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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
歌う夏とルーナサの話
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終了レセプションと空の旅

「お疲れさま。毎日の講義、大変だったでしょう」


 終了レセプション会場で、以前お世話になった魔導学の教授に声をかけられた。

 北の大国出身の年配の女性で、発酵保存食についての私の個人的な師匠である。数年前からこちらの大学で教鞭を執られており、私を今回のサマーレクチャーの講師に推薦してくれた張本人だ。


「滅多にない機会でしたから、楽しませていただきました。学び直しにもなりましたし、とても勉強になりました」


 本日、無事にサマーレクチャー最終日を迎えることができた。二種類の講座を合わせて五十人近くに修了証を渡せたので、爽快な達成感がある。

 それにしても、自分の持つ知識をわかりやすく多数の人に伝えることは難しかった。それが完全に理解していることでも、言葉の選び方一つで伝えたいことがぼやけてしまう。改めて、専業の教職、講師業の方々への尊敬の念が深まった。

 今、私の目の前にいる教授も、ご自分の研究をしながら教育にも力を注いでいる。私もいつかは次の世代へ技術を伝えていくのだろうけれど、同じように教えることができるだろうか。彼女のように両立できるようになりたいものだ。

 

 アカデメイアでの思い出話に花を咲かせたあと、ふと、思い出したように教授から尋ねられた。


「テアは、来週サイキリアへ行くと言っていましたね」

「はい。大図書館へ何日か通おうと思ってます。あそこは持ち出し不可の古代魔導書(グリモワール)があるので、直接足を運ぼうかと」

「でしたらこれをお持ちなさい」


 教授はクラッチバッグから小さな二つ折りのカードを出した。口元が少し動いたかと思うと、柔らかな薄桃色の光の玉がカードの内側へしゅるんと入り、消えた。


「これは?」

「もし、確認したい魔導書に閲覧制限がある場合に使いなさい。魔導学研究者の推薦状があれば閲覧可能になります」


 そんな裏技が。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」


 受け取ったカードを開くと、教授の署名と薄いピンク色の小さな魔法陣が描かれていた。お心遣いが嬉しい。

 ついでに、教授おすすめの現地ジェラテリアを何軒か教えてもらった。有力情報、助かります。


 サマーレクチャーの期間は毎日のように大学に通っていた。毎日講義をしていたからね。学生なら皆勤賞ものである

 そのおかげで、他の講師の方々や大学関係者と顔見知りになった。終了レセプションで話が弾んだ方と連絡先を交換しまくって、異分野の友だちを増やすことに成功した私は、ほくほくしながらホテルへ戻る。祝杯、祝杯。

 この前、次代様と飲んだランブルスコが美味しかったので、同じ物を買っておいたのだ。シャワーを浴びて楽な服に着替え、手酌でちびちび飲む。

 長いようで短かった十二日間の講師生活。予想よりかなり充実した日々だった。しみじみしながら思い返してみる。悪くない夏の過ごし方だったわ。

 ピストレッロ家の皆さんへは数日前にご挨拶を済ませている。明日はチェックアウトしてトリスカニッレへ向かうだけだ。

 

 今回の南方滞在中の移動は、ドラゴ・アテンド・サービスの期間限定お得用チケットを利用している。六枚綴りで一枚につき百マイルまで、十五フィートほどの小型竜が送迎してくれるのだ。

 週末ごとの往復二回で四枚、サイキリアへの行き帰りで二枚。各移動距離も百マイルに満たないので、効率よく使い切ることができる。

 スタッフは羽毛や被毛に覆われているタイプのドラゴンさんが多くて、背中に乗せてもらう時のふわふわもふもふな感触がたまらない。しかも明るくて人懐こい性格の種族のようで、移動中の会話も楽しい。

 困ったことが一つある。彼らの可愛くて健気な働きに、無条件で貢ぎたくなるのだ。別れ難い。お家に一頭ほしい。


『テアさんは今度サイキリアに行くって聞きましたー』


 週末の農家仕事のために、リーザさんの農園へ移動している時だ。今日は羽毛タイプのドラゴンの女の子、アリアちゃんが担当してくれた。お腹が白くて背中が若草色の羽根がとても綺麗。くりくりした栗色の目がキュートすぎる。


「うん。だから水鏡の週始めにも(ドラゴ)(アテンド)(サービス)にお願いする予定だよ」

『そっかー。また私が担当できたらいいなー』


 可愛い。お待ち帰りしたい。


「アリアちゃんだったら嬉しいけど、みんな素敵なドラゴンさんだから誰が来てくれても大歓迎だわ」

『私の仲間、みんないい子だからそう言ってくれるの嬉しいなー』

「こうやって話しながら送迎してくれるから、移動中がずっと楽しいもの。ずっと一緒に飛びたいくらい」

『私もー。テアさんはお話してる時の魔力の流れが気持ちいいんだー。私、大好き』


 それは私が魔女だからだな。

 魔力制御と循環は、称号取得前に徹底的に鍛えられる。そのため、念話による精霊や幻獣との対話もスムーズに行うことができるので、好印象を持たれやすいのだ。

 持っててよかった魔女の称号。


「アリアちゃんはサイキリアには何度も行ったことがあるんだよね。私はだいぶ昔に二回、行ったきりなんだ。図書館以外になにかおすすめスポットって知ってる?」


 そうだねー、と薄緑の後頭部が可愛らしく傾げられる。


『島巡りとか楽しいよー』


 それは楽しそうだが、どうせならゆっくり時間を取って巡りたい。

 エメラルドグリーンがきらめく絶景のビーチを始め、美しい海岸線や、美味しいマグロ料理も有名なのだ。涙を飲んで次の機会にしよう。


『港でボーッとしながらデルフィナさんたちとおしゃべりするのも好き』

「デルフィナさん?」

『イルカの幻獣さんだよ。物知りだから色んなこと教えてくれるの』

「港に行けば会える感じなの?」

『うん』


 多分、私にとってはお初の幻獣さんだ。海獣系の幻獣は知識として存在することは知っているが、図鑑でしかその姿を見たことがない。


「わかった。行ってみるね。私もデルフィナさんたちと会えたらいいな」


 きっと会えるよー、と言って、アリアちゃんは着地した。快適な二時間弱の空の旅は終了してしまった。

 

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