11月編 第7話 襲撃
「洋一くん、ダメ!」
玲衣が俺を止める。
「どうして止めるんだ。今行かないと遼子さんが……」
「それでも今はダメなの! 今洋一くんが出て行ったら遼子さん、きっと悲しむよ?」
遼子はきっと悲しむだろうけど、それでも遼子を助けたい。
その一心で玲衣の制止を振り解く。
「洋一くん!」
風子も叫ぶが、俺は行く。遼子のもとへ……。
病室を飛び出し、廊下に出ると、床にうずくまる遼子の姿があった。
「遼子さん!」
俺は遼子へ駆け寄ろうとする。
「来ちゃダメです。洋一さんは病室にいてください! 私は平気ですから……」
「お前は誰だ?」
全身黒の服にサングラスとマスクを付けた犯人は俺に拳銃を向けた。
「逃げてください!」
遼子が叫ぶ。俺も急いで病室に逃げ込もうとした。
「パンッ!」
とまた乾いた音が鳴り響く。
それと同時に左腕が焼けるように熱くなった。
撃たれた……のか?
「う、うわあぁぁぁ!」
遅れてやってきた痛みに耐えることができず、その場に座り込んでしまった。
「洋一さん!」
痛みから視界すらもぼんやりとしてくる。
玲衣たちが俺の叫び声を聞き、病室から飛び出して俺に駆け寄ろうとする姿がぼんやりと見えた。
「来るな!」
俺は必死で叫んだ。
今来たら奴に撃たれるぞ。
「動くな! 動いたら撃つぞ!」
犯人は玲衣に拳銃を向けた。
玲衣はその場で立ち尽くす。
手足は震え、目を大きく見開いて犯人をじっと見つめている。
「あ……あ……」
恐怖からか玲衣から小さな声が漏れ出ている。
「玲衣……落ち着くんだ!」
俺は左腕を押さえながら叫ぶ。
「イヤ……イヤあぁぁぁ!」
玲衣が頭を抱えてその場に座り込んでしまった。
どうしたんだ……。
「玲衣、大丈夫か!?」
反応はない。
風子が玲衣に寄り添おうとするが、動き出した直後にまた乾いた音が1発鳴り響いた。
「動くなってのが聞こえんのか!」
それでも風子は玲衣に駆け寄った。
なんて勇敢なんだ。自分の命すらも危ういのに他人を心配して動けるなんて……。
「玲衣さん、しっかりしてください!」
「イヤ……もうやめて……」
風子は玲衣の背中をさするが、平静を保てないようだ。
「どうしたんだ、玲衣!」
「……この人」
犯人を指差す。
「誰に指差してんだよ。撃たれたいか?」
再び玲衣に拳銃が向けられた。
「私の……お父さんとお母さんを……家族を壊した……」
あの強盗事件の犯人ということなのか?
「もう喋らなくていい!」
それでも玲衣は話し続ける。
「返して! 私の家族を返してよ!」
「お前のことなんて知らん。これ以上口答えしたらどうなるかわかるな? お前の首が吹っ飛ぶぞ!」
「玲衣、落ち着け!」
俺は必死で立ち上がった。
もうどうにでもなれ!
「動くなっ!」
パンッ!という音がまた鳴った。
銃弾は俺の頬を掠めた。
燃えるように熱くなるのを感じる。
痛みに負けるんじゃねぇ!
早く玲衣のところへ!
「玲衣!」
あと一歩のところでまた銃弾が放たれた。
今度は右足を掠める。
体の至る所が熱い。
俺はその場に倒れ込んでしまった。
あと少しだったというのに……。
俺は必死で手を伸ばす。
「玲衣……手を!」
今の玲衣にそんな力はなかった。
「う、うぅ……」
「洋一くん!」
そんな時、風子が助けてくれた。
玲衣の手を取り、俺の手と繋いでくれた。
玲衣の手に触れた時、玲衣の体が少しピクッと動いた。
「玲衣……落ち着くんだ」
意識が朦朧とする中、俺は玲衣の手を強く握りしめる。
玲衣の目からは自然と涙がこぼれ落ちていた。
「洋一……くん」
辛かったよな。もう二度と会いたくない人に会ってしまったんだから……。
「大丈夫だ……俺は……ここに──」
「ありがとう、洋一くん……」
「俺がいるから……安心しろ……」
「もういいよ。何も話さないで」
口からは赤いものが吐き出される。
左腕、右足の感覚が少しずつ失われていくのがわかった。
犯人は俺たちの様子を笑いながら見ていた。
「感動するものを見せてもらったよ。いい絆だな。でもな、俺たちはそれを壊すのが大好きなんだよっ!」
犯人は俺たちに拳銃を向け、引き金を引いた。
もうダメだ。
「カチッ」
今までとは違う軽い音。
「チッ! 弾切れかよ!」
犯人はマガジンの入れ替えを始める。
今度こそ終わりだ。俺たちは一歩も動けない。
その時、犯人の仲間と思われる一人の男が近づいた。
男が犯人に耳打ちをする。
「こいつ……治験者です」
「ん?こいつがが?」
「そうですよ。ですから──」
「なるほど、今殺したらマズいな」
「なので今は人質に取るのが一番いいです!!」
犯人は頷く。
俺には奴らが何を言っていたのかはわからない。
だが、確実に俺を狙っているのは確かだ。
「そうだな。今はそうするか」
そしてまた俺たちに拳銃を向けた。
「お前ら全員人質だ! お前らの病室に案内しろ」
今は応じるしかない。
「そ、その前に治療だけ……」
遼子は俺の傷を見て犯人に提案した。
「そうだな。止血くらいはしてこい」
「は、はい」
すると遼子は立ち上がってナースステーションへ駆け込み、包帯などの応急救護キットを持ってきた。
「幸い弾は貫通しています。少しだけ痛いけど我慢してください」
腕に包帯が巻かれるたびに傷口が疼く。
「は、はい」
一連の処置が終わったところで、遼子に介抱してもらい、俺たちの病室に犯人を案内した。
「今からは俺がここの長だ。言うことは全て聞いてもらう」
「わ、わかりました」
「洋一くん、これでいいの?」
「今は聞くしかない」
玲衣も風子も不安そうにしているが、今はそうするしかないと納得してくれた。
そして、これが地獄の立てこもり事件の始まりだった。




