫌な予感がよぎる。顔を見合わせているとどこからともなく音声が聞こえてきた。
??『あはは、察しが良い使用人ばかりで僕も鼻が高いよ!』
エマ「誰のせいだ誰の!……ッて珠紀か?」
振り返るとそこには珠紀の姿がある。柔らかそうな椅子に腰掛け、にへりと笑みを浮かべるそれはよく見ると上の機械から映し出された映像のようだ。
珠紀『正解!諸事情からホログラムで失礼するよ〜』
玲央「ご主人様…こちらは映像、ですか?」
姫「ほんとだ、これ、いるみたいだけど触れないみたい。こんなこと出来るんだ…」
珠紀『今から君たちには無人島サバイバルをしてもらう!こういうの1回はやってみたかったんだよね〜』
エマ「あァ!?正気で言ってンのか!?」
珠紀『勿論♪ああでも、僕も鬼じゃないからね。明日には迎えに行くよ。皆にはバカンスを楽しんで欲しいしね!』
鈴莉「明日まで……、今日は野宿、ということですか…!?」
エマ「オイ珠紀表出ろ!!!一発ぶん殴る!」
珠紀『あははー、残念だけど今は船の上だからねぇ。みんな頑張ってね!』
にっこり微笑むと本人の映像はぷつっと途切れてしまう。まさかのサバイバル展開に一同沈黙が降りる。
姫「………ハァ…今回はディックさんに同意、かも」
蛍「まあまあ、こうなったからには仕方ない。俺たちでどうにかする方法を探ろう」
マハロ「だな!まさか島に取り残されるなんてなァ」
律「愛嘉さん、少し楽しんでいらっしゃいますか?」
マハロ「んー?まァな。ゲームとかでもあるだろ?こういうの。ロマンもあるよなァ」
さんご「そう?分からない、けど。必要なことは、やる」
蛍「そうだな。まずは食料調達班と薪の準備班に分かれるか。直に日も暮れるだろうし、手分けするに越したことはないだろ?」
慈「そうだね。魚はさっき釣ったのも残っているし、あと欲しいのは野草とか木の実とかかな?」
律「では、取りに行ってきます。ある程度薬草や野草の知識も教育を受けましたので」
マハロ「なら愛嘉さんも取りに行こうかねェ」
姫「あたしも行く。木とかに触ると虫出そうだし…」
蛍「女性陣だけじゃ流石に危ないよな。大した役に立たないかもだけど、俺も行こうかな。荷物持ちぐらいにはなるだろ!」
さんご「わたしも行く、よ。重いもの、持てないからね」
エマ「じゃあ、向こうは5人に任せて焚き火の準備すンぞ」
穹斗「了解でーす」
無茶ぶりにも慣れた使用人一行は、気持ちを切り替え手分けをしながら早速野宿の準備をしはじめる。一方は薪を探しに、一方は食べ物の確保にと、森の中へ入っていくのだった。
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蛍「森の中ってなかなか雰囲気あるな〜…。さっきから動物の鳴き声も聞こえるしな」
律「獣道が続きますからね。…大丈夫ですか?」
蛍「ああ。律こそ足元に気をつけろよ」
律「はい。お気遣いありがとうございます。転んでしまわないように十分気をつけますね」
さんご「んー…このきのこ、食べれる?」
姫「えー…これはどうだろ。見たことないけど…」
マハロ「きのこは危ないのもあるんだろ?慎重にならないといけないなァ」
姫「笑い茸とか泣き茸とか、そういうのでしょ。詳しくないと分かんないって聞くよね」
さんご「そうなん、だ。わたしには分からない、ね」
珠紀『それはテングタケだね。やめておいた方がいいんじゃない?』
マハロ「ありゃ、これは驚いた。珠紀さん、聞いていたのかァ?」
珠紀『せっかく楽しそうなことをしているんだよ。見ないと損だと思わない?』
