3-1話 面接をするのです!
「お客さんが要求しているのは魔術師で、ランクは気にしないそうです。所要時間は四日くらいだそうですが・・・・・・初めてのお客さんですし。予約なしですか」
どうします? と、言いたげに川谷を見上げる野入。初めての客というのは素性がわからない分、危険が伴うのだ。悪徳な客であれば、派遣社員に暴力を振るったり、人目のないところに連れ込んで、奴隷商人に売り飛ばそうとする可能性がある。そのため、初めての客はたいていそこそこ力がある冒険者を派遣するのだが、今日暇な魔術師は猫田しかいない。
「おい、お前行ってこい」
「えーなのです」
猫田は明らかに不満のある声を出す。
「いいんですか、猫田さんで」
野入は確認の意味でそう言った。野入は正直なところ猫田がどのレベルのクエストに行っても構わないと思っている。
「良い良い。こいつが傷ついたところで私の心は痛まないからな」
「しょちょーなんか犬の糞を踏んで鳥にフンを落とされればいいのです」
「ああ、それはこの間のあたしですね・・・・・・本当に災難でした・・・・・・はは」
「本当か、のいりん。すさまじい悪運の持ち主じゃないか。なかなか探してもそんな奴いないぞ」
「これ以上、傷をえぐらないでいただけますか」
「しょちょーも同じ目に遭えばいいのです」
「まあまあ、冷静になれよ猫田。頭のいかれた奴等だったら逃げてくればいいだけのはなし。お前は逃げ足だけは早いだろう。それに魔王退治に行かないんだから普段どおり働け」
「……しぶしぶ了解なのです。労働弱者の猫田は断れないのです」
「がんばってください猫田さん。茂林はいつでも応援してますよ」
「そこそこ頑張るのです」
◇
「何だ? このクソガキ」
一階の応接間に下りてきた猫田に最初に浴びせられた言葉だった。そこにいたのは三人の男と女一人のパーティーだった。年齢は平均して茂林と同じくらい。一人はなぜか小麦用の麻袋を被っていて顔を認識できない。あとは睫毛の長いくせ毛の少年と目付きの悪い短髪の少年。黒髪の少女は神官らしい装いをしている。
目付きの悪い少年が猫田を睨みつけている。
「くそがきではないのです」
猫田は感情の感じられない平坦な口調で応えた。抑揚のないその口調は子供のものとは思えないほどで、まるで操り人形がしゃべっているかのようだった。
「あ?」
少年が猫田を睨み付ける。脅すような言い方である。
「猫田なのです」
しかし、猫田は調子を変えることもなく平坦な口調で答える。それがさらに少年を刺激してしまったのか、少年が眉間にシワを寄せる。
「何言ってんだテメェ」
「猫田の名前は猫田なのです」
「あのー申し訳ないんですが」
野入がらちが明かないと思ったのか、おずおずと、割って入る。
「今回ご紹介する魔術師はこの猫田なんです・・・・・・」
「はああ? ふざけんじゃねえよ。こいつクソガキじゃねえか。他にいないのかここの事務所には」
少年は怒りを爆発させて叫ぶ。子供を派遣されてバカにされていると感じたようだ。野入は少年の剣幕に押されて黙り込んでしまった。半泣きである。
「落ち着いて葉尾。お嬢ちゃんいくつ?」
「たぶん十二なのです」
「十二か・・・・・・もっと幼く見えるけど」
少女は手で額を覆った。完全に参っているらしい。
彼ら自身も駆け出しEランク冒険者ではあるが、子供である猫田を仲間にするのはさすがに抵抗があるらしく、戸惑いを隠せていないようだった。
「この子冒険者ランクついているんですか?」
「あ」
不意を突かれたように野入が絶句する。その質問に対する答えを用意していなかったのをあけすけにしてしまっている。
「猫田はZランクなのです」
「んなもん聞いたことねえよ! 嘘つくなよガキ」
「でも猫田はZランクなのです。そう所長が言っているのです」
「どういうことなんです?」
少女が野入に質問する。
「そ、そういうことなんです」
野入は冷や汗をかきながら言葉を絞り出す。焦りすぎて声が震えている。
「野入は受付孃に向いていないのです」
野入は青ざめた顔をして、半泣きになる。
「お力添えができず申し訳ないです、猫田さん。あたしもそれは自覚しているところなんですが」
「なら、もっと精進するのです」
「はいぃ」
「なんの話をしてんだお前らは!」
少年が堪忍袋の緒が切れたように叫んだ。
「こいつが仲間になる魔術師か。よろしく」
さっきの流れが全くなかったようにまつげの長い目のぱっちりした少年が猫田に話しかける。
「ちょっと待って黒井。あんた物分かりがよすぎるわよ」
「そうだぞ。こんなガキを寄越してくるとか、ふざけてるだろ。ガキを仕事に連れてけってか? 俺たちは保育施設の引率者じゃねえんだよ」
「猫田はふざけてなどいないのです。真面目に仕事するのです」
「ふざけてるかどうかはまだわからないだろ。こいつも真面目にやるって」
「お前もそう思うかよ、スズ?」
小麦用の麻袋を被った人がボソボソと答える。
「…………一概には言えないが、子供の冒険者など山ほどいる。それが、必ずしも劣っているとは限らない。力のない子供でも魔力が大きければ、役に立つ……」
「はっ! スズまで賛成派かよ。そもそもな。なんで土鍋かぶってんだよ! その時点でうさんくせぇわ」
その言葉を聞いた野入は『あんたたちの仲間にも麻袋かぶってる人いるじゃん』と思った。
「確かにそうだわ。土鍋かぶっている冒険者なんて聞いたことないわ」
「言われて見れば土鍋かぶってるな。気にならなかった」
「気にならないわけないだろ!」
「いや、最新のファッションなのかと思って」
「頭んなかタンポポ畑かよ。スズはいいのかこんなやつ」
「……たとえ、奇抜なファッションをしていたとしても……それが戦闘力に関係するとは限らない……」
と、麻袋を被ったスズが言う。
「てめぇ、さっきから適当なこと言ってんだろ。とにかくオレはこんな胡散臭いガキは認められねぇからな」
「そこの子供は私が諸君らに相応しいと思って派遣した魔術師だ。何か文句があるのか?」




