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キズあり令嬢の結婚 〜旦那様は前世で私を殺したそうです〜  作者: 針沢ハリー


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第二十八話 魔術と魔術大国の基礎知識



 クレアは先ほど事業の代理人のロンダンから受け取った資料の中にすぐにでも目を通したいものがあったけれど、ほぼ強制と言っていいルギアとのお茶の時間を過ごしていた。


 目の前の彼は、旅の最中に起こった出来事だとか、この国で魔法に関する書物を手に入れるのがいかに困難かを一人で話していた。

 彼の話はどこまで本当かは分からないけれど、面白おかしいものだったから、クレアも時折くすりと笑ってしまう。本当にルギアは楽器を持たない吟遊詩人のようだとクレアは思った。


 彼がお茶を口に含んだため、ようやくクレアにも口を挟む隙ができた。クレアは彼に聞いて見たかったことを聞いてみることにした。

 その前提として、以前シュリアー様がお茶会の席で見せて下さった、魔法を使う時に唱えていた呪文を思い出しながら詠唱してみた。

 クレアはやはり何も起こらないことにがっかりしつつ、ルギアにどうしたらあんなことが起こせるのか聞こうと思って彼を見た。

 ルギアはとても驚いた顔をしていた。


「それは姉上に教わったの?」

「いえ、以前お茶会で素晴らしく幻想的な魔法を見せていただいた時に、シュリアー様が唱えていらしたのを聞いていたのです。

 でも何も起こらないので、私にも出来るならば、他に何をすれば良いのか教えていただきたくて」

「そう。耳で覚えたの? これは術式が必要だからね。姉上が今どんな紋様を描いているか知らないけど」

「術式を覚えれば私にも魔法が使えるということでしょうか」

「それはやってみないとね。でも魔術の基礎知識がなくては紋様を描くのも難しい。それに、それ以上の知識があれば術者次第で発動条件は変えられる。私ならこれだけで幻術を使うね」


 彼はそう言いながら指を、ただ円を描いただけのように一振りした。その瞬間に淡く光る可憐で小さな花々が降り注いだ。


「すごい……」

 クレアはそれに見惚れた。


「まあ、やろうと思えば出来るんだよ。誰にだってね。得意不得意はあるだろうけど。詠唱の音階は正確でないといけないしね。クレアは才能があるよ」

「本当ですか? お教えいただいても?」

「私は構わないけど、君にとっては問題だろうね。この国では禁じられているんだから。誰かの許可を取りつけられたら教えてあげるけど、まあ無理じゃないかな」


 クレアはこの国に生まれたことを少し残念に思った。美しい光景を出現させることが出来るのはとても素敵なことなのに。でもこの地上には、今でもそれが当たり前に使える国もある。


「ルギア様。アンダート王国のお話をお聞きするのは不快ですか?」

「別にかまわないよ。アンダートのどんなことが知りたいの?」


 クレアは、かつてはこのバイダル王国でも魔術が盛んだったと聞いてはいる。しかし、百年ほど前、クラウディア女王の後に国王となったキーラン陛下によって魔術自体が禁じられてしまった。

 でも、アンダートなどの他の国ではそうではない。


 以前、まだエリオットと結婚したばかりの頃に、彼が国中から集めたという、クラウディア女王の功績の証拠とやらを見せてもらったことがある。

 忙しい日々だったし、エリオットが屋敷にいる間に、しかも人払いをしながら読まなければならないという条件付きだったから、ほとんど目を通さずに終わってしまったけれど。

 ほんの少し読んだものの中には、女王は災害や干ばつに見舞われた地域に魔術師や物資を送り、人々を救ったと信じるに値する、細かな数字付きの報告書があった。

 しかし、一般的に習う歴史では、医療魔術は別として、その他の魔術は人のためにならないと教えられている。


「この国では、幼い頃から、かつてクラウディア女王の治世に魔術が国を荒廃させたと教えられます。ですが、エリオット様はそれを否定してらして。確かに、魔術が国の存続を危ぶませるだけのものなら、それを使う魔術師たちが重用されるとは考え辛いですものね」

「使い方次第だね。クラウディア女王から王位を奪った人間には、その自分の行動の正当性を主張する必要があったんだろう。本来ならばもう少し魔法を残しておいた方が良かったと思うよ。

