『十傑』
現在の時刻は、18:00。
今日の授業も無事終了し、俺たちは帰宅の真っ最中だった。
昼休みの件で疲労感MAXだったこともあって、午後の授業は何をやっていたんだかほとんど覚えていない。
・・・・・まぁ、つまり寝てただけなんだけど。
「ってか、お前の妹ちゃん相変わらずこえーのな」
欠伸を噛み殺しつつ歩く俺に右隣から忠が話しかけてくるが、何てこと言いやがる。
「・・・別にそんなことないと思うけど、帰ったらお前がそう言ってたと伝えておくよ」
「ちょちょちょ、待った、ウェイト、ストップ!俺の株が下がるから言わないでくれ!」
愛沙の中では、忠の株などとっくにストップ安で最安値を記録しているだろう。というか、市場に上場されているのかどうかも怪しい。別に今更、改めて心配するようなことは何もないと思うが。
「確か『十傑』の1人なんだよね、妹さん?しかも『聖女』PTのサブリーダーだし、すごいなぁ」
そう言うのは、左隣にいる理々。
・・・・・何でこいつらは、いつも俺を挟むようにして歩くのだろうか。
『十傑』というのは桜印学園の生徒ランキングベストテンのようなものだ。当然、実力の。
純粋に特殊能力のみで言われるわけだが、通常それぞれの能力には質とか相性があるので本来は一概に優劣の評価ができるものではない。
しかし、『十傑』はそんな一般論など簡単にぶっ飛ばしてしまうほど格が違いすぎた。
そもそも学園には俺たち1年生だけではなくて2、3年生がいるわけだし、ついでに言えば国の総力をあげて創設された桜印学園は高等部だけではなく幼年部から初等部、中等部、さらには大学、そして院までが併設され、膨大な数の学生が在籍している。
『十傑』とは、そのすべての中でのベストテンということだ―――――我が妹ながら、空恐ろしい。兄の威厳も何もないが、できる限り愛沙には逆らわん方がいいだろうと再度心に誓う。
余談だが初等部や中等部にも『十傑』がいるのだから、はっきり言って俺たちの立場など無いに等しい。
さらには戦闘時に結成されるPT。その中でも『高等部の聖女PT』は別格で、リーダーが姫、サブリーダーが愛沙。前衛には確か生徒会の副会長様がいたはずだ。PTは5、6人で編成されることが一般的なので、『聖女』PTは3人が固定で残りが流動的メンバーという形になる。
PTの結成は学年の枠を超えて行われるから、残りの椅子を巡っての争奪戦は毎回激しく、常に熾烈なものになるらしい。少なくとも定期考査で良い成績を取るためだけに参加できるほど、甘いものではなかった。
「今でもそうだけど・・・討伐に成功したらさぞ鼻が高いだろうな、義兄さん」
「誰が義兄さんだ、ボケ」
「俺はお隣さんでも構わないぞ?」
「・・・・・姫と愛沙にはよく伝えておくよ」
何を勘違いしたのか上機嫌になった忠は口笛なんかを吹いていた。
間違いなく、この平和な夕暮れ時に気軽に死刑執行書にサインしたことに気付いてないのだろう。脚色を一切抜きにして二人に伝えたとしても、多分明日は今日の夕焼けよりも真っ赤な雨が降ることは疑いない。その発生源が忠なのか俺なのかは別として。
「あれ・・・?ね、二人とも。あれ何だろう?」
主に自分の身の安全のために記憶を消去していた俺は、理々の声でそちらに注意を向ける。
俺たちの進行方向である駅に続く大通りに、遠目からでもそれと分かる人だかりができていた。
「・・・・・凱パレじゃね?」
「え?今日、迷宮に行ったPTあったっけ?」
「さぁ・・・?高等部の3年以上になると、曜日関係なしに迷宮に行くからな」
魔王が自身を討伐するように人類に強制してから、世界各地に『迷宮』が生まれた。
実のところは魔王や各地を預かる魔王の腹心たちの居所なのだが、そこへ到着するためにはより面白くするために作られた、入り組んだ道中を進んでいかなければならない。
テーマパークにあるような巨大迷路と言えば想像がしやすいだろうか。様々な罠や化け物が存在するそこを抜けていかなければ、魔王や腹心と闘うことすらできないのだ。
俺たち桜印学園の生徒は定期考査として、毎週末にこの迷宮に侵入して一定の区間を踏破することを義務付けられている。
もちろん実力に劣る俺たちは訓練のために準備された、命の危険まではない安心安全設計の訓練迷宮なのだが、実力上位のエリートクラスの連中などはこの本物の迷宮に行かなければならない。
高等部の2年生までは一週間に1回しか迷宮に入ることを許されないが、3年生以上になればその制限が解除され、『自己責任』のお題目のもとに、授業のある曜日でも迷宮を優先させることができるというわけだ。・・・特例で姫や愛沙も認められているはずだが。
訓練ではなく、命懸けの迷宮。
だからこそ生還すればその功績を称えられ、その際に『凱旋パレード』を行うことが許可されていた。
「んー・・・また生徒会長じゃねーの?」
ちなみにウチの生徒会長こそ、『勇者』、正式には『勇敢なる軍神』の称号能力を持つエリート様だ。インチキくさい特殊能力を最大限に活用して無茶ばっかりするので、俺は好きではなかった。
「だったら尚のこと関わりたくない。さっさと帰ろう・・・ん?」
脇道に迂回して駅へと向かおうとした、その時。パレードの先頭が持つ旗が俺の視界に入る。
真紅に染め抜かれた下地の上下左右に、地水火風を現すそれぞれの色彩の宝玉を模した刺繍。
中央には左右の手に光と闇を現す白と黒の宝玉を持つ、竜の姿が縫い込まれている軍旗。
この世界でたった一人しか持つことを許されない、それを掲げるその集団は―――――
「凱パレじゃない、謁見パレードだ!!!」
かつての救い主にして、今は人類を滅亡の危機に追いやろうとしている人物。
不定期に行われる、魔王の謁見のための行進だった。
正確には『桜印学園十傑』です。
大学院に1人。
大学部に1人。
高等部に5人。
中等部に2人。
初等部に1人。
幼年部に0人。
以上の分布になっております。




