情報収集したらレシピが集まった
干し葡萄で作られた甘いワインと、ピスタチオのペースト。
これ、リーザさんたちにおすすめされたグイメハムの友人たちへのお土産である。
「他にも、マジパンを使ったお菓子も何種類かあるね。ちょっと甘いけど見た目が可愛いのよ」
なるほど、そちらも探してみよう。
この辺りの住人はサイキリアに詳しい人が多い。隣国というほど近過ぎず、遠方と言うほどでもない観光国、という認識らしい。買い物に小旅行に、と頻繁に足を伸ばすそうだ。
今週末のお手伝いは、瓶詰め用にトマトを半分にカットすることだった。一つ一つに軽く塩を振って瓶の中へぎゅうぎゅうに重ねて行く。軽く蓋をして、そのまま一時間ほど煮沸消毒。いわゆる水煮なのだが、火はきちんと通っているのにフレッシュさも残る絶妙な加熱具合で、とても美味しい。
薄く塩味がついているので、瓶から出して軽く刻んだだけでブルスケッタのトッピングにできる。
先週は裏ごして煮詰めた濃縮ソース、その前はシンプルに潰しただけの物だった。同じトマトでも色々な種類の瓶詰めがあるのだな、と毎年感心しながら手伝っている。
そんな作業をしながら、リーザさんやお手伝い仲間の近所のマダムたちからサイキリアについて情報収集してみた。
「古代遺跡やオペラハウスも面白いわよ。歴史のある建物ばかりだから見学ツアーもたくさんあるの」
「当日チケットが取れたら円形劇場での野外オペラも素敵よ。夏の風物詩ね」
「大図書館の近くに大聖堂があるから、ぜひ鐘楼に登ってみて。港や古い街並みを見渡せるわよ」
「大聖堂ならモザイクの壁も綺麗よ。コロルリアなら見ておいて損はないと思うわ」
次から次へと魅力的なプレゼンをされて、期待が高まる。
野外オペラ、超見たい。久々の観劇。しかも夏の夜の野外。すでに私はチケットを取る気満々だ。あとで演目を調べてみよう。
「テアは考古学公園には行ったことがあるのよね?」
リーザさんに問われたので、頷く。
「かなり小さい頃になりますけど、一度だけありますよ」
「お祖母様の関係?」
「はい。当時、祖母様は私の子守というか面倒を見てくれていたので、タイミングによっては仕事先にも連れて行ってくれていたんですよ」
サイキリアには大図書館の他に、大陸で一番規模の大きい考古学博物館もある。古代遺物のレプリカを展示した公園に隣接していて、見学者も多い。古代文明に関する膨大な資料を収集しているため、遠方からでも研究者が足を運ぶ場所だ。
「祖母様の専門は古代機械だったので、サイキリアにはよく行っていたみたいです」
祖母の本職は考古学者なのだ。祖父も同僚だったそうので、なぜ研究者夫婦の娘が戦闘狂、もとい軍人になったのかがわからない。
ただ、職業として戦闘魔術師という職に就いていた母より、祖母の方が強いし怖い。個人の感想です。
「ワインとピスタチオ関係のものはいくつか買うとして、他に面白そうなお土産ってありますかね」
再度、お土産リサーチのためにマダムたちに話を振った。
「塩田があるから地元産の塩もいいかも? 試食できる塩屋さんがいくつかあるから試してみたらいいんじゃないかしら」
「気に入ったものが見つかったら、市場で探すといいわよ。お得に買えるわ」
「陶器とタイルも綺麗よ。カラフルなお皿も素敵だし、小さなタイルを使ったアクセサリーも可愛くておすすめよ」
これだけおしゃべりしていてもリーザさんたちの手は止まらない。あっという間に瓶詰め作業が終わってしまった。さすが。
トマトを詰めた瓶を煮沸している間は休憩時間になる。今日のおやつは、リーザさんのお手製セミフレッドだ。リコッタチーズと桃のコンポートが入っていて、見るからに美味しそう。切り分けてから、酸味の効いたラズベリーソースをかけてくれた。
冷たくて舌触りの滑らかなセミフレッドに、熱々のコーヒーがよく合う。レシピを聞くと、ホイップした生クリームとメレンゲを混ぜ合わせたムースをベースにして、好きな物を入れて冷やし固めればいいそうな。今回のようにチーズを入れたり、果物やナッツ類やチョコチップでもいいらしい。自由だな。
「簡単だし好きに作れるから夏のおやつにぴったりなのよ」
「あら、冬でも美味しいわよ。全卵を泡立ててチョコレートをたっぷり使うの。リキュールかブランデーで戻した干しイチジクとヘーゼルナッツを入れるといいわ」
「黄身を多めにしてカスタードムースにしても美味しいわ。型に流し入れる前に土台としてアマレッティを砕いてもいいし」
「逆に、生クリームと果物だけで簡単に固めちゃっても構わないのよ。要は空気を含ませたベースがあればいいから」
「ただ、しっかり冷やして固めないと駄目ね。最低半日、できれば丸一日は必要よ」
こんな感じで、マダムたちが次々と我が家のセミフレッドレシピを披露してくれたりしたので、私のメモが追いつかない。
聞いたものを全て作りたいし食べてみたい。私が患っている不治の病、それは食いしん坊。
時間をかけて煮沸し終えたトマトの瓶詰めをトングでお湯から取り出し、火傷に注意しながら蓋をぎゅっと閉める。蓋が下になるように、上下をひっくり返した瓶詰めを作業台に並べ、常温になるまで冷ましておく。
冷めた後に蓋を確認すると凹んでいた。無事に脱気できたようでホッとする。これにて今日のお仕事は終了だ。
たくさん情報やらレシピやらをいただいたので、来週末にマダムたちと再会する時はジェラートをお土産にしようと思う。皆さんに好みのフレーバーを聞いたら、全員一致でピスタチオと言われた。
まじか、そんなに美味しいの? めちゃくちゃ気になるわ。




