表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
リザの祭りと踊る初夏
17/58

夏の予定と冬の約束

「ごめんね、騒がしい連中で」


 テラス席に戻るなり、ロクランはすまなそうな表情になる。


「そんなことないよ。それにロクランのいつもと違う顔を見ることができて面白かった」


 時折、上司っぽい顔に変化する友人は新鮮だった。彼らに慕われている空気は感じたし、ロクランも面倒を見ているだろう様子は見て取れた。

 職場ではこんな感じなんだろうなあ、と想像しつつ、まだ見ぬ隊長さんを思う。

 話を聞く限り、ノリが良くて部下へのフォローも手厚そうだが、自身の副官には多大な苦労をかけてる気がしてならない。気の毒な友よ。


「……それならいいんだけど」


 そうつぶやくと、ロクランはほんのりと苦笑した。


「そんなに普段と違ったかな」

「少しだけね」


 くすくすとお互いに笑い合って、頼んだコーヒーを待つ。その間に備品とした場合の取引について聞いてみる。


「実はだいぶ前からその話は出てる」

「そうなんだ。私はいつでも対応できるよ」


「形式に沿って作ればいいだけの随意契約書類が、隊長を通した途端に君と君のバームへの熱烈なラブレターに改変されるから、依頼前に最終チェックを入れる財務部の契約担当者と戦争になっている」


 うわめんどくせ。


「私、詰所へ行商しに行こうかしら。個人利用分として直接買ってもらうなら手続き不要だし。それが一番簡単そう」

「危険だからそれだけはやめてほしい」


 真剣な顔で止められる。詰所ってそんなに危ない場所にあるのか。さすが国境。

 ひとつため息をつくと、ロクランは思慮深そうな青灰色の瞳をこちらへ向けた。


「俺たちとは別組織になるけど、国境警備隊の方から取引依頼があったら受けることは可能?」


 問題はない。独立してから最初に取引をした公的機関の関係で、軍の組織は一括で会計登録済だ。


「国境警備隊も国家憲兵総局の所管だよね。だったら大丈夫」


 それなら、とロクランは微笑んだ。


「さっきマルセルが言ったとおり、君のメディカルバームはファンというか信者が多い」

「ありがたい話ね」

「国境警備隊の連中にも評判が広がっているのは事実なんだ。だからそちら側から契約してもらうように誘導する。そうすれば、駐留してる部隊の人間も詰所の管理チームを通して使用できる」

「ああ、そっか。詰所自体は国境警備隊の施設だものね。了解」


 手短に打ち合わせをし、話がまとまったところで追加のコーヒーを頼む。


「ところで森ではなにを見るの?」

「植生と精霊の様子。ここは高地だからどんな様子かなと思って」


 人の動く気配がしたので奥のテーブルを見ると、三人組が席を立つところだった。

 今日の彼らは通常シフトでの休日なのだそうだ。小さく手を振ったら、三人とも満面の笑顔でぶんぶんと振り返してくれたので笑ってしまった。親しみやすい人たちだ。


「テアは今年の夏もトマト農家さんのお手伝い?」

「うん。せっかく現物支給してくれるからね。しっかりと稼いでくるよ」


 私の力強い労働宣言に、ロクランは面白そうに笑った。期待されてるようなので、ガンガン働いてロクランにもトマトの保存食をお裾分けしよう。


「他にも見たいところがあるんだ。だから来月と再来月は南方を回る予定」

「次に会う時のみやげ話を楽しみにしておくよ。俺は夏の間は通常シフトだ。他の連中と被らないように先に長期休暇を取ったから」

「バカンスは他の人たちに譲ったんだ」

「その代わり新年を挟んでの二週間は申請済。問題がなければ休める」


 なるほど、そうやって長期休暇を調整するのね。


「じゃあ、今年の新年前夜祭は故郷に帰るんだ」

「どうしようかな。まだ決めてはいないんだ」


 ロクランの故郷では、冬至祭にあたるユールタイドよりも新年前夜祭のほうが盛大に祝われる。


「私とキーラはユールタイドが終わったら一緒に帰省する予定。何回かは外に遊びに行くとは思うけど、怠惰な新年を過ごそうと思って」

「それはそれで魅力的な休暇の過ごし方だね。俺も十年ぶりに帰ろうかな」


 楽しげに微笑んだあと、ロクランは少し考えごとをする仕草を見せた。ちらりとこちらに視線が投げられる。


「よかったらホグマネイの花火を見に来ないか?」

「行きたい!」


 思わず反射的に返事をしてしまった。

 話には聞いていたホグマネイの花火。ロクランの故郷では観光客が大勢押し寄せる大イベントだ。

 来たるべき新年最初の日、ニーアデイをお祝いする盛大な火の祭り。トーチライトの行列や、真夜中の花火を楽しみ、豊穣を願いながら明け方まで新酒を飲み明かすのだ。

 見たことのないものは見てみたいのが人情。しかも地元の人の案内なんて最高だ。


「君の実家からだと少し遠いから、王都まで迎えに行くよ」


 至れりつくせりである。

 今の私の実家は、島国の王都にあるのだ。ロクランは北寄りの古都、キーラはアーフィスカという島の出身で、お互いに何度か行き来をしている。


「冬の楽しみがひとつ増えたわ。嬉しいな。誘ってくれてありがとう」

「どういたしまして。俺もすごく楽しみにしてる」


 ロクランも嬉しそうに同意してくれた。

 仕事柄、なかなかその時期はお休み取れないもんね。故郷での伝統的なお祭りも久しく見ていないだろうから、楽しみなのだろう。神様の気晴らしにはいくらでも付き合うよ。


 それにしても、まだ夏至祭前なのに、もう半年先の予定がぽつぽつ埋まり始めている。毎年楽しいけど、今年の後半も楽しいことがたくさん待ち構えていそう。

 うきうきとした気分のまま、カフェを出て森の散策へ向かう。グイメハムではあまり見かけない植物を確認したり、現地の精霊に挨拶をしたりしてるうちに六時の鐘が鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