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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
歌う夏とルーナサの話
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カロリネ・パネトリエの優雅な仕事人

 カロリネ・パネトリエ。

 それがカオリーネの店の名前だ。この国の言葉で発音したカオリーネという名前、それがカロリネである。私の故郷だとまた違う発音になる。

 人の名前というものは、基本的にはその人の生まれた国の発音で呼びかけたいと思っているのだが、代行さんみたいな例もあってままならない。言葉は難しい。


「まあ、よくいらっしゃいましたこと。お久しぶりですわね、テア様」

「またお会いできて嬉しいです、クロエさん。なにか面白いものはありますか?」


 クロエさんは領都の店を切り盛りする、カオリーネの腹心の部下の一人だ。

 元々はバイヤーで、商品知識も豊富で説明上手な店長さんだ。この度、新店もできて三店舗分を見る統括店長に昇進したそうだ。

 国内の端から端へ、店舗の移動が大変そう。


「社長がギルの一族と契約してくださいましたから、移動は快適ですよ」

「王子様の送迎ですか」

「いつも労っていただいたり、褒めてくださるので心も安らぎます」


 クロエさんはほんのり頬を染めながら答えてくれた。

 タラシ馬、すごいな。機会があったら会わせていただこう。私も褒められたい。

 新商品情報を教えてもらい、いくつか見て手土産を決める。

 入荷したばかりという、エリカの花をかたどった砂糖菓子と、可愛い瓶に入ったマルメロのジャムとメンブリージョ。

 メンブリージョはマルメロのジャムをさらに煮詰めた硬めのゼリーだ。チーズと合わせて食べるといいおつまみになる。あの子たち、マルメロ大好きなのよ。

 試食もさせてもらったが、塩気の強いチーズとすごく合う。チーズは好みがあるだろうから、本人たちで合うものを見つけてもらおう。双子だけど微妙に好みが違うしね。


 東方から新茶が届いたばかりとのことで、サロンで新作のお菓子と共にいただくことにする。

 高原で収穫される紅茶の初摘みだそうで、普段飲む紅茶より薄い色をしている。代わりに、果実を思わせるような瑞々しい香りが心を落ち着かせてくれる。

 小さなサロンを併設しているこの店舗では、上質な紅茶やコーヒーの他に、ひと口サイズのガレットを楽しむことができる。

 他にも、オリジナルブレンドのハーブを使ったティザンヌもいただくことができるので、休憩するにはぴったりだ。

 ガレットはクロエさんおすすめの、サクサクした塩バターの焼き菓子と、甘さ控えめのチェリーフィナンシェ。どちらもフィンガーサイズで食べやすい。


「このフィナンシェ、刻んだドレンチェリーが隠れてるんですね」

「懐かしいでしょう?」


 何日も手間をかけ、浸透圧で水分がシロップに置き換わったドレンチェリーは、透明で美しいけど非常に甘い。

 しかし、アクセントで使われるこのフィナンシェは見た目も可愛らしいし、たまに顔をのぞかせるしっとりした甘さが好みだ。


「自家製なんですよ、このドレンチェリー。サロンのガレット専用なので数量限定なんです」

「それで果物感が残ってるんですね。ほんの少し酸味があるし、ゼリーみたいで美味しい」


 バターをたっぷり使った焼き菓子も美味しかった。

 雪のような粉塩が少しだけ振られた焼き菓子は、甘さと塩加減が絶妙のバランスで、後を引きそう。口の中でほろほろと崩れていく感覚も楽しい。

 でも、このあとも飲食予定なのでこのあたりで我慢しなければ。


「南の店舗は来月の水鏡の週にオープンですよね」


 八月の半ば、と聞いていたが、念のために確認をする。


「はい。プレオープンが一の日、正式オープンが五の日です」

「この夏は南方に滞在しますので、月末までには伺えると思います」

「まあ、社長も喜びますわ」


 お祝いの品、なににしようかな。南方で素敵なものが見つかればいいな。


「クロエさんはいつから南へ?」

「今月中には。ひと月ほど領都のお店を留守にしてしまいますが、優秀な後継者がおりますので安心ですわ」


 この分なら、南の新店舗にも優秀な店長さんが誕生してそうだ。

 グイメハムの本店と領都店ではだいぶ趣が違うし、新しい店舗はどんな雰囲気になるのか楽しみである。

 来月の再会を約束して、宿へ向かう。購入した本や手土産を置いて一休みしたあとは、鉱石商会へ足を運んだ。


「では、今月はいつもより早めの訪問に変更いたしますね」

「お願いします」


 石売りさんへ訪問時期の期日変更連絡をお願いして、店頭ではスタンダードな鉱石を注文、郵送手続をする。

 希少な鉱石は石売りさん個人で取り扱いが異なるので、店頭ではなかなかお目にかかることはできないのだ。色の濃さや含有魔力は実際に目にしないとにわからないしね。

 

 さて、用事は済ませた。

 今夜は存分に一人で飲み歩きをするのだ。友人とふたり並んで飲んだり、大勢で騒ぐように飲むことも好きな私だが、気まぐれに動ける一人飲みもこよなく愛している。

 入りたい店に入り、好きなものを好きなだけ飲んで、食べて、誰に釣られるでもなく自分のペースで酔えるのだ。最高じゃないか。

 馴染みの酒場も好きだし、新規開拓も楽しい。領都に来るのは年に数度なので、新しい店を見つけると入りたくなる。

 私の場合、一、二杯で切り上げるはしご酒スタイルだが、最後の締めはいつも同じ店だ。

 女性バーテンダーが暖かく客を迎えてくれるオーセンティックバーで、とても居心地がいい。

 オーナー兼用心棒は大山猫の幻獣さんだ。そのせいもあるのか、あの店で不埒な客にお目にかかったことはない。とても優しい方だが、従業員や客に迷惑をかける輩には容赦しないらしい。

 私は見たことがないが、視線ひとつ、舌なめずりひとつで凄まじい威圧をかけられるそうだ。

 あんなに優雅で美しい生き物の肉食獣的なアクションなんて、レアなシチュエーションではないだろうか。

 いつか自分にも見せてほしい。そんなことを口にしたら、二人ともに笑われてしまったけれど。

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