夏前期〜幽霊屋敷〜
桜の季節が過ぎ、しとしとと雨が続くある日のこと。珠紀は静かに降り続ける雨を見上げながら「はあ…」とため息を着いた。そんな様子に、給仕をしていた玲央が眉を下げる。
玲央「ご主人様、なにか玲央に問題でもございましたか…?」
珠紀「ああ、別にそういう訳じゃないから、捨てられた子犬のような目はしないでいいよ?」
玲央「良かったです…!何かお悩みであれば、もしよければ私にお話くださいね、ご主人様の憂いを晴らすためであれば、何でもいたしますから…!」
珠紀「ふぅん、なんでも。なんでもね…」
エマ「軽々しくコイツにンなこと言うもんじゃねェぞ、何されるか分かったもンじゃねェ…」
珠紀「…よし、決めた。ねえ玲央、みんなを呼んで来てくれる?」
玲央「はい、喜んで!」
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丹恋「ご主人様のお呼び出し、なにかな〜?楽しいことだったらいいな!」
穹斗「いやー…この2ヶ月の呼び出しだけでも大体ロクでもな……突飛なことが多かったじゃないですか?」
姫「そうね…。家中ランウェイにさせられた時は辞めようかと思ったし」
律「あれは少々気恥ずかしいものがありましたね…。ご主人様だけであればまだしも、私共まで…。私はランウェイの花で十分でしたのに」
マハロ「そうかァ?いっぺー可愛かったけどな!」
律「ああいった場は慣れておらず…忘れてください」
玲央「愛嘉さまはとても堂々とされていましたね。ご立派でした。私も見習わなければなりませんね」
マハロ「そう真っ直ぐ褒められると照れるものがあるなァ。まァ、たまにはああいうのも悪くないかもな」
穹斗「俺はアレですねー。目覚ましに合唱を命じられた時が1番意味わかんなかったです」
蛍「ああ、あったな!俺は楽しかったけどな、この歳になると声合わせて歌う機会なんてなかなかないしな」
穹斗「えー…この歳だからこそなんか嫌じゃないですか?」
蛍「そうか?穹斗の歌、良かったけどな!高い音階もしっかり出ていたしな」
穹斗「…そうですか?ありがとうございます…」
さんご「わたし、は…、この間のくんれん?がびっくり…?しました」
エマ「武器訓練な。そう万が一のことはねェが立場上何が起きるか分からねェ。ボサっとしてねェで警戒を怠るなよ」
律「やはり、そういった事態も想定されているのですね。身が引き締まる思いです」
丹恋「事件に巻き込まれる?とか、そんなことあるんだねえ〜…べつのせかいのことみたい!」
珠紀「あは、これでも苧環財閥の御曹司だからね〜。修羅場の1個や2個巻き込まれるのも覚悟の上で働いて貰わないとね」
穹斗「あー…。高給な理由が見えてきましたねー」
玲央「ご主人様のためですからね…!頑張らないといけませんね!」
マハロ「ああいうのは初めてだけど、案外やってみりゃできそうなもんだなァ。本番とは勝手が違うんだろうけどな」
鈴莉「そうですね…。物語の中のことのようですが、ここは現実ですから……。私にできることをしていきたいです…!」
さんご「みなさん、すごいねー。頑張って、ねー」
姫「や、あんたもでしょ。なんで他人事なのよ」
珠紀「ハーイ、注目〜。今日皆を呼んだのは他でもなく、仕事を頼みたいからなんだ」
玲央「お仕事ですね…!」
珠紀「そう。皆には掃除を依頼したいんだよね」
丹恋「なーんだ!みがまえる必要はなかったですね〜。でも、このおやしきはどこもピカピカですよ?」
珠紀「うん。この屋敷ではなくてね、我が家が所有する別荘なんだ。整備する者の宛がいなくて困ってたからね、助かったよ〜!」
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穹斗「……あの時は天下の苧環財閥の人手がないことが不思議でしたけど…」
さんご「ここ、だったんだねー…」
数日後。命じられた一行はとある屋敷を見上げて呆然としていた。塗装は無残に剥がれ落ち、外壁には蔦が幾重にも絡みつき、屋敷そのものを締めつけるように覆い尽くしている。
曇天の下、その姿を見上げれば、まるで長い年月に置き去りにされた亡霊のように、重く澱んだ空気が辺り一帯に漂っていた。
