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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
リザの祭りと踊る初夏
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夏至前夜祭の荒ぶる魂と鎮める女神

 カオリーネと同じくらいの六フィート近くある長身に、淡いブロンドを長い三つ編みにした美女。

 ただし受ける印象はまるで異なる。

 私より鮮やかな緑色の瞳はいつも自信に満ちあふれているし、豪快な性格でありながら、おおらかで人好きのする落ち着きのある女性。それがグイメハムが誇る人気者、酪農家のマイアだ。

 家畜であり家族でもある乳牛や、羊や、山羊たちと心を通わせ、彼らに一族の首領と認識されている牧場主である。五つ年下の騎竜郵便士を夫に持ち、ゆったりと留守を守っている。

 マイアは集落のイベントには意欲的に参加して、取りまとめてくれる。

 そんな根っからのリーダー気質の彼女にいつもお世話になっている私は、今回もサマーパンチの給仕をお願いしてしまった。申し訳ない。


「気にしてはいけないわ。そんなことよりも夜にはちゃんと休憩に来るのよ。今日、明日の薬草摘みは大事だけれどあんまり夢中になりすぎないように。いいわね、テア」


 普段から姉のように接してくれるマイアだが、たまに母様より母親らしく感じてしまう時がある。好き。


「シダを摘みに行く前にはひと休みに来るよ。マイアのスフレオムレツ食べて回復するんだ」

「エビのヴォイレイパとリハプッラも用意して待ってるわ」


 マイアの言葉に、私のやる気メーターが振り切れる。

 去年、カオリーネとマイアの故郷に行った時、私たちは北国料理に魅せられた。

 マイアはグイメハムに残っていたので、キーラと一緒にあれが楽しかったこれが美味しかったと興奮しながら報告したら、笑いながら故郷の色々な料理を作ってくれた。

 ヴォイレイパは、北の国でよく作られるオープンサンドだ。トーストしたパンに具材を乗せるだけのシンプルなレシピが多い。

 マイアの作るエビのヴォイレイパは、スライスされたゆで卵にさっと火を通したエビと野菜を乗せてマヨネーズとディルを散らすだけなのに信じられないほど美味しい。

 同じように作ってるのに、私のものとはどこか違うのだ。それなりに美味しいのに同じようには作れない。不思議だ。

 リハプッラはいわゆるミートボールだが、外側はカリカリで中は柔らかくジューシーな、子どもから大人まで人気のある肉料理だ。特に肉汁たっぷり派には大歓迎されるだろう。

 マイア特製のリハプッラは、農場で作られる新鮮なバターミルクとサワークリームが使われていて、付け合せのブラウンソースもこれまた絶品という、人を狂わせる一品なのだ。


「マイア、愛してる」

「知ってるわ。私もよ」


 唐突な告白にも動じないマイアが好きだ。

 実は、マイアの従姉妹であるカオリーネ、キーラ、それに私の三人は、ブライズメイド仲間なのだ。

 マイアの結婚式で同じドレスを着てキャッキャウフフと盛り上がり、調子に乗って三人で色々とやらかした。

 それ以来、アホの子三人組とひと括りにされつつもマイアには等しく妹のように可愛がられている。

 ちなみに新郎側のグルームズマンはリヌスとダーヴィッツとローディという、いつメンである。

 新郎のエルンストを含めて四人ともがグイメハム生まれ、花嫁側は全員移住者というのが面白い。


 ともかく、夏至祭用のドリンクは提供完了だ。

 休憩の楽しみも増えたし、私は私のやるべきことをやろう。

 仮眠を挟みながら、ミッドサマーハーブの材料を集めていく。

 広場から流れてくる楽しそうな音楽や歓声に心が踊る。

 そういえば、王都の夏至祭は街中の至るところで音楽が奏でられる。

 大小のホールから街角まで、プロアマ問わずの演奏会を楽しむことができるのだ。

 楽器を演奏する才能はひと欠片もないない私だが、音楽を聴くことは大好きだ。

 王都で過ごすリザの祭りも楽しいので、いつかは音楽漬けの一日を過ごしてみようかと思っている。

 

