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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
歌う夏とルーナサの話
32/58

ルーナサに感謝を込めて

 一時間ほど峠を登り、開けた場所を見つけた。見晴らしもいい。この場所で祭壇をセッティングすることにしよう。

 と言っても、四方にキャンドルを灯し、中央に組んだ台に新麦で焼いた一斤のパンと地元産のワインを供物として捧げるだけだ。

 ルーナサの儀式では、収穫を喜び、穀物を古称え、古代の神に敬意を表する。技術と才能、そして鍛冶職人の守護者でもある神へ武器や道具を捧げ、加護と祝福を願うことも含まれる。


「護身用の武器はお持ちになってますか?」


 次代様へ尋ねる。


「銃と短剣くらいでしたら」

「どちらかでも構いませんのでお借りできますか? 能動の精霊と古代の神に武器への祝福を願い出てみます」

「両方でも?」

「問題ございません」


 了承をいただいたので、早速祭壇を組み、供物を乗せる。近くに野生種の葡萄の木があったので、葡萄の精霊に協力してもらい、弦と葉で飾り付けをした。少し見栄えが良くなったわ。

 祭壇を中心にして十五フィート四方、東西南北の位置に夏林檎を置き、キャンドルに魔法炎を灯す。

 持参したホワイトセージの葉を四枚ちぎる。それぞれの四方の炎を移して、祈りの言葉を紡ぎなぎら祭壇の周囲を一周する。

 燻された煙が輪を描くと、数式と幾何学を組み合わせた魔法陣が地面に浮かび、消えた。準備完了。


「では、しばらくお預かりしますね。その間は結界を張っていますが、万が一不測の事態が起きても、狼藉者を全力で叩きのめしたりはしませんように」

「気をつけます」


 次代様はにっこりと微笑みながら銃と短剣を渡してくれた。

 この方、お父様からは火焔魔術、お母様からは雷撃魔術の才能を受け継いだ戦闘魔術師でもあるので、とてもお強い。

 我が国では、膨大な魔力を持ち、攻撃力の強い魔術を展開できる者は、軍に所属するか、一定期間を軍の施設で過ごさなければならない。ある意味、人間兵器だからね。

 施設で学ぶのは本格的な魔術制御と能力に応じた戦闘訓練なのだが、次代様は通常の半分の期間で修了してしまった。

 幼い頃より、脳筋なご両親から格闘術と武器操作を叩き込まれていたことも大きいのだろうが、本人の才能もあると思う。というか、何でもできるのよ、次代様。

 ちなみに私はヒーヒー言いながら通常の日数をお務めした。百二十日間しっかり訓練を受けたおかげで、最低限の戦闘行動はできる。はず。

 

 お預かりした銃は、魔術式の大型口径リボルバー。この口径なら、複雑な組み方の魔術弾薬を装填できる。

 短剣は一見儀礼用の華やかな装飾のものだが、鞘の中身は完全に実用的なブツだった。使い込まれていることから、鍛錬を欠かしてはいないようだ。有り余る才能を持ちながら、努力を怠らない姿勢は仮想甥っ子ながら尊敬する。

 やたら優秀で多方面に器用すぎるせいか、高貴だけど厄介なご友人のお守り役を押し付けられがちな次代様。どうか面倒事があっても無事に切り抜けられますように。

 そんな思いを込めて二つの武器を祭壇に供える。


「十年前はペンとノートでしたね」


 祈りを捧げ終えた私に、次代様が語りかける。翌月にアカデメイアへの入学を控えていた、十二歳の次代様を思い出す。


「学生の武器ですからね。古代神は創造や芸術も司っているので、画材や楽器を捧げたこともありますよ」

「そうなのですね。確かに武器になりました」

「お力になれたのなら良かったです」

「いつだって姉様は私に力を与えてくれていますよ」


 そんなことを話しながら、供物のパンを切り分ける。


「ワイン、開けましょうか?」

「お願いします」


 開栓を申し出てくださったので、陶器のゴブレットを二つ置く。注がれる赤い液体は微かに発泡している。この地特産の赤いスプマンテは、値段の割に美味しくて飲みやすい。喉越しが良すぎて飲みすぎちゃうけどね。

 新麦のパンは収穫物の象徴だ。豊穣への感謝を込めて、ワインと共にいただいて儀式は終了になる。

 最初の予定では一人で儀式を執り行うはずだったのだが、やはり食事は誰かと一緒の方が楽しい。


「このパンは姉様がご自分で焼かれたのですか?」

「はい。今日の講義で振る舞った大量のタルト台と一緒に焼いたんですよ。久々に頑張りました」


 タルト台? と首を傾げた次代様に、今日の講義の内容をお伝えすると納得されたようだった。


「そういえば、前の時も果物をいただいた記憶があります」

「あの時ほど多くの物をご用意できなくて申し訳ございませんが、どうかお許しを」

「十分に贅沢を味わってますよ」


 気遣われてしまった。


 後片付けを終えて峠を下る。滞りなく済ますことができたので、日の入りよりずっと早い時刻に街中へ戻ることができた。

 少し半端なお腹具合だったので、オステリアで何かつまんでからホテルへ帰ろうとしたら、次代様もお付き合いくださると言う。


「私では不足かもしれませんが、お供させていただければ嬉しいです」


 可愛い甥っ子(仮)はフラフラしている叔母さん(偽)が心配らしい。優しい子だわ。

 しかし、お心配りは嬉しいが、少し心配になる。


「長い距離の移動のあとに山登りもさせてしまいましたし、お疲れではないですか?」


 すると次代様はこぼれるような笑顔を浮かべた。


「全然。それどころか半年分の気力チャージをさせていただいたので、問題はありません」


 どうやら、次代様はいつの間にか自然の中で回復スポットに触れたようだ。半年分とはなかなかの量だが、元気になったのならよかった。

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