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【小説】宅地建物取引士  作者: 条文小説
第2章 権利関係 [2-1  意思表示]

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2-1-1 心裡留保 ~冗談の代償~

心裡留保のポイント


「心裡留保」とは簡単に言うと「冗談」の事です。法律用語で言うと「表意者が真意でないことを知りながら行った意思表示」です。


心裡留保(冗談)を相手方(聞き手)が悪意(or有過失)の場合、契約は無効で、相手方が善意無過失の場合、契約は有効になります。


「聞き手が話し手の冗談を信じてしまえば契約は有効、信じて無いのに冗談の揚げ足を取って悪い事をすれば契約は無効」はそりゃそうだろうなと思うのですが、問題は第三者が絡んだ場合です。


【善意の第三者には対抗出来ない】


第三者が現れた場合、心裡留保で無効だとしても、冗談を言った者は、善意の第三者(善意であれば無過失で無くても構いません)には無効を主張できません。

不動産会社に勤める佐藤は、仕事帰りに親友の田中と居酒屋で酒を酌み交わしていた。二人は大学時代からの付き合いで、気心が知れた仲だ。佐藤はここ数ヶ月、仕事のストレスに悩まされていた。上司からのプレッシャー、クライアントからの無理な要求、そして自身が所有する郊外の土地の管理問題――すべてが重なり、精神的に疲れ果てていた。


「もう疲れたよ。仕事も面倒だし、土地なんか持ってても仕方ないな」


 佐藤は、焼酎のグラスを揺らしながらつぶやいた。すると田中が興味深そうに顔を上げた。


「え? あの土地、まだ持ってたのか?」


「ああ。だけど正直、もう手放したい気分だよ。売るのも面倒だし……」


 佐藤は冗談半分に、軽く笑いながら言った。


「そうだ、お前にやるよ」


 田中は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑った。


「マジかよ! じゃあ、もらっちゃおうかな?」


「いいぞ、くれてやるよ」


 佐藤は酒の勢いもあり、適当に頷いた。それを見た田中は、「よし、それなら本当にありがたくもらっておくよ」と言い、二人は笑いながらグラスを交わした。


 しかし、翌日になり、田中は佐藤の言葉を本気に受け止め、不動産の名義変更手続きを進めた。そして、なんとその土地を第三者である高橋という人物に売却してしまった。


 数日後、佐藤は仕事中に田中からの電話を受けた。


「そういえば、この前の話、本当に助かったよ。お前の土地、高橋さんに売ったから、ちゃんと金も入ってきたぞ」


 佐藤は、一瞬何を言われているのか理解できなかった。


「……は? 土地を売った? お前、何言ってるんだ?」


「いや、お前がくれるって言ったからさ。俺はお前の土地を正式に譲り受けて、それを売ったんだよ」


 佐藤は愕然とした。


「ちょっと待て、あれは冗談だったんだぞ!」


「え? そうだったのか? でも、お前、確かに『くれてやる』って言っただろ?」


「言ったけど、酒の席の冗談だろ! まさか本気にするとは思わなかった!」


 焦った佐藤はすぐに弁護士に相談した。弁護士は佐藤の話を冷静に聞き、こう説明した。


「まず、田中さんがあなたの冗談を知っていた、または普通に考えれば気づくべきだった場合、この契約は無効にできます。しかし、問題は田中さんから土地を購入した高橋さんですね」


「どういうことですか?」


「高橋さんが、この契約が冗談だったと知らずに土地を買った場合、つまり善意の第三者ならば、彼の権利は保護されます。あなたは土地を取り戻せない可能性が高い」


 佐藤は顔を青ざめた。


「つまり……俺の土地はもう戻らない?」


「高橋さんが善意、つまりこの取引に問題があると知らなかった場合、そうなりますね。法律上、善意の第三者の権利を守る方が優先されるんです」


 佐藤は絶望的な気持ちになった。


「そんな……。たった一言の冗談が、こんなことになるなんて……」


 弁護士は静かに頷いた。


「法律では、意思表示が本気かどうかではなく、相手がそれをどう受け取ったかが重要です。そして、もし善意の第三者が関与している場合、さらにその立場は強くなります」


 佐藤は天を仰いだ。あの時、田中が本気にするかもしれないと少しでも考えれば、こんな事態にはならなかった。軽い気持ちで発した言葉が、自分の財産を失う結果を招いてしまったのだ。


「冗談で済むことと、済まないことがあるってことか……」


 佐藤は呆然とつぶやいた。冗談が冗談では済まなくなるとき、それはすでに取り返しのつかないことになっているのかもしれない。



---


 後日、佐藤は再び弁護士を訪れ、最後の望みを託していた。


「高橋さんに交渉する余地はないんですか?」


 弁護士は腕を組み、少し考え込んだ。


「交渉の余地はゼロではありませんが……高橋さんがすでに土地を転売していた場合、それも難しくなります。まずは現状を確認しましょう」


 弁護士とともに調査を進めると、高橋はすでに土地を別の業者に売却していたことが判明した。土地の所有権はすでに何度か移転しており、佐藤が取り戻すことはほぼ不可能だった。