 夜の九時。

 まだまだ青空が広がってはいるが、ようやく夕暮れの気配を感じ取れる時間になった。

 集落を見渡せる丘の上で焚き火の準備をする。

 摘み集めたハーブをひと抱え。

 異界と(うつ)し世を結びつける恋スミレを一オンス。

 オークの薪には祝福を。

 それに、忘れてはいけない日長石。

 オレンジ色の中に煌めく光を閉じ込めた、太陽を象徴する鉱石だ。

 この石に一年で最も強い朝日の力を取り込むと、魔術素材としても色素材としても使うことのできる万能石になる。

 近くをぶらぶらしていた菌糸の精霊に声をかけて、焚き火台の周辺にサークルを組んでもらう。

 直径十フィートほどの大きさに微かな空気の揺らぎの輪が浮かんで消える。

 これで儀式の執行者、つまり私以外の者は、サークル内のものを認識しなくなる。

 日が落ちて、朝を迎え、再び落ちるまでの丸一日の間、ずっと火を焚き続けるのだ。

 火は魔法炎の精霊によるものなので危険はないが、付きっきりというわけでもないので、念のための保険である。


 空にオレンジ色が広がってきたところで、今夜から明日にかけてのスケジュールを頭の中で確認してみた。

 太陽の三分の一が山影に隠れたら火を焚き始める。

 今夜はシダの花を探すという口実で森の中へ入る青少年が多い。

 はるか古代からの言い伝えによると、夏至祭の夜に一瞬だけ咲く赤いシダの花を見つけると稀なる幸せが訪れるらしい。

 夢見る若者には希望と夢を、恋人同士であれば、幸せな結婚と子孫繁栄が約束されるとかなんとか。

 

 シダは胞子植物だから花なんて咲かないけどな。

 

 だがしかし、あちこちでロマンスという名の恋の花が咲く。

 そんな中、私は粛々と薬草としての開き立てのシダを摘み胞子を集めるのです。ちくしょうめ。


 そんな私の荒ぶる心を鎮めるために、シダ摘みをする前には広場に下りて美味しいものを食し、喉の乾きを癒やすのだ。

 そうよ、ビールは裏切らない。

 明日の正午には太陽の力を一杯に溜め込んだカレンデュラを摘み終えたら、篝火で燻して魔女仕事は終了だ。

 燻す時間は数分だが、ハーブだけではなく煙自体も夏至の祝福を受ける。

 その祝福を煙に乗せて、その土地の豊穣と、住まう者たちのささやかな幸運を望むのだ。

 季節の境目にある祝祭を図案化すると、車輪のように区分けをすることができる。

 一年の車輪とも例えられる八度の祝祭。その度に魔女は祈り、願い、自然へ心を寄せる。

 私は、自分が魔女であることを誇りに思う。



「テア、お疲れさまー」

「あああもう! どいつもこいつも人前でイチャコラしやがってえええええ」

「荒ぶってる荒ぶってる」


 人と自然の敬虔な結びつきや高尚な思いなど、いとも簡単に消え去る低俗な私だ。

 恋人がほしいわけではないからそちら系の嫉妬はないが、人が働いているときに濃密なラブい空気を垂れ流されるのは我慢がならぬ。


「仲睦まじくなるのはいいけど、もうちょっと恥じらいを持てやコラ」


 器の小ささに我ながらムカつくが仕方がない。

 少年少女たちよ、もう少しお上品に行きませんこと?


「これでも飲んで落ち着け」


 目の前にアイスティーのようなグラスを差し出される。熟成された蒸留酒の香りに、高ぶった気持ちが宥められる。

 ミントの葉を潰したグラスに注がれたウィスキーと天然水。ミントリキュールのカンディスが底に光っている。


「リヌスのミントジュレップだ! 今まさに飲みたかったんだ。ありがとう、キーラ」

「君たちは真夜中頃にくだを巻き始めるから、これを持って二人で休憩しろって言われて預かってきたのよ」


 リヌス、いいやつ。

 でも私とキーラの行動と感情を読みすぎ。こわ。

 そんなわけで二人並んでベンチに腰を下ろした。

 言われたとおり、二人してイチャコラカップルへの意見を交わした後、解散する。

 キーラも揚げ菓子を作るので忙しいのだ。友よ、お付き合いありがとう。

 そう、キーラの出品料理は揚げ菓子だ。

 砂糖漬け林檎の入ったディスティニーケーキ。小さなドーナツのような揚げ菓子で、わざと形を歪にして作る。

 何がディスティニーかというと、このお菓子で占いができるのだ。

 大皿に盛り付けて、雑貨店店主のアニカの手により美しく刺繍された飾り布をかける。中身が見えない状態で手に取り、その形から運命を読み取るのだ。


 同じような夏至祭特有の占いに卵占いというものもある。

 生の卵を配られた器に割り入れて、その形や様子から未来を読み取る。

 その形が月に似ているとしよう。

 ラッキーアイテムとして月型の物を身に着けてもいいし、月の満ち欠けから成長を連想して精進してもいいだろう。

 ディスティニーケーキにしても卵にしても、占いの素養がなくても手にした者のインスピレーションでいいように考えればいいので、お気楽に話題にすればいいのだ。


 卵占いに使われた生卵はマイアが回収して、甘いオムレツと塩気のあるオムレツを作ってくれる。どちらもふわふわで美味しい。

 ディスティニーケーキはプレーンなものとキーラ提供の林檎入りのものがあって、そのまま食べても美味しいし、お好みでジャムを付けてもいい。

 私にとってこの二つはリザ・イヴの一番の楽しみなのだ。

 あとは少しのビールと美味しい料理でお腹を満たそう。それで余分な呪詛を出さなくて済むわ。

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