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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
歌う夏とルーナサの話
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グリフォン親子と行く丘の上の街

 南の辺境伯領には何度か訪れたことはあるが、海側から入り、港を見下ろしつつ領都に降り立つのは初めてだ。連合王国内でも有数の港湾都市でもあるため、多くの船舶が係留されている。

 港を通り過ぎ、小高い丘を目指す。目に入るのはいくつかの尖塔やカラフルな屋根と壁を持つ家々。


『アンドレ、四角柱の鐘楼の近くに広場があるのはわかる?』

『はい、母さん』

『今日はそこに降りましょう。テア、そこからなら大通りまでは近いわ。カオリーネさんのお店なら歩いて数分てとこかしら』


 仕事柄サリーは地理に強く、頭の中に住宅地図が入っているかのごとく案内してくれる。グリフォンナビ、超優秀。


「アンドレちゃん、ありがとう。初めての長距離飛行は疲れたでしょう?」


 広場に降りたアンドレちゃんは、ホッとしたような顔を私に向ける。


『大丈夫。思ったより平気でした』


 去年はあんなにほわほわした幼鳥だったのに、こんなに大人になって。

 私は親戚のおばちゃんのような心持ちになりつつ、アンドレちゃんの背中から降りる。母親よりは小柄だが、均整の取れた体つきは若者らしい初々しさが残っている。生真面目な性格のせいもあるが、寡黙な少年が丁寧に話そうとしている所が可愛らしい。


『南の領都との往復に慣れてきたら、イーライのいる中継基地に行かせようと思ってるのよ』

「じゃあ、遠くない将来にグイメハムへ配達に来てくれるかもしれないのね、アンドレちゃん」

『行ってみたいです』


 イーライはサリーの夫で、茶目っ気のあるグリフォンだ。彼も話好きなので、夫婦揃うとなかなか騒がしい。そう言えば、まっすぐな尾羽根の模様と獅子を思わせる力強い足の形はアンドレちゃんと似ている気がする。小柄なところも同じかもしれない。

 サリーは猛禽類のメスらしく、とても立派な体格をしている。基本的に、グリフォンもオスよりメスの方が大きい。両翼を広げると二十フィートもあり、美しく精悍な白い頭はほのかに黄金色の光沢を放ち、濃い黄色の鋭い目とくちばしがなんともカッコいい。四頭の子持ちには見えない。


 リーザさんとサリーは、小規模農家の作る野菜や加工品を直送販売する商会を共同経営しているのだが、配送部門で腕をふるっているのがイーライと彼らの娘たち三姉妹なのだ。あの子たち、かなりの弟ラブだったような。いいなあ、可愛い弟。

 街に詳しいサリーに先導され、南の領都で一番の大通りを歩く。羽根を畳んで前を歩く大小のグリフォンは、なぜだか妙に微笑ましい。私だけがそう見えているのかと思ったのだが、街の人たちも同じような目で親子を見ている。視線が優しい。

 よく南の辺境伯領を周っているせいか、サリーを見知っている者も多いようだ。仲の良い親子だということが見ただけでわかるからかしら。

 サリーは私に最近オープンしたカフェやビストロを紹介しつつ、取引先の店を息子に教えるという器用なことをしている。というか、ずっとしゃべっている。これも一種の才能に違いない。


『テア、着いたわよ』

「最後まで付き合わせちゃったね。サリー、ありがとう」

『いいのよ。私もアンドレに場所を教えたかったからね』


 カオリーネの新しいお店は、カラフルな外観で南の辺境伯領らしいデザインだった。北の領都と同じくカフェが併設されているのだが、こちらは開放的な雰囲気でいい感じ。

 緑にあふれているテラス席は、蔓薔薇に覆われた一面のパーゴラが日除けになっていて涼しそう。そしてテーブルの間隔に余裕がある。いいぞいいぞ。


「サリー、アンドレちゃん」


 私は帰ろうとしている親子に声をかけた。


「ここでティータイムって素敵じゃない? ごちそうさせてくれたら嬉しいな」

『確かに素敵ね。実は私もまだカフェでお茶はいただいてないの』

「決まりね。アンドレちゃん、甘いお菓子で一休みしない?」


 少しだけ恥ずかしそうに、アンドレちゃんはこくんと頷いた。甘いもの好きだものね。


「先に席に着いていて。カオリーネに挨拶してからすぐに行くね」


 店内に足を踏み入れると、すぐにクロエさんが気づいてくれた。互いに笑顔で再会を喜ぶ。


「お待ちしておりましたわ、テア様。遠い所、よくいらしてくださいました」

「開店おめでとうございます。想像の百倍素敵なお店で感激しました。社長に取り次ぎをお願いできますか?」


 するとクロエさんが少しだけ困った表情になる。


「申し訳ございません。社長はただ今外出中ですの。恐れ入りますが、少しのお時間お待ちいただけますか、テア様。そろそろ戻る予定ですので、長くはかかりません」


 まったく問題はない。むしろナイスタイミング。


「友人もおりますので、テラス席でお茶とお菓子をいただきながらのんびり待ちますね」


 こうして私はカオリーネの帰りを待つことになった。

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