 佐藤は頭を抱えた。


「こんなバカな話があるかよ……」


 怒りと後悔が入り混じった感情がこみ上げてくる。田中とは連絡を絶った。大学時代からの親友だったが、もう信頼することはできなかった。


 それから数ヶ月後、佐藤はなんとか気持ちを切り替え、新たな土地の購入を検討していた。


 ある日、彼は仕事の帰りにふと立ち寄ったカフェで、不動産に関する法律の本を手に取った。ページをめくりながら、彼は小さく苦笑した。


「結局、法律ってやつは、知っている者が強いんだな……」


 もしあのとき、もっと慎重に言葉を選んでいたら。もしあのとき、冗談がどんな影響を及ぼすか考えていたら。


 しかし、過去は変えられない。


 佐藤は本を閉じ、深く息を吸った。もう二度と、軽率な言葉で自分の財産を失うことはないと心に誓った。






心裡留保の問題


■問1

AはBに対してA所有の甲土地を「2000万円で売却する」という意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなかった。 Bは真意ではないことについて、知っている場合、当該甲土地を購入する意思表示をすれば、契約は有効となる。 (2007年問1類題)


答え:誤り


心裡留保の場合、相手方(聞き手)が悪意(or有過失)の場合、意思表示は無効となります。


■問2

AはBに対してA所有の甲土地を「2000万円で売却する」という意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなかった。 Bは真意ではないことについて、知らなかったが過失があった場合、当該甲土地を購入する意思表示をすれば、契約は有効となる。 (2007年問1類題)


答え:誤り


心裡留保の場合、相手方(聞き手)が表意者の真意を知らなかった(善意)としても、過失があれば、無効となります。


■問3

AはBに対してA所有の甲土地を「2000万円で売却する」という意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなかった。 Bは真意ではないことについて、知らなかったが重大な過失がない場合、当該甲土地を購入する意思表示をすれば、契約は有効となる。 (2007年問1類題)


答え:誤り


心裡留保の場合、相手方が表意者の真意を知らなかった(善意)としても、過失があれば、無効となります。 引っ掛け問題です。重大な過失がなくても、軽微な過失があるだけで無効です。


■問4

AはBに対してA所有の甲土地を「2000万円で売却する」という意思表示を行ったが当該意思表示はAの真意ではなかった。 Bは真意ではないことについて、善意無過失の場合、当該甲土地を購入する意思表示をすれば、契約は有効となる。 (2007年問1類題)


答え:正しい


心裡留保の場合、相手方が表意者の真意について、知らず(善意)、かつ知らなかったことに過失がない(無過失)場合、真意ではなかったとしても、その意思表示は有効となります。


■問5

AはBに対してA所有の甲地を売却したが、これはAの真意ではなかった。 その後、Bが、甲地をCに売却し、Cが当該Aの心裡留保について知らなかった場合、CはAに対して甲地の所有権を主張できる。


答え:正しい


心裡留保による無効は善意の第三者に対抗することができません。 第三者Cは心裡留保について知らないので(=善意なので)、CはAに甲地の所有権を主張できます。


■問6

AはBに対してA所有の甲地を売却したが、これはAの真意ではなかった。 その後、Bが、甲地をCに売却した場合、Cが当該Aの心裡留保について善意無過失の場合に限り、CはAに対して甲地の所有権を主張できる。


答え:誤り


心裡留保による無効は善意の第三者に対抗することができません。 したがって、第三者Cは善意でありさえすれば、Aに対抗できます。 引っ掛け問題といえば引っ掛け問題ですが心裡留保の本質です。つまり、善意「無」過失でなくても、善意「有」過失であれば、CはAに対して甲地の所有権を主張できます。 「善意無過失の場合に限り」という記述が誤りです。


■問7

AはBに対してA所有の甲地を売却したが、これはAの真意ではなかった。 その後、Bが、甲地をCに売却し、Cが当該Aの心裡留保について知らなかったが過失があった場合、AはCに対抗できる。


答え:誤り


心裡留保による無効は善意の第三者に対抗することができません。 Cは知らなかった=善意です。 つまり、Cは善意の第三者です。 したがって、Cが甲地の所有権を主張できるため、AはCに対抗できません(=AはCに所有権を主張できない)。

冗談を言った人と聞き手で(設問で言うAとB)、善意or悪意 x 過失の有or無 の4パターンを表現を変えて聞かれます。


ポイントは聞き手が善意かつ無過失の場合に限り、話し手の冗談が有効になるのですが(過失があるとダメ)、


過失があった場合…とか「重大な」過失があった場合…とか微妙な引っ掛け表現が混ざります。


また面倒なのは、善意でありさえすれば過失があっても構わない第三者(設問の言うC)の登場です。


なので、 ✕ 第三者の善意or悪意 ✕ 第三者の過失の有or無 で全部で16パターンくらいになるのかな。

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