思い出の夏、出稼ぎの夏
マリエラさんに相談しながら、ワインといくつかの食材を友人たちへのお土産に決めた。
結構な量になったので、グイメハムの郵便局留めで送ることにする。手配は全てマリエラさんが行ってくれた。バトラーサービス、万歳。
コンシェルジュさんにも挨拶とお礼を伝え、チェックアウトをする。快適に過ごせたので、またサイキリアを訪問するときはこのホテルに泊まろう。
大図書館に野外オペラ。数日間の滞在だけど、予想以上に満喫できた。デルフィナさんたちとも仲良くなれたし、楽しい思い出しかない。
あとはリーザさんとマダムたちへのお土産を買いに、ジェラテリアへ行くだけだ。
夏の盛りは過ぎようとしているが、南の国はまだまだ暑い。ジェラテリアには多くの人が詰めかけている。教授おすすめのこのお店は、かなりの人気店のようだ。
「持ち帰りできますか?」
「専用の容器がありますよ。容量を選んでくださいね」
店員さんがイラスト入りの料金表を示しながら説明してくれた。バスケッタ・ダ・アスポルトと書いてある。結構お安い。
「ピスタチオを三ポンドお願いします」
「一種類でよろしいでしょうか」
「盛り合わせ、できるんですか?」
「できますよ」
地元産のお酒や果物、定番のヘーゼルナッツやチョコレート、どれも美味しそう。迷いかけたが、先日食べたカンノールの記憶が蘇る。あのクリーム、すごく美味しかった。
カンノールはサイキリア以外の南方の国々でも食べられるが、港で海を見ながら食べたせいか、はたまたデルフィナさんたちのリサイタルのせいか、私の中で強烈な印象として残っている。もう一度食べたいな。
「では、このリコッタチーズをぜひ」
淡いグリーンと優しい白が半々に詰められる。
「私もこの組み合わせ好きなんですよ」
にこにこしながら店員さんも賛同してくれた。お、正解を導き出したか、私。
「ブリオッシュは付けますか?」
もちろん。人数分のブリオッシュとコーンをつけてもらい、会計を済ませる。
「お持ち帰りの時間はどれくらいですか?」
「一時間半くらいかな。固定魔術を使うので保冷剤は一つあれば十分です」
「魔術師さんだったんですね。それなら安心です」
その場で、ジェラートの容器と焼き立てのブリオッシュを入れた紙袋に状態固定の魔術を使う。これで、熱々冷え冷えのブリオッシュ・コン・ジェラートをお昼にみんなと食べられるわ。
最後のDASのチケットを使って、トリスカニッレへ向かう。来てくれたのはアリアちゃん。デルフィナさんたちの話をすると、とても喜んでくれた。
南方の国々だけで展開しているこの送迎サービスだが、なんとか我が国でも事業を広げてくれないものか。名残惜しさが半端ない。
「お帰りなさい、テア!」
地上に降り立った私を待っていたのは、リーザさんたちのお出迎えだった。寂しくなりかけていた気分が上昇する。我ながら単純な精神構造である。
アリアちゃんにお礼を言って、お互いに再会を願いつつお別れする。
「無事に帰還しました。ランチ用のジェラート買ってきましたよ」
マダムたちから歓声が上がる。スイーツの力、強い。
一応、ブリオッシュかコーンかお好みで、と伝えたが、私を含めて全員両方を堪能した。どちらかなんて選べないわ、というリーザさんの意見に全員頷いた。正解。
マダムたちが強く勧めてくれたピスタチオのジェラートは確かに絶品だった。今まで食べた中では抜群の濃厚さだ。リコッタチーズも負けないくらい美味しくて、こちらも好評だった。
その証拠に、多めに買ってきた三ポンドのジェラートは、綺麗に食べ尽くされた。消え物のお土産としては大成功である。
この日は三時間ほど手伝いをした。今週末で夏のアルバイトは終了だ。十二日間分の労働の対価は、後日まとめてグイメハムの我が家へ送ってくれる。
「南の領都からは船で帰るのかしら」
「その予定です。急ぐ理由もないですし、のんびり戻ろうかと」
このひと月の南方での移動は、空飛ぶ幻獣さんに頼り切りだった。短時間で長距離を動くという贅沢を味わってしまったので、感覚を戻さねば。
南の辺境伯領では領都とパーシーさんの農園の二か所を訪ねてから、運河を下って北へ向かう。何事もなければ月末には帰れるだろう。
「それにしたって、テアはバカンスなのによく働いたわね。こっちは助かったけど」
確かにそうかも。リーザさんの指摘に、私は苦笑した。好きなことしかしていないが、言われてみればライトな出稼ぎかもしれない。
「サイキリアにだって、ほぼ勉強しに行ったようなものでしょう? 働き者よね」
「普段はぐうたらしてますけどね」
写さずの本は予定どおり読み進めることができた。一度インプットしてしまえば、どこかで役に立つはず。
グイメハムへ帰ったら、さっそくアミュレットを作成してみよう。研究の成果を全て注ぎ込んだら、最強のアミュレットができるかしら。




