2-1話 結果発表なのです!
「うわ! なんだこの人の多さは」
「だから言ったのです。猫田は行きたくないと」
川谷たちは勇者一行の発表が行われる教会の広場を訪れていた。教会の中には、もちろん入ることができないので、外で待機させられている。川谷は猫田の手をしっかりホールドする。少しでも隙を見せようものなら脱走しようとするからだ。猫田は自分の好かないことはしたがらない質なのだ。マイペースで人に合わせるということができない。
その猫田に社会性を身につけさせようと川谷は奮闘している。
「どいつもこいつも、野次馬ばっかか。勇者なんか誰がなったって関係ない奴らばっかりだろうに」
「所長もその一人ですけどね。あ、司祭様が出ていらっしゃいましたよ」
教会の扉から一人の白いローブを着た老人と護衛が現れ、その後ろに選ばれし戦士らしき人影が続く。
「ああ。もう発表か。くそ、遠すぎて顔がよく見えない」
川谷が勇者の姿を見ようとするが、観客が動くおかげでチラチラとしか勇者たちの姿が確認できない。
「先日、聖女様が彼の悪しき魔王の首を取る勇者一行の姿をご覧になった。その者たちをここに発表する」
司祭の声が響くと、会場が一斉に静寂に包まれた。
「まずは格闘家、勝山」
知名度が高いらしく見物人たちの間で歓声が上がる。勝山はそれに応えるように手を振っている。川谷たちからははっきりと見えないが、ガタイのいい男であることはわかった。
「次、神官、久保田。テイマー、山崎」
久保田と呼ばれた男はひょろりとした体躯の持ち主だ。戦うのではなく仲間の回復に専念するタイプの冒険者なのだろう。テイマーの山崎は派手な服を着た女だった。こちらも自ら戦うタイプではなさそうだ。
「聞いたところ知らない奴らばっかりだな。うちの事務所の元客だったら宣伝に使えたのに。しげぴーの知り合いは? 神官の男とか、見かけたことあるか?」
川谷は『勇者パーティーと契約経験あり!』と事務所の垂れ幕に書くことを想像した。
「今のところは誰も……」
「最後に聖騎士、勇者・成瀬」
金髪の少年が軽くお辞儀をすると会場はこれまでになく沸き上がった。悪しき魔王の首を落とす勇者ともなれば、皆からの尊敬と期待の眼差しが注がれる的になることは、当然といえよう。勇者を拝む者さえいる。
その光景に川谷は冷ややかな視線を送る。猫田に至っては見てすらいない。
「聖騎士が勇者か。ま、ありきたりだな」
聖騎士は神官と同じように、回復、浄化の力が使えて、かつ剣術にもすぐれている。魔王退治にはまさに適任な職業だろう。
「え、成瀬くん……」
茂林がポツリと呟いた。
「成瀬ってあの成瀬か。結構高位な貴族じゃないか。しかも、知ってるかしげぴー、なぜか成瀬家は歴代美男子しか生まれないって噂がある。しかも、身体能力に優れ、頭もいいらしい。まさに才色兼備の一族と言われているな。まるで呪いみたいだ……どうしたシゲピー?」
「あの。成瀬くんは初等学校の同級生でその……知ってる子なので」
尻すぼみに茂林の声が小さくなる。川谷が顔をのぞき込むと、心なしか顔が赤くなっているようにも感じた。
「ほーん。さては、初恋か」
「そそそそ、そんなわけあるわけないじゃないですか! 成瀬くんはただのお友達だった子ですよ。ここ何年かは話してすらいませんし」
目をぐるぐる回し、顔を真っ赤にして、反論する茂林の言葉に信憑性はなかった。
「ふうん。でも、知り合いが死ぬかもしれない戦地に送られるのは、いくら光栄なこととはいえ、複雑な気持ちになるだろう」
「……そうですね」
茂林はあからさまに落胆した声をあげる。
「だが、成瀬がしっかり魔王を倒す姿を聖女が見たって言うんだからな。大丈夫だろう。だから、あまり気張りすぎないように」
「はい」
「これで、式典を終了する……と言いたいところだが……」
司祭の雰囲気が変わったことに客たちは気づき始める。何か良くないことでも告げるような口調だった。
「なんだ?」
「どうしたんでしょうね」
「勇者パーティーに選ばれた者の中に、通達を受け取ったにもかかわらず、ここに来なかった者がいる」
会場がどよめきに包まれる。一体誰がそんなことを、という雰囲気で話し合っている。
勇者に選ばれることは光栄なことであり、聖女の命令を無視することはあり得ないからだ。もし、そのようなことがあれば罰されてもおかしくない。
「はっ、そんな馬鹿いるのか。いたとしてもそんな奴は勇者パーティーにふさわしくないな」
「所長ったら。悪口はよくないですよ」
「しょちょー。もう帰るのです。結果発表は終わったのです」
「そうだな。とっとと帰って午後の仕事に備えるか」
川谷は踵を返そうとしたとき、司祭が口を開いた。
「その者の名前は、川谷冒険者派遣事務所所属の魔術師、猫田。この会場にいるのなら、今すぐ、ステージに上がりなさい」
「は?」
「そんな! 猫田さんがなんで……」
「どうしたのです?」
「どうしたのです? ではないぞ猫田! お前、私に勇者パーティーに選ばれたこと黙っていたのか?」
川谷は焦燥に駆られた表情で、猫田の両肩を掴む。
「猫田はそんなこと知らないのです」
「本当か」
「本当なのです」
「はああ。どうしたもんか」
「どうしたのですか? 猫田がどうしたのですか?」
猫田の目は絶望に染まっている。自分の耳で聞いたことが信じられないのだろう。普通の人間ならばここで喜びに震えるところだが、猫田にその発想は存在しなかった。
「猫田さん……」
「お前は勇者パーティーに選ばれていたようだ」
「……嘘なのです」
「嘘じゃない。それにお前もちゃんと聞いていただろ。自分の名前が呼ばれたのを」
「……猫田は勇者パーティーには入らないのです。逃げるのです」
駆け出そうとする猫田の腕を川谷が掴む。
「ちょっと待て。今逃げたところで、家に教会の奴らが来るだけだ。ちゃんと話をするんだ、猫田」
わなわなと震えながら振り返る猫田。
「勇者パーティーに入るくらいなら自害するのです」
「そんなに! 死んだら駄目ですよ」
茂林は驚きの声を上げる。
「切腹するのです!!」
猫田が大きな声を出す。が、周りの騒音にかき消されて司祭のもとまでは届かなかった。
「でかい声出すならステージの上に行け猫田。同じことを奴らに言ってやればいいんだ」
「無理なのです。そんなことしたら爆発するのです」
頑なに前に出ることを拒む猫田。




