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あやかしあやし  作者: 武者小路 きんぎょ
1章:昼食時の、地獄絵図
10/12

ノンフィクションドキュメンタリー?

「・・・・・さい」


面倒なことには関わらない方が身のためだ。

そう思ってその場を逃げるように立ち去ろうとする俺の耳に、姫が小さく呟くような声が届く。


「え?」

「止めて、ください。そんな風に言わないでください・・・」


微かに震える声に驚いて振り向くと、先ほどの狂信者に向かって姫が涙を流して言葉を絞り出していた。


「せ、『聖女』様!?」

「私は・・・・・私は『天河姫』です。確かにみなさんよりちょっと大きな力を持っているかもしれませんが―――――みなさんと同じ、人間、なん、です・・・・・」


最後の方は嗚咽と重なって上手く喋れていなかったが、切実な訴えだった。

俺の死刑前提の即決裁判が今にも開催されそうだった食堂内は、一気に静まり返る。

てか、みんなは(当然)知らないだろうけど、姫は意外と泣き虫だからな・・・


『聖女』として期待され、尊敬され、崇拝されている少女の本心。

それは誰もが分かっているはずなのに、分かっていないふりをしていたことだ。


きっと姫を変に特別扱いしない人間は、そうそういない。

姫がやたらと俺や愛沙の兄妹と一緒にいようとするのは、俺たちがその数少ない人間だからだろう。


俺は昔からの付き合いがあるから。

愛沙はそれに加えて、近しいほどの大きな力があるから。

変わってしまったことは多々あるが姫が凄いのは今も昔も変わらないし、愛沙だって俺や他の一般的な人間から見れば相当に凄い部類に入る。

そこに『特殊能力』が加わったところで、俺たちの態度だけは変わらない。「ああ、またスペックが上がった」くらいなものだ。


「・・・・・うっ・・・・うぅ」


必死に嗚咽を堪えようとしつつも、抑えきれずに漏れ出す声が静まり返った空間に響く。

そんな痛ましい様子の姫を、一体誰が慰められるだろうか。

取り巻き連中には決してできないだろう。その変な祭り上げで傷ついているんだから。

・・・が、逆もまた然りなのだ。


「お兄ちゃん、出番よ」

「俺に振るなよ・・・毎度毎度。しかもこの状況で」


静寂を破ったのは、他でもない愛沙だった。


姫が泣き出す。

俺が慰める。

いつものパターンと言えばパターンだけど、この状況で普段と同じ対応をすると俺の致死レベルがまた跳ね上がる気がするんだが。


すると、さすがは優秀な妹君。それを察して優秀な指揮官コマンダーへと一瞬で表情を変える。


「【12:53(ヒトフタゴーサン)。現時刻をもって、全員に食堂内からの即時撤収を命じる。本命令は10秒以内に完遂をするこを絶対条件とする。以上】」

「・・・・・」

「・・・・・」

「【返事はどうしたか!!!】」

『い・・・了解しました指揮官殿(イエス・コマンダー)!!!!!』


見事なまでに統率された集団と化した食堂内の学生たちは、愛沙コマンダーの命令に従うべく、我先にと食堂から撤収を開始した。


変幻自在の銃使い(トリックスター)』の発動効果の一つ、『統率指揮』だ。

銃を扱う『職業』であり、後方に位置するために戦況をつぶさに観察できることから『トリックスター』は指揮官としての能力も持ち合わせている。

能力上位の者には効果が薄いらしいが、能力下位の者にはかなりの効果があるとのことで結果はご覧の通りだ。あっという間に食堂内には人っ子一人いやしない。

・・・・・調理員のおばちゃんまでいなくなるのはどうかと思うが。


普通に考えれば俺も一緒になって出ていくはずなのだが、なぜか俺には効果がないらしい。

多分あれだな、兄としての立場補正が入っているせいだ。


「完遂まで11.02秒・・・遅いわね」


じゅうぶん速いと思うぞ、愛沙コマンダー


「後で訓練が必要だわ。はい、お兄ちゃん。気兼ねなくどうぞ」

「『どうぞ』って、何て無責任な・・・・・」

「【いいから、さっさと泣き止ませる!!】」


だから、『統率指揮』は効かないって。


おそらくは愛沙の命令で食堂から出ていっただけではなく、相当な距離を離れたことだろう。

別に誰に見られるわけでもないのに『自宅ではない』という状況だけで、いつもやっていることがとんでもなく大それたことのように錯覚して、緊張する。

無意識に俺の手は握りしめられ、変な汗が背中を流れ落ちる。

呼吸が苦しくなる。

そして意を決した俺は手を開き、そこにもあった汗を制服のズボンで拭い、ゆっくりと手を振り上げ、泣きじゃくる姫の頭を―――――


「よしよし」


―――――撫でてやった。


「ひっく、ひっく・・・・優哉ぁ・・・・」

「うんうん、大丈夫。周りがどう言おうと、俺も、愛沙も、何も変わらないから」

「・・・・・逃げようとしたくせに・・・・」

「いや、あれはだな、その、何だ。高度な判断を要求された上での誤った戦略的撤退で、本官も大変遺憾に思っている所存でありまして、鋭意努力の上善処したいと」

「・・・『ぎゅっ』てしてくれたら、許してあげる」

「それはマズいだろ!?」

「姫ちゃん?『3.17~天河家第二庭園での淑女協定~』を忘れたわけじゃないよね?」


痛いところを突かれて窮地に追い込まれていた俺を救ったのは、誰かに見られるわけでもないこの状況をガン見していた愛妹だった。

しかし、意味が分からないのは。


「何だ、そのノンフィクションドキュメンタリーのタイトルみたいなのは!?」

特例条項第8条3項ひとつだけおねがいきいての適用は?」

「二万歩譲って適用になったとしても、緊急追加条項第2条おにいちゃんはわたしがまもるの権利を行使するわ」


俺には全く異次元のこの会話は、昼休みの終了を告げるチャイムの音が鳴り響いた後も延々と続くのであった・・・・・

会話部について説明を。


「」は通常会話。『』は遠くで、または複数でされている会話(物語の用語もこれです)。【】は特殊能力に関するもの、となっています。


相変わらず勢いで思いついた『3.17~天河家第二庭園での淑女協定~』ですが、今後も出ます。割とマジで。

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