マハロ「それはまた、いい趣味してるなァ」
珠紀『褒め言葉だと受け取っておくよ♪それに、毒に当たって苦しむ使用人は見たくないからね。見ていればアドバイスができるわけだ』
蛍「なるほど。それは助かるな!ちなみにこの赤いのは?」
珠紀『カエンタケだね。見てわかると思うけど、触るだけで危険だから近づかない方がいいよ』
蛍「おっ…と、危なかったな…。助かったよ、珠紀さん」
さんご「詳しい、です、ね?」
珠紀『まあ、このぐらいはね。必要知識だからさあ』
律「勤勉ですね。…私ももう少し学ぶべきでしょうか」
珠紀『ちなみに、ここで取れる狙い目はヒラタケかな』
律「ヒラタケ…。確かに海外にもあると聞きますね。探してみます」
姫「ちょっと、どんどん草の中入ってるけど…汚れるんじゃないの?」
律「軽装ですし、流せば問題ありませんから」
姫「思い切りいいね…あたしは無理。土つくのやだし…」
マハロ「じゃあ、愛嘉さんは木の実を探してみようかねェ」
蛍「木の実か。南国の木の実は甘いのが多いって言うよな」
マハロ「ああ。この辺の植物なら愛嘉さんの地元と似た種類があるかもしれないからなァ。ここは任せてくれ!」
蛍「流石マハロ、頼りになるな!ただ、無理はしないでくれよ?俺も一緒にやらせてくれ」
マハロ「ああ。ありがとァ。一緒に探すとしようじゃないか」
さんご「木の実…甘いの、はすき。ジュースになる、かな」
蛍「せっかくだし人数分見つかるといいな!」
マハロ「あ、早速見つけたぞ!あそこの木になってる」
律「……!ヒラタケ、見つけました!」
蛍「おぉ、流石だな!この調子で見つけていこう」
5人で探しているうちに、木の実やきのこ、野草なども籠の中いっぱいに集まっていく。たくさん集まった頃、どこからか悲鳴のような声が聞こえ、蛍が足を止める。
蛍「…?誰かの声か?」
さんご「みたい、だね。何かあった、かなー」
姫「…様子、見に行く?」
食料調達班は顔を見合せ頷くと、足早に元の砂浜に引き返すのだった。
******
穹斗「……こんなところ、ですかねー」
鈴莉「思ったより…あっという間、でしたね……。良かったです…」
エマ「まァ、頭数も多かったしな。これだけありゃ1晩程度持つだろ」
玲央「終わってしまいましたね…」
丹恋「だいじょーぶだいじょーぶ!こんどは集めた枝で火おこし?するんだよねー?まだしごとあるよ!」
玲央「確かに…!まだまだありますね!」
エマ「とにかく、さっさと引き返して準備するぞ」
慈「そうだね。食料調達班のみんなも帰っているかもしれないし」
エマ「ああ。早くもど______ギャァァアア!?!?」
穹斗「っ、エマーソンさん…!?」
鈴莉「ど……どうしよう、エマーソンさんが……っ」
引き返そうとした時、ずるりと足を踏み外し、エマーソンは崖の下へと落ちていく。動揺する中でも慈は冷静に下をのぞき込み、ほっと胸を撫で下ろした。
慈「……大丈夫、思ったより高くはないみたいだ。エマーソンさん、大丈夫ですか?」
エマ「ッつ……。あァ、怪我はねェし、大したことはねェよ」
玲央「安心致しました…。今、そちらに向かいます!」
丹恋「あ、あっちに道がありそうだよ〜!」
慈「にこ、ナイス。流石だね。早速行ってみようか」
丹恋「えへへ、うん!」
道を進んでいくと案外あっさりとエマーソンの元へ辿り着く。死角となっていたがそこは洞窟の入口の目の前であったようで、薄暗い道が続いていた。
鈴莉「こ…、こんなところがあったんですね…」
穹斗「いかにもな洞窟ですねー」
珠紀『でしょ。宝探しにピッタリだと思わない?』
