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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
リザの祭りと踊る初夏
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夏至の季節の魔女仕事

 人は誰でも魔力を持ち、その性質によって行使できる領分が異なる。

 例えば図書館長のエリシュカは典型的な魔術師だ。魔力を念話能力に全振りし、多くの精霊と対話することができる。魔術師は彼らを友とし、契約することによって様々な魔術を行使する権利を持つことができる。

 エリシュカは今でこそにこやかな図書館長だが、元々は軍に所属していた戦闘魔術師なので、攻撃力が極めて高い。普段も快活だが、戦闘スイッチが入ると更にアクティブになるから怖い。マジで怖い。

 高位精霊を召喚できる特化型の戦闘魔術師も恐ろしいが、全属性魔術総攻撃の欲張りセットを高笑いしながらぶっ放すようなオールラウンダー型のエリシュカも敵に回したくはない。


 そんなやべー魔術師のエリシュカだが、魔女ではない。

 魔女。

 それは植物に精通し、精霊と強固な信頼関係を築けた者に与えられる称号なのだ。

 十ニ歳を迎えた後の最初の新月までに指定の学位を取得し、精霊と永続契約できた者のみ得ることができる。

 私はウィッカレッスンで薬草学を修めたあとに、アカデメイアのギフトクラスで植物薬理学を学んだ。少ないながらも近しい年頃の魔女仲間や、年上の学友もできて充実した一年だったと思う。

 全員が論文の提出を終えた時だ。

 子ども組、とまとめて呼ばれていた私たちに、同じ研究室のお姉さんやお兄さんたちが渾身のお菓子パーティーを開いて労ってくれたことは生涯忘れない。

 彼らみたいな大人になりたいと思ったし、魔女になったら力をたくさん還元するんだ、とみんなで誓い合ったものだ。

 幸いにして私の家系は代々が魔女という母系一族なので、恵まれた環境を利用しつつ十歳を迎えた年に称号を得ることができた。そこから五年ほど色彩魔術師の修行をし、成人を迎えた日に独立。現在に至る。


 魔女の証は季節の祝祭の日に現れる。魔女にとって、季節の祝祭と季節の境目の祭事は非常に大切な行事だ。

 たとえば夏至の日。リザの祭りとも呼ばれるこの季節の祝祭は二日間ある。

 多くの魔女は、夏至前夜から篝火(かがりび)を焚いて太陽を称える。朝日に祈りを捧げ、太陽のパワーを体内に取り込むのだ。

 力は体内を巡り、循環している間は額に薄いトリスケルの紋章が現れる。これが魔女の証と呼ばれるものだ。

 太陽を敬い、月に従い、大地と共に生きる者にのみ与えられる、三の魔力。

 保有する魔力量や資質で個人差はあるが、祝祭の日の魔女は普段の数倍の時間、集中力を保つことができる。魔女の証が浮かんでいる間だけ持てる、特別な力だ。

 そんな有限のパワーアップタイムに魔女が勤しむこと。それが薬草摘みとハーブ仕事である。


 いわゆるミッドサマーハーブについて語りたい。

 植物の持つ力が一年でもっとも強くなる夏至の日に摘んだ薬草を篝火の煙でいぶしたもの。それがミッドサマーハーブだ。

 そのハーブを使い、太陽が出ている間に抽出や調合をした素材は特別な力を持つ。

 薬草の種類によって採取に最適な時間帯があるので、基本的に夏至祭二日間の魔女は忙しない。

 薄闇に包まれている間にマグワートやシダを摘み、朝露の降りる前にディルの葉を摘む。逆にヨハネスワートは朝露をまとったものがいい。

 日が高くなる前にワレリアナの根を採取する。

 太陽が最も高く登り、強力なエナジーを放つ正午には太陽の花カレンデュラ。

 陽が落ちてからは青い胡桃を収穫して、サムハインを祝う黒いお酒の材料にしたい。このノチーノと呼ばれる酒は、新酒と熟成させたものと飲み比べる楽しみがある。

 その他にもこの日に摘んでおきたい薬草がたくさんある。

 カモマイユ、プランティン、アルテミシアにミルフォイユ。

 アルニカも欲しいところだが、残念ながらグイメハムには自生していない。去年はカオリーネの故郷で摘むことができたんだけどね。今年の分は魔女仲間で交換会で手に入れる予定だ。


 そんなこんなで魔女仕事で忙しい二日間ではあるが、それとは別に夏至祭は楽しみたい私である。なにせお祭りごとが大好きな性分なのだ。

 夏至祭は広場に屋台が出たり、集落の料理好きが自慢の一品を持ち寄りながら、飲んだり食べたり踊ったりして一晩中騒ぐのだ。参加しない選択肢などない。

 そのためには意地でも時間を捻出する。それが意識低い系の大人として生きる私の毎年の目標である。

 明日は夏至前夜。焚き火の準備も終えたのでダヴィッツの店へ顔を出す。

 花屋の中は色とりどりの薔薇やパンジーに溢れていた。女性客が多いことも手伝って、いつにも増して華やかだ。


「盛況ね」


 お客さんが途切れたところで、麦藁色のふわふわした髪の店主に声をかける。ダヴィッツは振り返って笑顔を返してくれた。


「稼ぎ時だからね。パンジーは今日で売り切れそうだ」

「女子はロマンス好きだからねえ」

「男性客も少なくないよ」

「ロマンチストは男子の方が多いかもね」


 パンジーは恋の花。花びらの絞り汁を目蓋に塗ると、最初に目にした者を好きになる。

 なんて昔の戯曲に書かれたことから、夏至祭の間に夫婦同士や恋人や想い人へパンジーを送る習慣ができたそうだ。


「今年こそ一段階進んでほしいものだわ」


 ため息混じりに私がつぶやくとダヴィッツも苦笑する。


「ローディがパンジーを返すのはカオリーネだけだからね。いい加減気付こうよ、とは思うけど」


 周りから突くのも野暮だしねえ、と頷き合う。デーティングの関係にすらたどり着いていないモダモダを数年見せつけられている状態だが、こればかりは本人たちでどうにかしてもらうしかない。


