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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
マボンの祭りと始まりの月
57/58

手芸人たちの悪だくみ(前)

 妹は魔力を込めて極細の糸を紡ぐ。貝殻や宝珠を削り、ひと粒にひと筋の光を通す。

 姉はその魔力を受け取り、かぎ針を使い優美な動作で祈りを込めて想いを編み上げる。


 姉妹の手によるビーズ編み(クロッシェ)の品々は、緻密で美しいチャームでもある。

 双子の魔女は、どちらもタティングレースやビーズ織りを得意としていた職人だった。ところが数年前に出会ったビーズクロッシェという技法に惚れ込んで、そちらをメインに活動することにしてしまった。彼女たちの指先から生み出される糸の宝石を眺めることが好きだった私だが、こちらも同じくらい優雅で美しい。規則正しい指の動きは、人を夢中にさせる魔力がある。


「ラウラの編み針作業、いつまでも見ていられるんだよね。綺麗な動きって好きよ」

「あら、ありがとう。嬉しくてよ」


 煌めく粒を拾いかぎ針で編み上げるビーズクロッシェは、アクセサリーはもちろん立体的な小物やバッグまでも作れてしまう。私も少女向けのタリスマンを作る時は、彼女たちにパーツ作成をよく依頼する。以前、星屑の糸に星砂ビーズとタティングレースを組み合わせたクロッシェを頼んだことがある。あまりに可愛らしくて、時間を忘れるほど眺めてしまった。細やかなキラキラは大人を少女に戻してしまう。不思議。


 ハーブ交換会の日の夕方には、双子を引き連れてグイメハムまで移動した。夏に会ったばかりだが、道中はバカンスの話やお互いの仕事の話で盛り上がり楽しい歩き旅だった。彼女たちは我が家に一泊したあとに、河川港の街へ向かい船に乗って領都へ帰るのだという。

 グイメハムの集落が近づいてきた頃だ。私は双子姉妹に提案をしてみた。


「アニカの店で惣菜とおつまみを仕入れて行こうか。シャワー浴びたら速攻でパジャマパーティーできるよ」


 夕暮れの頃合いではあるけれど、徒歩移動後のおしゃべり付きボディケアに要する時間を考えると、夕食の準備をするには微妙に物足りない。ここはサクッと時短である。


「いいわね。アニカのお惣菜、美味しいのよね。私も好きよ。それにテアの所ならベストなペアリングを探すのも楽しそう」

「お酒の心配はなさそうですものね、テアの家は」

「いくらなんでも限度はあるのよ。ていうか私を何だと思っているのか。酒屋じゃないぞ」

「でもたっぷりと在庫があるのでしょう?」

「あるに決まってるじゃないか。私だぞ」

「酒屋だわ」

「酒屋ね」

「売ってないし。趣味で作ってるだけだし」

「そうね、売らないだけですものね」

「そんなことより今年もアニカも招待しましょう。いいかしら、テア」


 なんかごまかされた気がするが、招待に関してはもちろん快諾だ。そんな訳で美味しい惣菜を調達したついでに、アニカ本人もゲットした。

 手芸好きなアニカは、このお人形みたいな双子姉妹がお気に入りで、年に一度の手芸トークを楽しみにしているのだ。


「毎年お誘いしてくれて嬉しいわ。お二人の新作を楽しみにしているのよ」

「私もアニカの刺繍が大好きよ。あなたのアイデアはいつも刺激的ですもの」

「今年の冬の図案集も楽しみにしていてよ」

「まあ嬉しい。光栄だわ」


 アニカは刺繍作家でもあるので、季節ごとに図案集を出版している。子ども向けから超絶技巧を凝らしたものまで掲載しているので、眺めるだけでも楽しい。

 お店を閉めてから合流するアニカを待ちながら、友を連れ我が家に帰る。順にシャワーを浴びてお互いのフットケアオイルを交換したり、マッサージを教え合ったりしつつ過ごしていたらキーラが訪ねてきた。


「こんばんは。賑やかでいいわね」

「話したっけ? 今、マルティナとラウラが来てるんだ。これからアニカも交えて女子会するんだよ」


 ひょこり、と小柄なラウラが私の背中から顔を覗かせると、顔を輝かせた。


「キーラ先生!」


 先生呼びをされたキーラは、にっこりとラウラに笑いかける。


「久しぶりにお会いしますね、ラウラ」


 忘れがちだが、キーラは流行の靴を作るデザイナー兼靴職人だ。上流階級のご婦人方ばかりか多くの女性ファンを抱えている。奇抜というか、デコラティブな女子女子しい靴を得意としているせいか、個性的なファッションを好む層に刺さるようだ。例えば甘ロリ・ゴスロリ双子姉妹とか。

 ラウラの声にマルティナも玄関口へ駆けつける。


「今日、会えるなんて思わなかったわ、キーラ先生」


 感激する双子姉妹を背に、私はキーラに向き直る。


「急ぎの用事? 物によるけどすぐに対応はできるよ」


 こんな風に、色素材の至急追加依頼を受けるのは珍しくない。一、二時間くらいもらえれば特急納品も可能だ。


「いや、仕事の話じゃないから大丈夫よ」

「そうなんだ。どうしたの?」

「ちょっと行き詰まっちゃってねー。気晴らしに立ち話しに来たの」

「だったらキーラも今から一緒にどう? 少し騒がしいかもだけど」

「ありがと。でもお邪魔じゃない?」

「そんなことありませんわ!」

「キーラ先生とご一緒できるなんて夢のよう……」


 私が姉妹に確認するまでもなく承認された。というか、大歓迎モードである。なんかちょっと悔しい。

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