姫「……うわ…ここ、苧環財閥の所有邸だったんだ。この辺で有名な幽霊屋敷じゃん」
さんご「わたしも聞いたことある、ねー。…幽霊出る、とか」
姫「使塚でも信じるんだ、そーいうの。ちょっと意外かも」
さんご「うーん、信じてはない、かも?見たことないです、から。キミは、信じてる?」
姫「あたしも別に…。霊感っていうの?そういうの分かんないし。掃除ダルそうってぐらい」
穹斗「経年の汚れとか埃とかヤバそうですよねー。仕事じゃなければ絶対中入りたくないですね」
鈴莉「皆さん、平気なんですね……。私はその、やっぱりちょっと怖いです……」
慈「まあ、何かと噂が絶えない場所だしね。呻き声が聞こえてきたとか、誰もいないはずなのに人影を見たとか。もしかしたら俺たちも目撃者になるのかもね」
蛍「幽霊か、面白そうだな!会って話したら意外にお友達になれるかもしれないんじゃないか?」
マハロ「はは!友達かァ。そりゃいいな。何人かいたら宴会になりそうだ!そん時の料理は愛嘉さんに任せときな!」
蛍「幽霊と友達になれてマハロのご飯も食べられるのか。楽しみが増えたな!」
律「お二人ともポジティブですね…。幽霊ってご飯、食べるんでしょうか?足もないですし、消化器官もあるのかどうか疑問ですが」
丹恋「そーいう問題なのかな?りっちゃんもちょ〜っとズレてるような…?」
珠紀「あはは、仮にも所有主の前で幽霊屋敷なんて酷い言い様だなあ」
鈴莉「……!ぇと、ご、ごめんなさい…!」
珠紀「別に構わないよ、僕もその噂は当然聞いているし、だからこそ掃除を頼める人がいなかったわけだしね」
さんご「そう、なんだ。窓拭きならできる、よ。3食昼寝の分は、がんばる」
エマ「そこは窓拭き以外も頑張れよ」
さんご「窓拭き以外は、わたしには向いていない。適材適所、でしょ?」
姫「まあ、分からなくもないけど。少しぐらいやってみれば?…少しぐらい、教えてあげてもいいし」
さんご「本当?じゃあ、少しやってみる、ね」
中に入ると、全体が埃被っており、家具も壊れ、一部は床も抜けている。別荘と呼ぶよりは廃墟と呼んだ方がいいような有様だ。
エマ「お前らもサボんじゃねェぞ。誰も長居したくねェだろ。手ェ動かせよ」
玲央「お任せ下さい!沢山働けそうで嬉しいです。まずはロビー一帯私にお任せ下さい」
丹恋「えぇっ?さすがに1人ではたいへんだよ〜?にこもお手伝いする!」
穹斗「えー…これ掃除するより一旦改築した方が早いレベルじゃないですか?」
珠紀「まあね。実際持て余していたのは事実かな。多少なにか手を加えても意味ないし」
慈「ここまで壊れているとこれ以上悪くなりようもないだろうからね。…あ、玲央さん、張り切っているところだけど、そこ、気を付けてね。床が抜けそうだから」
玲央「…!こほん。失礼しました。張り切りすぎて周りが見えてませんでしたね…お恥ずかしいです」
慈「そこも君の長所なんじゃない?俺も良ければ手伝うよ」
玲央「ありがとうございます、頼もしいです…!」
珠紀「じゃあロビーは3人に任せるとして、他も振り分けようか。それぞれ得意分野があるだろう。好きに分けても構わないよ」
鈴莉「わ、私はどこでも…。できるだけ怖くないところがいいですが…」
エマ「どこもマシな場所とかはねェだろうな。窓があってもこの天気じゃ明るさもたかが知れてンだろ」
鈴莉「で、ですよね…」
珠紀「鈴莉、鈴莉」
鈴莉「なんでしょう……?」
珠紀「気をつけて。幽霊は自身を感知できる人のところへ集まる性質があると聞くからね。君のような敏感な人のところには1体も2体も…」
鈴莉「ひえっ………」
エマ「おいコラ、悪戯に怯えさすんじゃねェぞ」
珠紀「あは〜。怖がってると思うとつい、からかっちゃいたくなるよねぇ」
穹斗「主人に言うことじゃないかもしれませんけど、本当にいい性格してますよね…」
マハロ「そうだなァ。弱ってる子ほど可愛いっていうやつかァ?」
姫「それで、どこ掃除すんの?あたしは調理場の方やってくるけど」
さんご「………」
エマ「オイ、聞かれてるぞ」
さんご「わたし?必要なところへ行く、よ。どこでもいい、から」
丹恋「え〜、もうちょっと希望はないの?んごちゃん!にこ的には廊下がオススメかな!窓がいーっぱいあったから!」
