リザの祭りに踊る魔女
去年、私とキーラはカオリーネの里帰りに付き合って、北国の本格的な夏至祭ウッコユフラを楽しんだ。
他の同行者はローディとリヌスとダヴィッツ。
変わり映えのないいつメンだが、安定感のある友人グループである。
外つ国へ行ったのに、なぜかファーストダンスの相手はリヌスだったので、他の人と踊る機会を活用できなかったのが少々悔しい。
「順番からすると今年はダヴィッツかな」
「喜んで。お手柔らかにね、テア」
いつのまにかダヴィッツは側にいることが多い。猫のようだ。
しかも、今日はいつにも増してあざとくて可愛い。これで二十六歳にはとても見えない。
「こちらこそ、よろしくね」
ふと、視線を感じて周囲を見渡すとリヌスがこちらを見ていた。
すぐに目線を外し、キーラと和やかに話し始めたので、私たちの様子を確認したのだろう。
おひとり様四人兄妹のお兄ちゃんなので、末っ子のダヴィッツをいつも気にかけてくれるのだ。本当にいいヤツだ。
「薔薇のガムドロップありがとう。酸味と甘さのバランスが最高。柔らかめの食感と薔薇の香りがすごく合ってて、食べる度に幸せになれたよ。だからむちゃくちゃ頑張れた」
「無理しなかった?」
「途中たくさん休憩入れたから大丈夫だったよ。キーラと飲んだミントジュレップ美味しかったな。リヌスが差し入れてくれたんだ」
「そうなんだ。よかったね」
にこにこした顔で相槌を打ってくれた。
そのまま手を差し伸べてくれたので、自然にダヴィッツと腕を組むと、空いたスペースへとエスコートしてくれた。
「じゃあ踊ろうか」
マイアやカオリーネたち北国女子ほどではないが、私も小柄な方ではない。六フィートには三インチほど欠けるくらいだろうか。
この辺りに住まう男性としては小柄なダヴィッツだけど、同じくらいの身長なので個人的にはとても踊りやすい。
楽器にしてもそうだが、自分の持つ技術は横置きして、歌ったり踊ったりすることは大好きなのだ。
だから、こういったダンスパーティーの時間は気分が上がる。
「テア、楽しい?」
「めちゃくちゃ楽しい!」
「だったらもう一曲踊る?」
「いいの? やった、嬉しい! ありがと!」
魔女の習性か、私はワルツが大好きなのだ。三にまつわる物には問答無用で惹かれてしまう。三拍子のステップはいくらでも踏むことができる。
「そういえばまだ額に紋章が出てるね」
「本当? きっとダンスに集中しろということね。今日は倒れるまで踊っちゃおう」
「付き合うよ」
優しい。
代行さんと話したときも思ったけど、こんな風に優しくてしっかり者の弟がほしかったな。
ひとりっ子ではあるけれど、疑似という形で姉妹兄弟甥姪がいるのと思えばいいのか。そう考えると私は幸せ者かもしれない。
三曲ほどくるくると踊ったあとに一息をつく。
ちょうど曲調も変わったところなので、いいタイミングの休憩だ。空いたベンチに並んで腰を下ろす。
「相変わらず君はワルツしか踊らないんだな」
少し呆れた顔をしたリヌスがやってきた。
「ちゃんと教わったのはワルツだけなのよね」
「喉が乾いただろう。水分補給だ」
私とダヴィッツにグラスを渡してくれる。
黄色に近い美しいオレンジ色は微炭酸。
口に含むと柑橘類特有の香り高さの中、エルダーフラワーの爽やかな風味がかすかに残る。
後味がとても好みで、つい頬が緩んでしまう。
「ミモザに私のコーディアル使ってくれたんだ」
「ああ。美味しい?」
「すごく美味しい」
そう答えると、リヌスは嬉しそうに笑ってくれた。
こんなに美味しいのだし、作ってくれた人に味の感想を伝えるのは大事なことだと思う。
