1-3話 猫田なのです!
「今朝、教会から御触れがあって、聖女様が予言なさったそうで。なんでも魔王討伐のメンバー、勇者パーティーを発表するそうで」
このウケメンダロス王国では、聖女の予言に基づいた政治を行う。聖女とは神のお告げなるもので選ばれた特別な力を有する者だ。だが、国民の多くがその姿を見たことがなく本当に存在しているのかと、疑う者もいる。その一方で、まるで神であるかのように崇め崇拝している者も少なくない。
その聖女が予言を行い、魔王を倒す者の姿を見たとなれば、大騒ぎになるのは必至である。
この世界の人間にとって魔王は悪の根源である。魔王の力で地上に化け物が跋扈し、疫病が流行り、戦争が起こるとされている。魔王はこの世界のどこかに定期的に出現し、その度に勇者が選ばれてきた。だが、どこに魔王が発生したかまでは聖女は見ることができないため、勇者たちは魔王探しの長い旅をすることを強いられるのだ。
「は。なぜそういう重要なことを言わない」
「結構な騒ぎになってたので所長も知っているかと・・・・・・」
野入は上目がちに川谷の様子をうかがう。
「勇者が選ばれたということは、魔王も現れたってことだろう」
「そうなんでしょうね。地震でも起きるんですかね」
茂林が暢気なことを言う。すると、川谷がわなわなと震え出した。
「どうしたんです?」
「さ、最強に面白そうじゃないか」
「は?」
「だって、魔王だぞ。月食と同じだ。生きているうちに同じ瞬間を共有できるかできないかわからないくらいの化け物だぞ。あー私も魔王見たかったな」
「しょ、所長は関係ないからそんなこと言えるんですよ。当事者からしたらたまったもんじゃないはず・・・・・・」
「そんなことないぞ。勇者たちに選ばれた奴らは喜びに体を震わせているはずだ。一応、聖女の予言は外れないはずだからな。絶対に勇者は魔王を倒せるんだ。つまり、よほどヘマしなきゃ死ぬ心配もないときた。そして、国に帰ってきたらそいつらは一生遊んで暮らせるほどの大金と絶対的な名声を得る。それに感動しない奴がいるか」
「それ、胡散臭いですよね。あたしは聖女様とか教会の言ってることとか、とてもじゃないけど、信じられない・・・・・・」
「神官のわたしの前で言いますか」
聖女は神官の長のような存在である。神官は一般的に神に祈ることで、その力をその身に宿すことができると考えているのだ。
「ご、ごめんね。でも、前、魔王が出たのって百年以上前の話で、勇者が生きて帰ってこれたっていうのもでたらめかもしれないし。・・・・・・と、とにかくそういうので盛り上がれる人間が羨ましいです・・・・・・あたしは・・・・・・」
「お前。ロマンのない奴だな。生きてて楽しくないだろ」
「え、ええー。た、確かにおっしゃる通りかもしれません」
野入はうつむいてしまう。落ち込んでいるようだった。
「大丈夫ですよー! 野入先輩。夢なんかなくても人は生きていけますから」
「うぅ、慰めになってない・・・・・・」
「で、発表は今日の何時ごろなんだ」
「十時くらいだった気がします」
「ってもうすぐじゃないか。いくぞ猫田、しげぴー」
「なぜ、猫田が行くのです?」
「当たり前だろう。誰が選ばれたのか確認しにいく義務がある。この事務所の客から選ばれた可能性も十分ある」
「所長も選ばれてもおかしくなかったですよね。所長もそれなりの実力者ですし」
「だろう。そうなったら困るだろう」
言葉とは裏腹に川谷の鼻が膨らむ。内心嬉しそうである。
「受付嬢のあたしにはあまり関係ないので、面白い人が選ばれてたら教えてください」
野入は興味なさそうに書類の整理に戻った。
「やはり面倒なのです。人混みは嫌いなのです」
「猫田」
「猫田さん、私も一緒に行きますよ。もしかしたら猫田さんの今までのお客さんの中から選ばれてるかもしれませんし」
「客の顔なんて覚えてないのです」
「ああもういい」
川谷が猫田を担ぎあげる。
「放すのです」
陸に上げられた魚のようにのたうち回る猫田。
「そこまでして連れて行かなくても」
「普通の冒険者ならそれくらいの行事に参加するのは義務みたいなものだ。誰が選ばれたか知っておいて損はない。あと猫田はもう少し社会性を学ぶべきだ。いくぞ、しげぴー」
「はい。じゃあ、行って来ますね。野入先輩」
「うん。いってらっしゃい」
野入はその背中を見送った。