さんご「じゃあ、それにする」
鈴莉「それなら私は廊下の箒をかけようかな…」
蛍「マハロはどうする?よければお供するぞ」
マハロ「それは助かるな!じゃあ愛嘉さんは2階から攻めようかねェ。広くて腕が鳴りそうだなァ」
蛍「ついでに散策も出来そうだし面白そうだ!幽霊屋敷を散策できる機会なんてそうないからな」
珠紀「あー。上がっても構わないけど気を付けてね?1階以上に荒れていると思うし」
律「2階ですか。範囲が広くて大変そうですね…」
マハロ「そうだなァ。瀬戸も手伝ってくれれば助かるんだが」
律「私、ですか?お役に立てるようでしたら、喜んで」
それぞれが手分けをする形で、掃除用具を各々手に取り散開する。ところどころ落とし穴のようになった床に気をつけながら整備をはじめた。
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鈴莉「けほっ、けほっ…、やっぱりお屋敷のお掃除とは違うなあ……。はいても埃がなくならない…」
さんご「空気中にも埃が溜まってるから、ねー。はいても逆効果、かも?」
鈴莉「やっぱりそうですよね……。どうしよう、掃除機とかも使えないし……」
珠紀「残念ながら今は電気も通ってないからね。配線自体壊れてるみたいで復旧に時間がかかるみたいだよ」
さんご「そっかー。それなら仕方ない、ねー」
慈「うん、それなら水を含ませた新聞を巻くといいんじゃないかな」
鈴莉「……それ、旧世代式の掃除の仕方で聞いたことがあります…!小鳥遊さん、物知りですね…」
慈「にこが丁度玄関で実践しようとしていてね。その受け売りだよ。このご時世に紙新聞なんてないと思っていたけど、この屋敷にはあったみたい」
鈴莉「そっか…昔のお屋敷だとそんなに希少なものもあるんですね…!」
珠紀「ああ、なるほどね。新聞であれば自由に使ってくれて構わないよ。その許可を取りに来たんだろう?」
慈「さすがご主人様だ。話が早くて助かります」
珠紀「いかにゴミといっても主人の屋敷のものを勝手に使用するわけにはいかないだろうからね。…ああ、そうだ。ちょっと耳を貸してくれるかな」
慈「なんですか?」
なにかを思いついた様子の珠紀の耳打ちに慈が耳を傾ける。そんな中、掃除に戻ろうとしていたさんごと鈴莉を姫が呼び止めた。
姫「ねぇ、ちょっと来て」
鈴莉「どうしましたか?」
姫「今、冷蔵庫の片付けをしていたんだけど…」
冷蔵庫のドアを開けると、そこにはほぼ中身は入っていない。しかし封の空いた食べかけの食パンやボロボロのペットボトルが入っていた。
さんご「少し入ってる、ねー。でも、パンはカチカチだし、美味しくなさそう、かな」
姫「それはそうでしょ。美味しくないとかじゃなくて、これ」
鈴莉「……?期限ですか?切れていますね、1ヶ月前に…」
さんご「食べるのは、危ないよー。お腹痛くなっちゃうし。それで、どうしたの?」
姫「……おかしいでしょ。長年使われていない家の冷蔵庫に、まだ切れて1ヶ月のパンがあるの」
さんご「あ。…たしかに、そうかも」
鈴莉「それって…」
じわり。嫌な予感に汗を滲ませ、息を飲む。恐る恐る恐ろしい想像を口にしようとしたところで、それは訪れた。
????「「わああああああああ!!!」」
鈴莉「きゃあああああああああ!?!?!?」
さんご「わ。びっくりしたー」
姫「もう、何してんの2人とも…。ご主人様は…ともかく、小鳥遊さんまで」
慈「ごめんね、主人命令で断りきれなくて」
珠紀「えー?全部僕のせいみたいじゃない。懐中電灯は君の提案だろう?」
鈴莉「え、そうだったんですか……?」
慈「どうせ驚かせるならちゃんとしたくてさ。それで、3人は何を話していたの?」
鈴莉「その……冷蔵庫に、パンが入っていて……」
珠紀「パン?それって…」
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穹斗「うわ、カーテンボロボロ…。ここ、お化け屋敷として使えば結構流行りそうですよね」
マハロ「確かにそうだなァ。ご主人様に提案したら実現してくれるんじゃないか?」
穹斗「嫌ですよ、絶対お化け役とかに駆り出されそうですし…」
蛍「お化け役か、それもそれで楽しそうだけどな!」
