3-2話 面接をするのです!
「あ、所長。何しに来たんですか?」
「こうなることを予想していたから援護にきた」
川谷は物凄いどや顔で言い放った。
「余計にややこしくなりそうなんですけど・・・・・・暇だったんです・・・・・・か」
「なんだと?」
川谷がギロリと野入を睨むがバッと視線をそらされる。
「だってさ。やっぱりおれの目は間違っていなかった。おれたちにふさわしいって」
「冗ぉ談じゃねえよ! こんなクソガキがふさわしいってか? オレたちはそいつみたいなガキじゃねえよ。そいつに何ができるって言う……」
葉尾が言い終わる前に川谷は動いた。常軌を逸する速さで、葉尾との間合いを詰め、腰に下げていた刀を引抜き葉尾に振るう。
葉尾はかろうじて、川谷の刀を受け止めるが、刃先が頬に触れ血が垂れる。女の力とは思えない強さで押され、葉尾の体勢が少し崩れる。
「何すんだこのクソアマ」
「すまない。うちの社員を侮辱されてついカッとなってしまった。許してくれ。猫田。お前の契約者の傷を治してやれ」
川谷は刀から力を抜き、葉尾から数步離れる。そして、何事もなかったかのように刀を払い鞘にしまった。
「お仕事をするのです。二ャーゴ」
葉尾に両手を向けて、猫田は葉尾にこちらを向くように催促する。葉尾はそっぽを向こうとするが、その前に勝手に傷が塞がってしまう。どうやら謎の言葉が呪文だったらしい。葉尾は傷口に触れる。出血した血が手に付くが、傷は完全に塞がっていた。
「猫田は魔術師だが、かすり傷程度なら治せる。すごいだろ」
「っち。客にいきなり斬りかかってくるとか、正気じゃねえぜあのアマ」
「しょちょーは、常に狂っていると、のいりが言ってるのです。寛大な心で、許してやるのです」
再び睨まれる野入。
「なんでそんなことを言うんですか猫田さん」
野入が悲鳴のような声をあげる。
「テメェは何様なんだよ!」
葉尾は川谷に吠えた。
「貴君は何か勘違いしているようだな」
「ああ?」
「貴君らは客であり、客ではない。いくら雇われの魔術師であれど、契約を結んだ以上、諸君らとは対等な立場にある。まあ、私の場合貴君らにとっては只の通りすがりの女騎士でしかない。だが、猫田は違う。共に命と戦場をかける仲間になるんだ」
「猫田にはしょちょーの言っている意味がわからないのです」
「ふっ。物分りの悪い餓鬼だな」
「てめえも侮辱してんじゃねえか。さっきの台詞はどこ行った」
葉尾でさえも絶句してそれ以上言葉が出なかった。
「てか、あんた誰なんすか?」
と、黒井。
「そ、そうよ。いきなり攻撃してくるなんて不躾じゃないかしら。まずは名乗りなさいよ」
「私か? ああ、申し遅れていたな。私は川谷冒険者派遣事務所の所長、川谷だ」
「川谷……ああ、やっぱそうだったんすね」
黒井がすっとんきょうな声を上げる。
「だからなんなんだよ?」
「川谷っていったら、この国に数えるほどしかいないS級冒険者だった気がする」
「へ? この人S級冒険者なの? 確かに話し方は威厳ありそうに見えるけど、なんで黒井が知ってるの?」
「だった気がするって曖昧すぎだろ。絶対違・・・・・・」
「いかにも!! 私は貴君の言う通りS級聖騎士である。決してドS級騎士ではないぞ」
「それ言いたかっただけだろ」
葉尾が突っ込む。
「猫田にはしょちょーの言っていることが理解できないのです」
「おれも理解に苦しむ。けど、すっげぇ。おれ初めてS級のひと見た。握手してください」
「先ほどチキンを食べたギトギトの手で良ければいいぞ」
「ああ、それは嫌だ」
黒井は差し出した手を引っ込めた。
「正直だな、少年。さてと、冗談は置いといてだな、諸君らは今から数日猫田を仲間として受け入れる覚悟はあるか?」
川谷は一通り黒井たちを見渡す。
「といっても、出会って五秒でお友達というのも無理な話なのは私も承知の上だ。だが、仲間であることを忘れるな。これだけは守って欲しい。猫田の実力ならこの私の首をかけて保証しよう。諸君らの実力にそぐうはずだ。それでもこやつが信用できないなら、契約を破棄すればいい。今すぐにな」
「…………」
「そんなに自分の魔術師が大事なら、あんたが来てくれてもいいんだぜ」
「自惚れるな。貴君が私を雇えるようになるに、最短でもあと十年はかかる」
「はっ、言ってくれる。自惚れてんのは自分かもしれねぇのにな」
葉尾が川谷に聞こえないくらいの声で呟いた。その口が微かに歪んでいるのを野入は見た。
「いいっすよー。全然」
「黒井本気なの? 代表がいきなり斬り掛かってくるような人だよ?」
「しょちょーのせーで猫田まで疑われているのです」
川谷は猫田の言葉に片眉をピクリと動かした。
「大丈夫だろー。猫田はいい奴そうだし、川谷さんは一応凄い人なんだから」
「一応じゃないぞ。とても凄い、だぞ」と川谷は呟く。
「黒井がそこまで言うなら、良いけど」
「……俺は最初から……異論はない……」
「はあ!? はあ!? お前らどうかしてるぜ! あの川谷って奴に影響されてお前らまでおかしくなっちまったのか」
黒井は黙って葉尾を見つめる。葉尾は何も言い返さずただ奥歯をぎりぃと噛み締めた。
「……わぁったよ。後悔すればいいさ」
「……話は十分か。……なら、もう行こう……」
スズが待ちくたびれたように呟いた。スズ自身はもとより猫田を受け入れることに抵抗はなかったのだ。
「そだな。川谷さん。お子さんは大事にしますんで安心してください。じゃあ、行くぞお前ら」
黒井は爽やかに言い放つと立ち上がり、事務所の外へ駆けていった。
「誰が、おかんだ! 殺すぞ糞餓鬼!!」
黒井の背中に川谷が投げかける。
「落ち着いてください、所長。では、いってらっしゃいませ。健闘を祈っております」
ぺこりと野入が一行に頭を下げた。
◇
「しっかし、さっきの餓鬼たちどっかで見たことがあったような、なかったような」
黒井パーティーが出発して数刻経った頃。契約書をパタパタさせながら川谷が呟く。
「どうしたんですか」
「のいりん。さっきのガキんちょ見覚えないか?」
「目つきの悪い方ですか? 見覚えないですよ」
「違う。ぼーっとした顔のほうの奴だ」
「知らないですね」
「そうか。ああモヤモヤする」
「ところで所長はさっき何しに下へ行ってたんですか」
「ああ。猫田が勇者に選ばれたっていう通達がうちに来ているはずだったから、それを確認しに下へ」
「あったんですか?」
「いいや」
「おかしいですね。そんな重要な文書を送り損じるわけがないのに」
「そうだな。その代わりにこのチラシが・・・・・・って、ん?」
「はい?」
「のいりん。こいつって、あいつか」
「私の記憶違いでなければ、これはさっきの黒井さんですね」
『……』
二人の間に重い沈黙が流れた。
「猫田、連れ戻したほうがいいか?」