玲央「ご主人様、ですか?」
珠紀『うん、ご苦労様。無事にここまで辿り着けたようでよかったよー!』
エマ「おいコラクソ珠紀、誰のせいで散々な目に遭ったと思ってんだ?」
珠紀『エマが転んだことに関しては僕も計算外だったよ。僕だって驚いたんだから…』
エマ「そもそもテメェがンなこと仕組まなきゃこうはならなかっただろうが!」
慈「まあまあ、ここで喧嘩してもどうにもならないんじゃないかな。それより、宝探しってどういうことですか?」
珠紀『ああ、洞窟の中に予め仕込みをしておいたんだ。洞窟にはいくつか宝箱がある。開けると必要なものが入ってるよ!』
玲央「ご主人様が直々に用意してくださったのですね…!是非とも宝探しをさせていただきます!」
慈「いいね、楽しそうだ。どんな価値のあるお宝が隠されているのか楽しみだな!」
穹斗「苧環さんってこういうの好きなんですねー…」
鈴莉「そうですね…。やっぱり…お金持ちだからこそ……なのでしょうか…?」
珠紀『ふふ、聞こえているよ?安心してよ、今回は謎解きは必要ない。洞窟を進めばいいだけだからね、簡単だ』
穹斗「とはいえ結構歩いてきましたし、疲れてません?キョリありましたよねー」
丹恋「うーん。まだにこはだいじょーぶかなあ?確かに今日はあっという間に寝ちゃいそうだけどね!」
鈴莉「は…はい、私も…です…!」
玲央「お2人がまだ大丈夫なようで安心致しました。とはいえ無理はなさらないでくださいね。私が責任をもって見つけてまいりますから!」
慈「だね。穹斗さんは大丈夫?」
穹斗「あー。それなら大丈夫でーす。後ろからついて行きますね」
エマ「まァ、念の為背後警備もいるか。俺も後ろにつく」
慈「じゃあ、後ろは2人にお願いしようかな。お願いね、穹斗さん」
玲央「ええ。煉城さまとエマーソンさまでしたら安心ですが…何かありましたらお申し付けくださいね。私は宝探しをして参ります!」
気合十分な2人についていく形で洞窟の中を進んでいく。珠紀の言葉は事実であったようで道の傍らにところどころ、宝箱は点在していた。中身を都度確認し、集めていく、が…。
鈴莉「……えと…かわいいリボンにハートのクッション……」
丹恋「これはこうすいとキャンディと…コンタクト?あ、色がついてるかわいーのだ!」
穹斗「この箱は…なんか高そうな壺が入ってますねー…」
エマ「どれもこれも無人島に関係ないじゃねェか!」
慈「必要なもの…としか言われてないからね。何かに使うべきなのか…」
玲央「ご主人様ですから、なにか意味があると思いますが…!なにか…」
エマ「自信なくしてンじゃねェか。アイツは無意味なこともするぞ。普通に」
玲央「いえ、きっと私には理解の及ばない何かがあるのだと思います…!」
慈「ここで突き当たり…これが最後の宝箱になるのかな」
玲央「そうでございますね。では…開けましょうか」
慈と玲央が息を合わせ、宝箱の蓋を開ける。中には金銀財宝…ではなかったが、お菓子や便利そうな道具の数々が入っていた。
玲央「わあ…!」
慈「これはどうやら当たりを引いたみたいだね」
エマ「ン?これはどうやって使うンだ?」
玲央「ここまで小さくなっているのは初めて拝見しましたが…、おそらく、超圧縮式の寝袋でございますね」
慈「手がかかってるなあ。これ、結構高いんじゃなかったかな?」
鈴莉「ちゃんと…人数分あるみたいです…!これで寝る時は安心ですね」
穹斗「これは簡易テントですか?ワンタッチ式の…一応ちゃんと考えてたんですねー」