「花園の開放はいつもと同じ時間?」

「子どもたちもたくさん来るからね。明るい時間から開けるよ」


 魔女だけではなく、夏至前夜の乙女たちも忙しい。

 泉から汲み置いた水に、昼間のうちに摘んだ花やハーブを浮かべて一晩だけの月光浴。この花の聖水は、月の光と植物の力が宿ると伝えられている。

 朝一番にこの水で顔を洗い、自然の力を取り込んで、昼間の一番長い日を迎えるのだ。

 夏至の日は多くの恋が生まれたり、理想の相手と出会えるきっかけが掴める日。無言で奇数の数だけ種類の異なる花を摘み、願いを込めて枕の下に入れるとあら不思議。未来の伴侶が夢に現れるそうだ。

 無意識に好いてる人を、おまじないという形で自覚させる手法だけど、ロマンチックでいいなと思う。

 去年のカオリーネは興奮しすぎて夢すら見なかったらしいけどね。うん。まあ、頑張れ。

 そんな風に忙しい女性たちや、森の奥へ入るにはまだ小さな子どもたちのために、夏至祭の二日間、ダヴィッツは店舗の向かいにある花園を開放してくれる。

 実はこの花園、販売用に育てているものではない。完全に自分が楽しむだけのためのスペースだ。普段はわけのわからない巨大食虫植物や、もぞもぞ動く大きな謎花がうろついているので色々と油断ができない。

 ただし、この時期に限っては夏至祭に合わせてまともで綺麗な花やハーブを植えている。小さな子どもたちが花冠を編んだり、少女たちが真剣に花を選んでいる姿は微笑ましい。

 チラチラ視界に入って主張してくるけどな、謎植物。


「で、今日はなに探してるの?」

「お勧めのエディブルフラワーあるかな。今年はサマーパンチを出すから彩りが欲しくて」

「エルダーのコーディアル使ったやつ?」

「うん。ベースが白葡萄とレモンのジュースのほうね。子どもたちも飲めるから」

「アルコール入りのパンチは作らないの?」

「勢いがあったら後半戦にノリで作るかも」

「期待してるよ。フルーツは何を?」

「柑橘類メインかな。これからアニカの店に行くんだけど、あれば青林檎も入れたいと思ってるんだ。時期的に最後だし」


 ふむふむ、と考える様子を見せながら、ダヴィッツは奥へ行くと、エディブルフラワーのボックスを手にして戻ってきた。中身を私に見せながら、提案してくれる。


「オレンジと黄色のマリーゴールドに赤のアンテリナムでどう?」

「素敵。鮮やかだし色合いが美味しそう」


 爽やかなフルーツがたっぷり入った黄色い微炭酸のジュースに、太陽の祝福を受けた花びら。いい。昼が一番長い日にぴったりの飲み物になりそう。

 ダヴィッツはあざと可愛い系美少年の皮を被ったマッドフロリストだが、おすすめに外れはないし、膨大な知識とセンスにいつも助けられている。

 支払いを済ませると、磨ガラスのような薄紙の袋に入れられたエディブルフラワーと一緒に、小さな包みを渡された。


「新作だよ。一足先にあげる」

「いいの? ありがとう」


 ダヴィッツは花を使ったキャンディやヌガーを作っているので、店内にはお菓子コーナーもある。可愛くて小さな色とりどりのお菓子に見惚れる客はとても多いのだ。


「開けてみて」


 言われるままに包みを開けた私は、思わず声を漏らす。

 小さな薔薇の蕾を閉じ込めた、半透明の丸い雫が五つ。一インチには満たない大きさだ。表面にまぶされたクリスタルシュガーがキラキラしていて可愛い。まるで宝石みたい。


「すっごく綺麗。これお菓子なの?」

「ローズウォーターのガムドロップ。君、いつも夏至祭の間は忙しいからね。二日間気持ちよく頑張れるように」


 薔薇の香りは気分を高揚させつつ、ストレスを緩和させる。そんなローズウォーターの効能以上に、私好みのビジュアルにハートを撃ち抜かれた。

 この子、気遣いの天才だわ。


「ありがとう。嬉しいな、めちゃくちゃ頑張れる」

「君は限度設定がおかしいから、頑張るのはほどほどにね」


 やんわり注意もされる。


「綺麗だし可愛いもの、このお菓子。ずっと眺めていたいな」

「気に入ってくれたならよかったよ。後で味の感想も教えてね」


 私は知っている。

 ダヴィッツの作る花のお菓子に外れがないことを。綺麗で可愛くて美味しいなんて最高すぎる。

 上機嫌のままアニカの雑貨店へ行き、首尾よく今季最後の青林檎を手に入れることができた。


 準備は万端。欠ける材料はひとつもない。

 仮眠を取る前に、薔薇のガムドロップをひとつだけいただくことにする。

 最初に味わうクリスタルシュガーはとても上品な甘さ。

 かすかに感じる酸味の正体は野薔薇の実のシロップだろうか。

 弾力のあるガムドロップを噛むと、薔薇の風味がより強く広がっていく。優雅な心持ちになると同時にふんわりとした多幸感に包まれる。これ、好き。

 まずはリザ・イヴの魔女仕事、しっかりと働こう。寝る前のご褒美もできたことだし頑張るぞ。

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