白のスパークリングワインにオレンジジュースを同量で合わせるだけのカクテルだけれど、こんな風に独自のアレンジをして手早く作ることができるなんて素敵すぎる。
頭のおかしい変態酵母オタクであることを数秒忘れてしまえるくらいには、リヌスは器用カッコいい。
「まだ踊るつもりはあるのか?」
「もちろん。次にワルツの曲がかかったら踊るよ」
「ダヴィッツが疲れてるようなら交代しよう」
「僕は大丈夫だけど」
「何人でもかかってらっしゃい。その勝負、受けて立つわ」
「勝負じゃない」
「なぜ君はそこまで武闘派なんだ」
失敬な。武闘派なのは私ではなく母の方なのに。
しばらくして、カオリーネとローディが合流してきた。
少しは進展したのか、カオリーネはぽやっとした表情でふわふわ歩いてきた。よかったね。あとでキーラと一緒にのろけ話を聞かせてもらおう。
「二人でお揃いのパンジーつけてるんだね。よく似合うよ」
「ありがとう。テアは誰かからもらわないの?」
無邪気に尋ねてくる精神面十二歳男児に、この野郎、とも思うが、今もらっても困るのも事実なのだ。
イラッときてごめんよ、十二歳男児。
「今はその時期じゃないのよね。まだまだ精進しなきゃいけないし、やりたいことが多すぎて」
みんなで夏至祭の出来事や料理やダンスについて報告し合っていると、キーラが見たことのある人を連れてきた。
「パーシーさん!」
「ご無沙汰しております」
相変わらず眠そうな目をしているパーシーさんだが、眠いわけではないようだ。地顔か。
「よい報告ができそうなので、こちらの村の夏至祭に間に合うように戻ってきました」
どうやら商談は上手くいったみたいだ。よかったよかった。
「大公国はいかがでしたか?」
「楽しかったです。いい契約もできましたし、いくつかの工房と友好を築けました」
聞けば、リキュールの他にも香水や化粧水の小瓶の契約を交わしてきたそうだ。
それも興味あるわ。南の辺境伯領も楽しそう。
「おめでとうございます。よかったですね」
「テアさんのおかげです。いただいたタリスマン、とても効果がありました」
パーシーさんは眩しげに私の額を見た。
「グイメハムの魔女殿の噂を、大公国でもたくさんうかがいましたよ」
「あら。いい噂だとよいのだけど」
もちろん、と答えたパーシーさんは鞄の中から綺麗な布の包みを出した。
現れたのはハーフパイントほどの綺麗で丈夫そうな瓶。中身は吸い込まれそうな深さの美しい菫色の液体が入っている。
「恋スミレのタンチュメールです。なにかにお役立てればと思いまして、実家から送ってもらいました」
希少な魔術素材の登場に、思わず小さく声を漏らした。
「そんな高価なもの、いただいてもよいのですか?」
「もちろんです。品質は保証しますよ」
恋スミレは術者の魔力により増幅効果のある変幻素材だ。色彩魔術にも用いることができる万能素材で、色も美しいし、人の心の鎧を解いてくれる力がある。
また、妖精族に好まれる香りを併せ持つため、異界へ繋ぐ扉を作るときの必須材料だ。
「いつか南へいらしたときは是非我が家へお越しください。家族総出で歓迎しますよ。お酒とお菓子でね」
よっしゃ、南方へ行った帰りに絶対寄る。
私のバカンス計画がどんどん増えていく。嬉しい。
「ところでパーシーさん、ワルツって踊れます?」
「初等科学校で習って以来ですけど、まあ一応は」
パーシーさんも踊り手として確保した。よしよし、挑戦者は多いほどいいのよ。
そんなわけで、友人たちと朝までくるくると踊ることかできて楽しかった。途中から勝負とかどうでもよくなってしまったけれども。
結局、女性パートに飽きた私と最後まで踊ってくれたのはキーラだった。
さすがだ、我が友よ。