エマ「計画犯だったことに文句はあるけど…まァそれなりのもン用意してたから多少は大目に見るか」
丹恋「だねー。最初はびっくりだったけど、さいしゅうてきにはキャンプできるんだもんね!むしろラッキーだったかも!」
穹斗「1日ぐらいならまあ、こういうのもアリかもですねー…」
慈「だね。きっと綺麗な星も見れるだろうし、散歩できたら嬉しいかも。穹斗さんも行かない?」
穹斗「まだ歩くんですか?まあ…星は綺麗でしょうけど」
玲央「これ以上ご不便のないよう、玲央もしっかりサポートさせていただきますね…!」
さんご「あ、みんないるー。おーい」
洞窟を抜けたところで食料調達班の皆も揃い、無事に元の場所まで戻ることができた。
火を起こし食事や寝床の準備を終える頃にはすっかり夜も深まり、透き通った夜空に星が浮かんでいた。
姫「……綺麗」
穹斗「あ、日南さん、ここにいたんですねー。マシュマロ貰ったんですけど、食べます?」
姫「ん。あるなら食べる」
穹斗「どーぞ。こういう時ってやっぱり焼きマシュマロが定番なんですかね?宝箱に入っててビックリしました」
姫「最近はあまり聞かないけど、まあ昔のマンガとかではよく見るでしょ。それじゃない?…む…なかなか焼けないわね」
穹斗「もう少し近づけてみるとかどうですかね」
姫「もう少し?……あっ…」
穹斗「あー、逆に焦げちゃいましたね…。失礼ならすみません。もしかして少し不器用だったりします?」
姫「別に!もう1回焼けばできるし…!」
穹斗「…よければこれ、食べます?」
姫「………くれるなら、貰う。…ありがと」
さんご「あ。美味しそうなの、食べてる。わたしも、欲しい、なー」
姫「使塚も食べたいの?仕方ないわね…あたしももっかい焼きたいし、貰ってくる」
さんご「ん。ありがとー。ね。ひな。あなたは、マシュマロ焼くの、上手な人?」
穹斗「普通じゃないですか?まあさっきは上手くいきましたけど…」
さんご「そっかー。わたしのも焼いて欲しい、な。多分、わたしはできないから、ねー」
マハロ「マシュマロもいいが魚もまーさんあるぞ。2人もどうだ?」
蛍「美味い!俺はもう1匹!」
マハロ「おぉ、上等だな!まーさん食べて明日の英気を養わないとなァ!」
蛍「助かるよ。楽しい経験の締めに美味しいご飯が食べられるなんてサイコーに幸せだな!」
玲央「ふふ。沢山準備しましたから、心ゆくまでお楽しみくださいね」
鈴莉「すごいですね…。私は……お腹いっぱい…かも…」
さんご「わたしもお腹いっぱい、ね。マシュマロ、はんぶんこ、する?」
鈴莉「いいんですか……?もし、ご迷惑でないなら……」
さんご「うん、どうぞ」
鈴莉「………!おいしい…ですね……!」
エマ「程々にしとけよ。明日の朝飯分もあるンだしな」
丹恋「はーい!…あ、これ美味しい!おかわり!」
慈「ふふ、にこは元気いっぱいだね」
丹恋「いつものご飯もおいしいけど、お外でのご飯はもっとおいしい、だよ!ちーくんも食べる?」
慈「なるほど。それなら少し食べようかな」
美しい月夜の下、暖かな炎を囲って賑やかな談笑が弾む。無人島とは思えないほど穏やかな風景を眺めながら、ふと、エマーソンは脳裏にこの場にいない人を思い浮かべた。この状況を作り出した当事者に関わらず、輪に加わらない主人のことを。
エマ「……なァ、珠紀。お前は本当にこれで満足なのかよ」
エマーソンの呟きは、皆の賑やかな喧騒に消えていった。無人島の夜は更けていき、やがて朝を迎えることだろう。ハプニングを乗り越えながらも、彼らの夏は、楽しい思い出が刻まれていく。
ひと夏の思い出は、まだ始まったばかりだ。




