2-2話 結果発表なのです!
(とはいえ、猫田に喋らせるのもいささか問題があるか)
「とりあえず、私が祭司と話してみる」
「よろしくです」
川谷が折れたと分かるとすぐに調子がよくなる猫田に川谷は軽い殺意を覚える。
「なあ、しげぴー。この餓鬼殴ってもいいか」
「ダメに決まってるじゃないですか」
「だな。はあ。深呼吸」
「深呼吸というよりため息なのです」
「お前のせいだが! ったく調子に乗りおって。逃げるんじゃないぞ猫田」
通してくださーい、と言いながら川谷は人混みをかき分けて祭司の前に出る。
「そなたは?」
「私は川谷冒険者派遣事務の代表、S級冒険者川谷だ。一体この結果はどういうことだ。いくら聖女様のお告げとは言え、看過できない」
S級冒険者とはEから始まる冒険者ランクで最上位のランクだ。この国でも、数えるほどの人間にしか与えられないランクだ。
「うわぁ、所長。S級冒険者であることを全面に盾に使ってるじゃないですか」
その発言を聞いていた茂林が呟く。
「貴様、聖女様に歯向かうというのか。いくらS級冒険者だとはいえ、見逃せんぞ」
「まあ、話を聞け。人違いって可能性もありえるだろう。聖女様がお選びになった人間はまだ十二の子供。当然経験だって浅い。勇者ご一行様のパーティーに参加したところで足手まといになるのは目に見えてるはずだ。別に聖女様を否定しているわけではない。だが、聖女様も人間なら、多少間違いだってあるだろう。それに私はあのちびを育てあげる義務がある」
「聖女様が間違いを犯すだと? 自惚れにもほどがあるぞ川谷。この国の絶対権威である聖女様を愚弄した罰は重いぞ」
「……なら、貴様はまだ年端もいかない子供を戦場に送るつもりだというのだな。それが正しい権威が選んだ選択だと言うのだな」
「それは……」
祭司は狼狽しているらしく口をパクパクさせて視線を川谷から反らした。
猫田は川谷に激しく同意すると言わんばかりに、ぶんぶん頭を縦に振る。一方、茂林は冷静に川谷の言葉を吟味していた。
(猫田さんを戦場に送ってるのは所長がいつもしていることじゃないですか。ま、この場限りは口をはさむつもりはありませんけど)
「わたしがそう言ったわけではない。……しかし、これは決まっていることで……」
「僕も川谷さんと同意見です」
そう言って一歩前にでたのは勇者成瀬だった。
「勇者……」
「本来勇者とは国民の皆様のために、戦うもの。その国民に猫田さんも含まれています。無理やり連れて行って、猫田さんの幸せを奪ってしまっては本末転倒ではないかと」
「あいつ、いいこと言うのです」
成瀬の発言を聞いていた猫田が言う。
「ははは、そうだねえ」
茂林は乾いた笑い声をあげた。
「それに猫田さんの他にも、希望する優秀な魔術師の方はいらっしゃるはずです。猫田さんにこだわる必要はないのでは」
「あたしもさんせーい。その猫田って子。まだ子供なんでしょー。面倒見切れる自信ないしー、足手まといになんのもやだよー?」
テイマーの山崎もそれに同意する。
「わたしも」
「俺も異論はないな」
久保田、勝山もそれに続いた。
護衛が司祭に耳打ちする。
「むむ。勇者一行がそういうのならば、認めざるを得ないだろう。今回は特別に猫田の魔王討伐への参加は仮免除ということにする。異論のある者は」
誰も異論の声をあげるものはいなかった。
「では、これにて式典を終了とする」
◇
「ええっ! 噓ですよね。猫田さんが勇者パーティーに選ばれるとか」
驚きを隠せず、立ち上がる野入。対して猫田は泰然とした様子で茂林の膝の上に座り、干し肉を頬張っている。
「それが残念ながら嘘ではないんです」
「そ、そんな。聖女様は何を見ているんでしょうね」
「本当だ。猫田が勇者パーティーに入ったところで妨害行為しかしないだろう」
「しょちょーは猫田を見くびっているのです! 実は活躍できるのです!」
「だったら今からお願いしてその実力とやらを勇者たちにみてもらうか」
「それはやなのです。でも、猫田は役立たずではないのです」
少しうつむいて言葉を紡ぐ猫田。勇者パーティー参加回避のためとはいえ、川谷や勇者一向に足手まといだの子供だの言われて、多少傷ついているようだった。
「そうだとしても、お前は活躍する分、暴れたり勝手な行動をするだろうからな。実際、プラマイゼロだろ。私でさえ手を焼いているというのに、あの若造たちがお前の面倒を見切れるとは思えん」
頬を膨らませて怒る猫田。
「しょちょーなんか嫌いなのです」
「まあまあ、猫田さん。所長は猫田さんを心配して、そう言ってるんだと思いますよ」
「ふん、なのです」
「あはは。はぁ。でも、よかったじゃないですか。結局、猫田さんは魔王討伐には参加しなくてもよくなったんですもんね」
「ああ。仮免除だがな」
「でも、なんで猫田さんが選ばれたんだろ。偶然かな」
「偶然ではないと思うんですけど・・・・・・」
「だが、これが偶然でなかったらかなり厄介なことだな」
川谷が独り言のようにつぶやいたのを野入は聞き逃さなかった。
「所長?」
「なんでもない」
そう言い放つと、川谷は事務所の外へ出て行った。
「どうしたんだろ所長」
あんな意味ありげに呟かれると逆に興味が湧いてくる。
「お花畑じゃないですか」
「いや、そっちじゃなくて。けど、まあどうでもいいか」
「なんなんですか、もう」
「はは、ごめん。ほんとに何でもないって」
野入は手を振って何でもないアピールをした。
「でも、どうして猫田さんは切腹より勇者パーティーに入るほうが嫌なんですか?」
「猫田は全く知らない他人と一緒に寝食を過ごすのが精神衛生的に無理なのです。まだ、どぶ川沿いで過ごした方がましなのです」
「お仕事のときはうまくやれてるじゃないですか」
「お仕事は終わりがあるのです。客のことを消してやりたいと思っても時間が解決してくれるのです。でも、まおー退治に行ったらたくさんの時間かえってこれないのです」
「なんか、猫田さんのダークなところ見ちゃった気がするね。純粋な子供のイメージがあるから、猫田さん」
「そんなことないですよ。人間なら誰しも持つ感情です。むしろ、ムカつくお客さんを消さなくて偉いです。そうやって、耐え忍ぶことを学び成長する猫田さんを見ると、茂林は嬉しくなります」
「肯定感情がすごい……」
「そして何より……」
と、猫田が続ける。
「何より?」
「みーちゃんとそんなにも長い年月離れて暮らしていたら、爆発してしまうのです!」
「……わっかりましたぁ」
「のいり、嫌いなのです」
「なぜ!」
「あ、所長。お帰りなさい。何しに行ってたんですか」
「下の郵便受けに何か入っていなかったか、確認しに行っていたんだ。そんなことはどうでもいいが、のいりん。下に客が来てたぞ。予約なしのだ」
「そーれは行かなきゃですね」
野入は立ち上がり下の階に下りていった。