律「1階もボロボロでしたが、やはり2階はそれ以上ですね。油断すると怪我をしてしまいそうです」
穹斗「ホコリも1階以上ですねー…。床が白くなってますし」
マハロ「だな。まァ幽霊屋敷というくらいだ、このくらいはおかしくないさ」
律「…あの、ここってそれ程までに有名なのですか?すみません、噂に疎くて…」
マハロ「ああ、そうだな。定食のお客さんの間じゃよく話されてたねぇ。中には人魂が出たって話もあるらしい」
蛍「いわく付きって話も聞いたことあるな。なんでも呪われた一族が暮らしていて怪しい儀式をしていたとかなんとか…」
律「怪しい儀式…ですか。到底信じられませんね…」
マハロ「ん?私が聞いた話じゃ孤独な老婆が人々を呪い、その呪いによって身を滅ぼしたってことらしいけどなァ」
穹斗「つまり根も葉もない噂ってわけですねー。大体はそんなものでしょう」
律「そういうことですね…。非現実的ですし、第一そのような物件を苧環財閥が所持していることも有り得ませんから」
蛍「まあ、こんな噂話の耐えない屋敷に入る機会なんてそうないから、色々部屋を見てみたいよな!さっきの部屋なんか部屋の中に風呂があったし、やっぱり元はいい家だったんだろうな」
マハロ「そうだなァ。どれだけ立派でも愛情かけて大事に手入れしてやらなきゃこうなってしまうんだ。そう思うと少し悲しいもんだな」
穹斗「まあ、時の流れってことですよねー。幽霊屋敷になる前に、どうにかできればよかったんですけどね」
律「…今、こうして私たちが片付けることに意味があるのなら、嬉しいですね」
少ししんみりとした空気の中、先程までより丁寧に掃除を開始する。窓の外は曇天が更に深まり、そのうち雷の音が聞こえだした。
穹斗「……雨、降り出しましたねー……」
蛍「朝から天気怪しかったからな。雷まで聞こえてくるし、早めに切り上げた方がいいんじゃないか?」
律「そうですね。………?」
マハロ「どうしたんだ?」
律「ここ……。足跡があります」
マハロ「足跡…?それは妙な話だな。まだ誰もそっちには行ってないだろう」
蛍「……いや、待て。…なんか妙な音もしないか?」
穹斗「……嫌な予感がしますねー…。ご主人様に報告してきます?」
律「そうですね。行きましょう」
4人は顔を見合せ頷き合う。幽霊かはたまた何か。雷鳴と共に訪れた不吉な予感は、彼らを急き立てるように近づいていた。
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丹恋「よいしょっと!あ、ちーくんおかえり!新聞、どうだった?」
慈「使っても大丈夫だって。……ところで、何してるの?玲央さん、泣いているみたいだけど…」
玲央「あ、小鳥遊さま…!申し訳ありませんっ、これは、私が、私が悪いのです…!」
エマ「もういいっつってンだろ…」
丹恋「えへへ〜…さっきからこんな調子なんだよね〜…」
慈「そういえばエマーソンさん、すごく埃被ってるような…」
玲央「私が…悪いのです……!!」
丹恋「れおくん、はり切って屋根のほこり落としてたんだけどね〜。たまたま様子みにきたエマくんにかぶっちゃったんだぁ」
エマ「気にすんなって言ってンだけどよォ、この調子なんだよ」
慈「なるほど…」
丹恋「うーんうーん…。あ!それなら、れおくんがエマくんの服を洗ってあげたらいいんじゃないかな?」
エマ「あ?ンでそんなこと…」
玲央「よろしいのですか…!私、誠心誠意を持ってお洗濯させていただきます…!」
エマ「はぁ…。ったく、断れねェじゃねーか…」
丹恋「ところでちーくん、戻ってくるの遅かったけど、何かあったの?」
慈「ああ、うん。ご主人様の遊びに手伝いを…」
エマ「あァ?アイツまた何かやってンのか!?」
慈「まあ、ちょっとね…。少し気になったけど、彼女は前からこうなのかな?」
エマ「あァ、俺が来た時から変わんねェよ。あんなこと続けても人が離れるだけだってンのに、聞きやしねェ。お陰で使用人が定着しねェんだよ。ただでさえ敵を作りがちな立場だってのにな」
丹恋「ふふ、エマくんしんぱいしてるんだね〜?」
エマ「は?違ェよ。フォローさせられるこっちが迷惑だってンだ!」
慈「ふふ、そういうことにしておこうか」
エマ「チッ……。どうでもいいけどなァ、仕事しろ仕事!」