 この国ではその代わりに新しい兵器の開発やらに成功したから、まあ軍事的な均衡は崩れずに済んだらしいけど」

「では、アンダートでは、そういった政治的な問題が起きなかったから、いまでも魔術が広く使われているのでしょうか」

「まあ、魔術に関してはね。政治的な問題は起きているはずだけどね。昔も今も……」


 ルギアは形のいい顎を撫でながらクレアの質問に答えた。そして、少し考えた末に、ぽつりと言った。


「アンダートの王家には、このバイダル王国で広まっているものとは違う、かつてのこの国の歴史が残っているよ」


 クレアは少し驚いた。他国から見た自分の国の歴史が残っているなんて、考えればあって当然のことかもしれないのに、これまで考えたことが無かった。

 歴史的に見ても、このバイダル王国は大陸の端の半島に位置しているため、他国との交易は海を船で渡ってくるものが多い。陸地を通る交易路がないわけではないけれど、険しい山道を越えることになるので、こちらも容易ではない。

 最近になって船の性能が上がり、ようやく人の往来が増えてきたところだ。


「かつての交流の証でしょうか。今ではアンダートとは交易すらもほとんどないようですが。遠い国ですものね」


 クレアのその言葉に、ルギアは一瞬遠い目をした。

 逃げ出さなければならなかった故国と、そんな遠い場所からこのバイダル王国へ逃れてきた時のことを思い出させてしまったのかもしれない。


 クレアは話題を変えることにした。彼に悲しい思いをさせたいわけではないから。


「そういえば、契約魔法というのは、そんなにも高度な術なのですか?」

「まあそうだね。複雑と言った方が正しいけどね。盛り込む内容が少なければ、それほど難しくはない。魔術を発動するのに必要な条件や紋様も全て紙に書いてしまうものだから基本的には詠唱も行わないし。

 ただ、エリオット卿が言うような、生まれ変わりの術だなんてものはとてつもなく複雑で、使える魔術師はそうはいない。私も出来たとしてもしたくないね。その場で結果の分からないものなんて怖くて使えないよ」

「そうですか」


 クレアは何となく話題を変えただけだったのだが、話している最中からルギアの顔つきが徐々に変わった。目つきが険しくなる。


「そうだよ。もし何かの手違いかエリオット卿の記憶に問題があって、真実、君とエリオット卿の間に契約魔法が結ばれていたのだとしても、契約魔法が同じ時に生まれ変わるだけで目的を果たして効果が消えたのなら、もう君にも何も残っていないはずなんだ。魔法の痕跡なんて一つも」


「ではやはり、私とエリオット様の間ではそう言った魔法契約などというものは結ばれていなかったと」


「契約書は消えてしまうものだ。体や魂と繋がってしまうものだから。だから確かめようがないんだよ。その契約の目的次第としか言えないね」


 ルギアはそこまで言うと、「調べ物がある」と言うや否や立ち上がって、サロンから出て行ってしまった。クレアはその後ろ姿を、声をかける間もなく、ただ見送った。



 ◆



 ルギアは部屋に戻ると、近くにあった自分のカバンを掴み、床に投げつけた。危うい真似をした自分に腹が立ったのだ。


 彼はクレアにある事実を漏らしかけた。これは姉と彼の秘密だった。この国で、その事を知るのは二人の他には姉の夫である王弟しかいない。

 それをうっかり口にしかけて、我に返って彼女に話を合わせ、そして逃げ出して来た。クレアはルギアの態度に驚いたかもしれない。


 だが、ルギアとしては、この事を秘密にしたままクレアと対するのはなかなかに辛い。彼女は悩み疲れてしまったからこの屋敷にいると聞いている。


「だから仕事は嫌なんだ」


 彼は大昔の契約魔法に対する興味に負けて、姉の頼みを引き受けたことを後悔し始めていた。人と関わるとろくなことが無い。薄い関係のまま、あちこちを渡り歩くのが彼には向いている。

 そのはずだ。


 クレアにこれ以上深入りしたくないと彼は思った。前世に囚われる執念深い夫に振り回される彼女に同情してしまいそうになるからだ。

 

 ルギアは姉との面会の約束を取り付けるため、小さく手を振って短い文言を詠唱すると、現れた光る鳥を空に放った。



つづく……

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