丹恋「はーい!ふーんふふふん♪」
慈「新聞を廊下の方にも届けてくるね。ご主人様がご所望のようだから」
丹恋「そっか!新聞せんぽー、ろうかでも使うんだね!」
慈「うん。あとは暇つぶしに読みたいみたい。紙媒体は珍しいからね」
丹恋「すごーい!漢字ばっかりでむずかしいのに!」
エマ「自由だな…まァ大人しくしている分にはいいか」
丹恋「いってらっしゃーい!」
玲央「いってらっしゃいませ。私は奥の方を掃除してまいりますね、……む」
丹恋「れおくん、どうしたの?」
玲央「……ここ、窓開いていましたか?」
慈「ん?」
丹恋「あれ?このままじゃ雨、ふきこんできちゃうね!…うーん、もともとは閉まっていたと思うんだけどなあ…」
玲央「そうですよね…」
エマ「……嫌な予感するな…オイお前ら、箒を構えろ。いざという時の対処はこの間教えただろ」
丹恋「……!早速じっせんだね…!」
玲央「はい、まずは周辺警戒ですね…」
そろりそろりと足音を殺して、屋敷の奥へと進んでいく。ふと、開いた扉の奥。そこには何やら人影がいる
エマ「やれ!」
丹恋「はいはーい!」
玲央「玲央、参ります!」
箒を構えたところで人影は動き、勢いよく押しのけて走ってゆく。影はロビーを越え、主人がいるであろう廊下へと突き進んでいった。
エマ「追え!獲物は絶対逃がすな!」
玲央「お任せ下さい……!」
姫「え、何事?ちょっ…なに?」
丹恋「ふしんしゃだよ〜!ご主人様があぶない…!」
姫「な……」
エマ「絶対させねェ。アイツは絶対俺が………ッ!」
箒を勢いよく振りかぶった、その時。目の前の人物は、珠紀の前で、頭を下げた。
??「本当に、ありがとうございます……!」
エマ「……は?」
閑話休題。
皆が集められる中、先程の人影と、珠紀はさも普通のように話している。不審者は着古したボロボロの服にまともにシャワーも浴びていないことがうかがえるボサボサの髪、浮浪者であろう出で立ちだった。
さんご「ふむー…つまり…」
律「ご主人様はこの人たちのために屋敷を掃除しようとしていた、ということでしょうか?」
珠紀「うん、そうだね」
丹恋「えーっと…どうしてですか?」
珠紀「浮浪者が雨風を凌ぐためにここを使ってるって噂を聞いたんだ。ただここはこの通り、廃墟同然だろう?怪我になっても悪いから多少整備することにしたんだ」
エマ「ンだよそれ…」
浮浪者「珠紀様がおいでになった時はどうしようかと思いましたが…黙認どころかまさか整備までしていただけるとは思っておらず…直接感謝をお伝えしたかったのです。お陰で娘たちも育ててやることができます…!」
律「なるほど。ノブレス・オブリージュですか」
珠紀「あはー。そんなご立派なものではないけどね。いつもの僕の気まぐれだ」
エマ「……そうかよ。…だったらせめて、先に言え、珠紀。1人で行くのは無謀だろ」
珠紀「……まさか君が自分からそんなことを言うなんてね。まさか、冷蔵庫のあのパン、食べちゃったの?」
エマ「ンなわけねェだろうが!!」
マハロ「はは、足跡を見つけた時はどうしたもんかと思ったが、カラクリを知れば納得だなァ」
律「ええ。埃被って壊れていても、それでも求める人はいるのですね」
珠紀「ん?足跡?」
蛍「ああ。2階に足跡があったんですよ。てっきり幽霊かと思って焦ったけど、原因が分かってスッキリしたな!良かった良かった!」
珠紀「……?いや、2階は誰も上がっていないはずだけどな…?」
鈴莉「どういうことですか?」
珠紀「危険だから封鎖していたんだよ。彼らにも2階はやめておくよう伝えておいたんだ」
浮浪者「ええ…。その通りです。珠紀様の言いつけですから、私共も守っておりました」
穹斗「確かに、考えればおかしいですよねー…。あそこにしか足跡なかったですし」
さんご「どういう、こと?」
穹斗「足跡付くほどホコリ被ってたなら、そこに行くまでもついてなきゃおかしいって話ですよ」
律「………それならあの足跡は…」
緩んだ空気に緊張が走る。ここは幽霊屋敷だという前提を、再度思い出していた。パキッ、パキッ…。家鳴りのような2階で軋む音。
犯人は一体誰なのか。原因を究明には、まだ至っていないらしい。
雨は、まだ振り続けている。




